アリババの「未来農場」プロジェクトがスタート〜先端種子やドローンも

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世界5兆ドル(約560兆円)といわれる食料・農業セクターは、全労働人口の40%が従事しているだけでなく、温室効果ガスの30%を排出しており、経済・社会・環境に及ぼす影響は非常に大きい。

2050年には世界人口の増加とともに、カロリー需要が現在比で70%増加し食糧と家畜飼料向けの穀物需要は100%以上増加する可能性があると指摘されている。また農業向けの水が40%不足し、農耕地の減少が一層加速する可能性もあるといわれている。

食料・農業に関する将来予測は決して楽観的なものではなく、各国ではこれらの問題を防ぐべく、テクノロジーによる食料・農業革新を進めようとしている。

14億人という世界最大の人口を抱える中国では、より差し迫った問題であるといえるかもしれない。人口だけでなく、低い農業生産性、土壌汚染、水不足、農業従事者の減少、消費者の信頼の欠如など、食料・農業分野ではさまざまな問題が顕在化しているためだ。

アリババも参加する「未来農場」プロジェクトとは

そんななか中国Eコマース最大手アリババ、農業ドローンXaircraft、ドイツ医薬品・農薬大手バイエルの3社が持続可能な「未来農場」プロジェクトを開始するとして農業関係者らの注目を集めている。

この未来農場プロジェクトでは、今後3年かけて世界各地にモデル農場を開設、そこで3社の強みを組み合わせた包括的で持続可能な農業ソリューションを試験しビジネスモデルを構築する計画だ。

バイエルは2018年6月に625億ドル(約7兆円)で米農薬大手モンサントの買収を完了したばかり。農業化学分野における世界的なプレゼンスを一層強めるなか、未来農場プロジェクトで中国市場でも影響力をさらに高めたい考えだ。同社は種子開発や農薬開発を実施できる先端研究施設を有しており、その強みを未来農場プロジェクトで発揮することが期待されている。

一方、農業特化ドローンを開発する中国企業Xaircraftは、農地データの収集や農薬散布でその強みを生かすことになる。作物のデータから灌漑のタイミングや量を最適化し農業用水の無駄をなくすことが可能だ。また人手だと何日も要する農薬散布をドローンで行うことで、数時間で済ませることができ、かつ農薬や殺虫剤の利用を最適化し、過剰な利用を防ぐことも可能という。

アリババは「Rural Taobao」という地方に特化した流通サービスを活用しコストを下げつつ農産物流通を最適化する計画だ。

未来農場はこれから実施されるプロジェクト。今後3年でどのような結果を生み出すことができるのか、これからの動向に注目が集まるところだ。

農薬散布ドローンのイメージ

アリババ、農業を革新する人工知能ソリューション

未来農場プロジェクトでアリババは主に流通分野を担当することになるようだが、同社はすでに人工知能を活用した農業ソリューションを中国国内でローンチしており、未来農場でも導入される可能性が示唆される。

アリババ傘下で人工知能を開発するアリババ・クラウドが開発した「ET Agricultural Brain」は人工知能によって農業のさまざまなタスクを自動化・最適化するソリューションだ。基幹テクノロジーは、中国の公共交通やEコマースの最適化で使われているソリューションと同じものという。

このソリューションの恩恵を受けているのが中国の養豚産業だ。

米国農務省のデータによると、世界全体の年間豚肉消費量は約1億トン、そのうち中国では5,400万トン(2016年)が消費されている。世界の豚肉の半分以上が中国で消費されていることになるのだ。中間層の拡大で、牛肉などを含め食肉消費が増えることが見込まれており、中国国内では規模の拡大を計画する養豚業者が増えている。シンガポールの銀行DBSは、中国の豚肉消費は2021年に5,800万トンに増加すると予想している。

しかし養豚管理で広く使われているRFIDは管理に時間がかかるため、規模拡大の足かせになっているといわれている。

アリババの農業ソリューションは、この点を考慮し画像認識技術による養豚管理を実現。豚にRFIDを付ける手間を省き、大幅な生産性改善を可能とした。

画像認識に加え、リアルタイム監視システムを活用することで、頭数の把握だけでなく、豚の健康状態を随時確認でき、健康管理を行いやすくなった点も評価されている。また一定の運動量に達していない豚を探し出し、その運動量に達するまで運動させる監視システムも備わっているという。

アリババ・クラウドのプレジデントを務めるサイモン・フー氏はチャイナデイリーの取材で、200キログラムの豚ではなく、200キロメートル走った豚のほうが健康的で好ましく、新しい品質標準になっていると指摘している。

消費者の意識も大きく変化しており、豚肉を選ぶ際に価格より品質を考慮するという層が増えているようだ。コンサルタント会社Mintel Groupの調査によると、QRコードが貼られた豚肉を選ぶ消費者が増加していることが判明。このQRコードをスキャンすると、豚がどのように飼育されていたのかなどの情報を確認することができる。

アリババの人工知能農業ソリューションは、養豚だけでなく果物生産でも効果を発揮している。

果物生産ではそれぞれの果樹にQRコードを付与し、生産者はQRコードをスキャンすることで、水、肥料、農薬・殺虫剤などをどれだけ与えたのかというインプットデータを確認することが可能だ。またデータベースから、肥料の最適な量を知らせたり、土壌の質や気候からどの果物をどこで生産するのが最適なのかといった情報も提供することができるという。

テクノロジー導入が遅れているといわれる農業セクターだが、中国では機械化や補助金による農業ドローンの導入が進み、アリババだけでなくテンセントやJD.comなど大手テクノロジー企業が進出を開始している状況だ。未来農場プロジェクトを含め、野心的なプロジェクトがこれから続々登場する可能性がある。今後数年で中国の農業シーンは大きく変わっていくことになるはずだ。

文:細谷元(Livit

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