アリババとテンセント、モバイル決済の主戦場は中国から東南アジアへ

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中国の政府機関、工業情報化部が発表したデータによると、2017年1〜10月期中国国内の電子決済サービスを通じた支払い額は、前年同期比38%増の81兆元(約1,300兆円)に達したことが明らかになった。

世界最大の電子決済市場である中国。その市場シェアはアリペイとWeChatペイの2強が寡占している状態となっている。アリペイはアリババ傘下のアント・ファイナンシャルが運営、一方WeChatペイはテンセントが運営するモバイル決済プラットフォームだ。

中国のコンサルタント会社Analysys Internationalによると、かつて中国の電子決済市場ではアリペイが70%のシェアを占めていたが、WeChatペイの参入により、アリペイのシェアは58%に低下。WeChatペイのシェアは40%。

アリババの年次報告所によると、2017年のアリペイの登録利用数は5億2,000万人。ショッピングでの利用がほとんどだが、社会保障、交通、公共サービスなどでもアリペイを通じた支払いが可能で、すでに2億人が利用していると報告している。

一方、WeChatペイは月間利用者10億人ともいわれるソーシャルメディア「WeChat」内で使えることを強みとし、アリペイに差し迫っている。

中国国内では、アリペイとWeChatペイが市場シェアを奪い合う熾烈な競争を繰り広げているが、現在その主戦場は東南アジアにシフトしつつあるといわれている。東南アジアでどのような競争が繰り広げられているのか、その最新動向をお伝えしたい。

東南アジア、先行するアリババ、追随するテンセント

まずアリペイの動向から。アリペイを運営するアント・ファイナンシャルによると、同社はすでに戦略提携を通じて東南アジア10カ国、さらにはインドなど南アジアにも進出を果たしたという。

2016年11月、アリババとアント・ファイナンシャルはタイのフィンテック企業Ascent Moneyへの投資を発表。詳細は公開されていないが、米CNBCは、アント・ファイナンシャルがAscent Moneyの株式20%ほどを取得した可能性があると伝えている。

Ascent Moneyはタイ最大のコングロマリットといわれるCPグループ傘下の企業。電子決済のほか少額融資サービスを行っている。タイだけでなく、インドネシア、フィリピン、ベトナム、ミャンマーでも事業を展開している。

2017年4月には、アント・ファイナンシャルがインドネシアのデジタルサービス会社Emtekと電子決済の合弁事業を立ち上げることを発表。

まずはインドネシアでもっともインストール数が多いといわれるBBM(ブラックベリーメッセンジャー)アプリ内で利用できる電子決済サービスを開発するという。BBMアプリの月間利用者数は6,300万人に上るという。

同じく2017年4月、アント・ファイナンシャルはシンガポール発のEコマース「Lazada」の決済プラットフォームHelloPayを買収したことを発表。この1年前にはアリババがLazadaに10億ドル(約1,100億円)を投資し、80%以上の株式を取得している。

シンガポール地元紙ビジネスタイムズがiPrice Groupの調べとして伝えたところでは、月間平均アクセス数で見ると、マレーシア、ベトナム、タイ、フィリピンでLazadaは最大のEコマースサービスになるという。

Lazadaウェブサイト

また2017年11月には、フィリピンのフィンテック企業Myntの株式45%を取得。Myntが運営する「GCash」はフィリピン国内で400万人のユーザーを抱える同国最大のマイクロペイメントサービスだ。スマホで送金、支払い、寄付などが可能という。フィリピン地元紙マニラタイムズは、Myntの平均週間流通額は15億フィリピン・ペソ(約31億円)と伝えている。

最近では、2018年10月にマレーシアの金融大手CIMBの各店舗に導入されたQR決済サービスで、アリペイが使えるようになったと報じられている。

一方のテンセントも東南アジアでの攻勢を強めており、域内におけるアリババとの競争は激化の様相を見せている。

テンセントの東南アジア攻勢の足がかりとなったのは、タイのウェブポータル「Sanook」の子会社化だろう。2010年に49.2%の株式を取得していたが、2016年末にさらなる株式を取得し、Sanookを「テンセント・タイランド」とリブランドした。

2017年7月にはマレーシアでの決済ライセンス取得を目指すと発表し、翌年6月には同国でWeChatペイをローンチしている。

シンガポールでも市内の一部の店舗でWeChatペイが使えるほか、2018年7月にはチャンギ空港でも利用が可能となった。これに先立つ2017年9月、すでにアリペイが同空港で利用可能になっており、テンセントが追随する形となる。

チャンギ空港で利用可能になったWeChat(チャンギ空港プレスリリースより)

現時点でWeChatペイは、免税店、ラグジュアリーショップ、チャンギ空港オンラインショップを含め150店舗で利用可能。今年末までには、ほとんどの店舗で利用できるようになるという。

またテンセントは2018年4月に、マレーシアのサイバージャヤにデータセンターを開設することを発表。マレーシアを同社の東南アジア拠点にするという。

マレーシアではアリババがすでに政府との強力なネットワークを築いている。このため今後テンセントによる域内でのプレゼンスを高めるための取り組みの加速、それによる競争の一層の激化が見込まれる。

東南アジアでの攻勢を強めるアリババとテンセント。モバイルペイメントの利用者も順調に増えていきそうだが、地元住民による利用は少ないといわれている。現在のところ、東南アジアにやってくる中国人観光客が主な利用者となっているようだ。

伸びしろの大きな新興国が集まる東南アジア、総人口は6億5,000万人以上。中国発のモバイルペイメントサービスがどこまで普及するのか、今後の展開に注目していきたい。

文:細谷元(Livit

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