中国の食肉消費増がもたらす課題とフードテックの可能性〜豚肉消費は世界の半分以上

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世界の食肉消費の28%を占める中国。特に豚肉は年間5,400万トン(2016年)と世界全体1億トンのうち半分以上が中国で消費されている。

所得水準の高まりにともない、中国の食肉消費は今後も増加する見込みだ。シンガポールの銀行DBSは、中国の豚肉消費は2021年に5,800万トンに増加すると予想している。

1990年代の好景気以来、中国では食肉需要が右肩上がりで増え続けてきた。国連食糧農業機関(FAO)によると、中国人の食肉・乳製品の消費量は1日あたり300グラム以上。食肉のみでは、年間消費量は62キログラムに上る。1日あたり170グラムの食肉を消費している計算になる。中間層・富裕層が多い都市部では特に消費量が高いという報告もある。

中国における食肉消費がこのまま増加していけば、健康や環境問題の悪化を招く恐れがあるとして、環境活動家だけでなく中国政府も懸念している。2016年5月、中国政府は国民に向けた改訂版食事ガイドラインを公表。このガイドラインでは1日あたりの食肉消費は40〜75グラムが最適と記載されている。もし1日あたりの食肉消費量が75グラムである場合、年間消費量は27キロとなり、現在の63キロから大幅に減少することになる。

英ガーディアン紙は、もしこのガイドライン通りに食肉消費が抑制された場合、2030年には中国の家畜産業から発生する二酸化炭素は10億トン削減される可能性があると指摘している。何もなされない場合、同年には18億トンの二酸化炭素が排出される見込みだ。

このように中国における食肉消費は、健康だけでなく環境に大きな影響を与えるファクターとして、食に関わるさまざまなプレーヤーが関心を持つアジェンダとなっている。

2018年9月上海で開催された「2050中国フードテック・サミット」では、中国の食にまつわる課題とテクノロジー活用による解決方法が議論された。食肉消費の課題も「China’s Future Proteins」という議題でパネルディスカッションが行われ、植物肉や次世代タンパク質の可能性が示された。

この先中国の食を取り巻く環境はどのように変化していくのだろうか。フードテック・サミットでの議論から、その未来の一端を覗いてみたい。

中国の食の課題解決に期待、イスラエル発のフードテック企業

2050中国フードテック・サミットでは、食肉消費だけでなく、食の安全、中国の食トレンド、ブロックチェーンによるサプライチェーン、ミレニアル世代の食意識など食にまつわるさまざまなトピックが議論された。

食肉消費の増加による健康・環境問題の悪化に関して、解決手段の1つを示したのはイスラエルの植物肉スタートアップFuture Meat Technologies(FMT)だ。

「植物肉」を開発するスタートアップはいくつか存在するが、多くの場合肉の生産コストが高く中国のような巨大市場の消費需要を満たすのは現段階では非常に難しいといわれている。

FMTの創業者、ヤーコフ・ナミアス教授によると、既存の方法で植物肉を生産する場合、1キログラムあたり1万ドル(約112万円)の生産コストがかかるという。100グラムあたりでは11万円以上だ。一方、同社はコストを抑え、本物の肉に近い味を実現できる生産方法を開発。現在、生産コストを1キログラムあたり800ドル(約9万円)まで下げることに成功。2020年までに、1キログラムあたり5〜10ドルを目指すという。


Future Meat Technologiesウェブサイト

FMTは2018年5月に、シードラウンドでTyson Venturesなどから220万ドル(約2億5,000万円)を調達したばかりだ。Tyson Venturesは、フォーチュン100に名を連ねる米食品多国籍企業Tyson Foodsの投資部門。このほか、イスラエルの食品多国籍企業Neto Groupや中国のフードテクノロジー専門ベンチャーキャピタルBitsXBitesなどが資金を投じた。BitsXBitesは、2050中国フードテック・サミットの主催企業でもある。

温室効果ガスの14.5%は家畜産業から発生しているといわれている。牛や豚などが大量のメタンガスを発生させるほか、農場整備や肥料の利用で二酸化炭素が発生、温室効果ガスの割合は交通セクターより多いという指摘もある。FMTの植物肉が広く普及した場合、家畜産業からの温室効果ガスを大幅に減らすことが可能となる。

中国では食肉だけでなく、卵や乳製品など高タンパク質食品の消費も増加している。

しかし、食肉と同様に卵と乳製品もその生産過程で大量の温室効果ガスを発生させてしまうため、何らかの対策が求められている。

フードテック・サミットに登壇したイスラエルのInnovoproは「ひよこ豆」で、中国だけでなく世界のタンパク質摂取源を変革しようとしている。

欧米ではビーガン(菜食主義)トレンドの広まりによって、多くの植物性タンパク質を用いた食品が登場している。その多くが、大豆、えんどう豆、米から抽出したタンパク質を用いたものだ。


Innovoproウェブサイト

Innovoproが、広く使われているこれらの材料ではなくひよこ豆を使う主な理由は、味と機能に優位性があるだけでなく、アレルギーのリスクが少ないからという。

Innovoproのタリー・ネチュスタンCEOは、大豆、えんどう豆、米、これらの材料から抽出されたタンパク質には、独特の味がついてしまうもの、機能性に優れていないもの、アレルギーの危険があるものが多いと指摘。一方、ひよこ豆はアレルギーのリスクが低くなるだけでなく、必須アミノ酸と不飽和脂肪酸が豊富に含まれ高い機能性を有しているという。

同社はひよこ豆のタンパク質を使って、卵を用いないマヨネーズ、乳製品フリーのプリンやヨーグルト、ビーガンアイスクリーム、植物ミルクなどを開発している。

フードテック・サミットでは、米国のスタートアップTritonが海藻を使ったタンパク質食品の可能性を示したほか、カルフールとテンセントによるスマートストアLe Marcheの取り組みや新鮮な材料だけをデリバリーするEコマース321Cookingの取り組みが紹介され、中国における食とテクノロジーの新たな側面が浮き彫りとなった。また植物肉やアレルギーフリーのタンパク質食品など健康と環境を意識した新しい食のトレンドは、ミレニアル世代が中心となって醸成されていくだろうとの認識が共有された。

以前お伝えしたように中国ではマラソンやヨガなどのブームが起こっており若い世代を中心に健康意識の高まりが顕著になっている。また、エシカル消費が一部で広がりを見せていることから環境への意識も高くなっていることがうかがえる。世界中に大きな影響を及ぼす中国の食、この先どのように変わっていくのか、その動向から目が離せない。

文:細谷元(Livit

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