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多くの産業や業界においてデジタル化が進んでいる中で、「不動産業界」では膨大な紙資料でのやり取りやFax、対面によるアナログスタイルの手続きが今だに主流だ。
不動産業界では紙とアナログが常識となっていることをはじめ、従業員5名以下の小規模構成がスタンダードとなっていることもあり、企業独自の努力だけでは到底デジタル化は難しいといわれてきた。
そんな業界の当たり前を根本的に変えるために、ブロックチェーン技術を活用して不動産取引をデジタルに、そしてスマートにしようとする取り組みが登場した。
2018年9月25日に株式会社GA technologies(ジーエーテクノロジーズ)から、「ブロックチェーン技術」を活用した、「不動産デジタルプラットフォーム事業」について発表がされたのだ。
「AI×不動産領域」に強みを持つGAテクノロジーズ
まず発表内容に触れる前に、簡単にGA technologies(以下、GAテクノロジーズ)についてご紹介しよう。
GAテクノロジーズというのは、AIを活用した不動産支援ツール「Techシリーズ」をはじめ、不動産領域におけるAIやITを使った技術開発や運営に強みを持つ企業だ。中古不動産ポータルサービス「RENOSY(リノシー)」や不動産投資家向けのアプリ「RENOSY INSIGHT(リノシーインサイト・App Store/Google Play)」 などもリリースしている。
「AI×不動産」という技術面に強みを持ち、これまで中古不動産のリサーチから管理までなどをワンストップで手がけるツールを開発してきた同社が、ブロックチェーン技術を活用して不動産業界のデジタル化へと着手したのだ。
ブロックチェーンで不動産業界の健全化を目指す
発表の冒頭でおこなわれた代表取締役社長の樋口 龍氏(以下、敬称略)の挨拶では、不動産業界の抱える現状と、AIやブロックチェーンをはじめとする技術に対する期待として次のように語った。
樋口:今回このような発表をさせていただく背景には、「不動産業界がアナログな業界であるという大きな問題」があります。昨今、不動産業界で起こっている様々な問題を「IT・AI・ブロックチェーン」という技術を絡めることで解決し、健全な不動産取引を世の中に提供していきたいです。
さらに樋口氏は次のように続ける。
樋口:不動産のマッチングプラットフォーム自体は約20年前から存在していましたが、どうしても人の介入が不可欠でした。わたしたちのサービスでは、人が介在しなければいけないオペレーションにもテクノロジーを入れることによって生産性を上げていきます。不動産業務全体をテクノロジーで効率化していくのです。
不動産プラットフォーム事業に長年携わり、提供してきたGAテクノロジーズだからこそ、不動産だけでなく、関係が深い建築業界や住宅業界のアナログな部分もみえている。だからこそ、どのようにテクノロジー化すれば不動産領域全体が効率的になるかどうかが考えられるのだろう。
情報の分散管理から自動契約までを当たり前の時代へ
次に、ブロックチェーン技術を活用した不動産デジタルプラットフォーム事業について、同事業の総責任者を務める水上 晃氏から説明が述べられた。
水上: 契約内容や実行行動をプログラミング化することで、ブロックチェーンによってデータの分散管理だけでなくスマートコントラクト(契約の自動化)までの実現を目指します。わたしたちは不動産業界における「探す」「交渉」「契約」までを一貫してデジタルプラットフォームで実現することにより、誰でも簡単にWeb上で取引ができる時代を作り、不動産業界のAmazonになろうとしているわけです。
さらに水上氏は次のように続ける。
水上:この分野はアメリカやスウェーデンなどの海外ではすでに実証実験がおこなわれており、今後日本でも急速に進む可能性があります。まずは現行の法制度の範囲においてデジタル化が可能な賃貸取引の分野に特化して、申し込みから入居後の管理などを一元管理できるプラットホームを構築する予定です。すでに不動産領域におけるビジネスモデルとブロックチェーン技術に関する2つの特許を提出してます。
ブロックチェーン技術を活用する意義としては次のように説明をする。
水上:あまり知られていませんが、不動産業界全体でみると約86%が1〜4名の規模感で運営しています。CMやWeb広告の効果で大手企業が多いようにみえるかもしれませんが、実際は違うのです。小規模な企業ではどうしても人数が少ないため、トラブルも生じやすくなります。弊社がプラットフォームを市場に提供することにより、業界全体を上手くフェアトレードするような状態に持っていきたいというのが我々のコンセプトです。
終わりに、ブロックチェーン技術が不動産業界をはじめ、消費者に導入されるメリットについて以下のように語った。
水上:業界全体にブロックチェーン技術を導入するメリットとしては、これまでの紙プロセスをリノベーションして、契約までの最適化・正確性を上げることです。また今の若い世代はデジタルネイティブであることから、将来的には彼らが望むような形に不動産業界もマーケットが変化していく必要があると思います。早い段階からデジタル化された企業や業界に変化することで、将来の顧客となるデジタルネイティブ世代のニーズをいち早く満たせるとGAテクノロジーズでは考えたのです。
ブロックチェーンによる「不動産業界×他業種融合」の可能性
最後に水上氏と同社の戦略アドバイザーを務める増島 雅和弁護士によって、ブロックチェーンを利用するメリットなどについてトークセッションが開催された。
増島:ブロックチェーン技術を利用するメリットとしては、同じブロックチェーン台帳を管理することによるコスト削減やオペレーションミスの低下だけではありません。みなさんで同じ台帳を持ち、それに関心を持つ人たちがアクセスすることでエコシステムが誕生するのがブロックチェーンの考え方です。要するに同じ台帳を全員が閲覧することによって、不動産業界だけではなく、他業種の人たちからも「自分たちの業界と新しいビジネスを作れるのではないか?」、「自分たちの技術と組み合わせたら〇〇なことができるのではないか?」などの発想が出てくると予想しています。
つまりGAテクノロジーズの取り組みは、ブロックチェーン技術を使って不動産業界全体のサービスの質を向上させるだけでなく、将来的に他の企業や産業と連携する方法まで広く捉えようとしているのだ。
水上:賃貸契約に伴って、消費者のみなさんの周りでは電気やガスといった公共インフラの契約、ネット回線の開設など様々なやり取りが行われていると思います。私たちは、不動産に関わるあらゆるシステムをスマートにすることを目指します。
もしかしたら消費者を取り囲む不動産業界のあり方については、テクノロジーの進歩にともなって気がつかないうちにどんどん変化していくかもしれない。
AIやブロックチェーンがミレニアル世代の不動産との付き合い方を変える
GAテクノロジーズが今回発表した、ブロックチェーン技術を活用した不動産デジタルプラットフォーム事業では、不動産業界におけるデジタル化の推奨や管理の簡便化に注目が集まる。
将来的には、ミレニアル世代であるデジタルネイティブ層が、賃貸・持ち家とわず不動産契約人口の割合を伸ばしてくることに間違いない。不動産業界がいち早くブロックチェーン技術をはじめ、AIやITを使って顧客ニーズやライフスタイルに合ったサービスを提供できるかで、わたしたちが将来どのように不動産と付き合っていくかもきっと変わってくるだろう。