英語圏の大学で“中国版センター試験”「高考」の採用が急増するわけ

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世界各国には日本のセンター試験のような大学入学のための全国共通試験が存在する。米国のSAT、フランスのバカロレア、ドイツのアビトゥーアなどだ。基本的にこれらは試験実施国の大学入学を前提としたもので、海外の大学に留学する際は、留学先の標準テストを再度受験する必要がある。

一方、中国の大学入学統一試験「高考(ガオカオ)」は中国語で実施されているにも関わらず、英語圏の大学が採用するケースが増えており、世界の大学市場における変化の兆しとして注目を集めている。

世界でもっとも重圧のかかる大学入学試験「高考(ガオカオ)」

中国の大学入試共通試験「高考」。旧正式名称「全国普通高等学校招生入学考試」から付けられた略称だ。2008年から正式名称は「全国大学統一入試」に変更されたが、高考という呼び名は変わっていない。

1952年に導入された高考。1966年、文化大革命で中止されたが、1977年に再開された。

日本のセンター試験の受験者数は毎年55万〜58万人ほど。一方、高考の受験者数は900万人を超える。2017年の受験者数は940万人。そのうち700万人が大学入学を果たしたという。

日本と異なり、中国では原則、大学や専攻ごとの試験は実施されず、この高考の試験結果のみで合否が判断される。このため、受験生、その家族、教師は猛烈なプレッシャーにさらされる。試験日には緊張のあまり気絶する受験生もいるという。

タイム誌(ウェブ版)の2007年6月12日の記事では、高考を取り巻くさまざまな出来事に言及し、その熾烈さを伝えている。

広州市のある英語教師は、高考は世界の大学入試試験のなかでもっとも重圧のかかる試験だと説明。また試験期間(6月7〜9日)には、警察はパトカーでサイレンを鳴らすことが禁じられるという。受験生の睡眠の妨げとなるため、夜間の工事が中止されることもある。さらに、天津では女性受験者が月経で集中力を欠かないように、医者が避妊薬を処方していたという報道もあるようだ。

高考がもたらす影響が非常に大きいため、試験を作成する中国政府は厳重な管理を行っている。試験作成者たちは、秘密の建物に缶詰にされ、試験問題を作成する。試験問題は国内最高の監視レベルの刑務所で、囚人たちによって印刷されているという。このように中国政府は、試験問題の流出を防ぐためにあの手この手で対応している状況だ。

一方、試験当日のカンニングは毎年のように発生しており、政府はカンニングを抑止するために罰則強化などで対応している。

隣の席の人の回答を覗き見したことで、高考の受験資格を永久剥奪されるケースも少なくないようだ。また、カンニングをした受験生の名前は当局のデータベースに登録される。この受験生が将来、企業に就職しようとする際、雇用主はその事実を確認できるという。2006年には3,000人が高考のカンニング容疑で逮捕されたともいわれている。

中国人留学生の取り込みが本格化する英語圏の大学

このように国を挙げての大イベントである高考。この試験結果を大学入学の受け入れ条件とする英語圏の大学が増加している。

グローバルタイムズによると、カナダでは30校もの大学が高考を採用。オーストラリアのシドニー大学では2012年に高考のスコアを入学条件の1つとして採用したという。ニュージーランドのマッセー大学も同様に高考の採用を開始。

米国では2015年頃から、セントトーマス大学、サンフランシスコ大学、サフォーク大学などの私立大学が高考を採用し始めている。

2018年も高考の採用を発表する大学が後を絶たない。同年6月頃、米国のニューハンプシャー大学が高考の採用を発表。米国の公立大学として高考を採用する初の大学になるという。同大学の海外留学生に占める中国人の割合は半分を占めている。この先も一定の中国人留学生の割合を維持するための施策として、高考を採用したようだ。


中国語で高考に関する案内をするニューハンプシャー大学のウェブサイト

直近では、ニューヨークの私立アデルフィ大学とルイジアナ州立大学が高考の採用を発表。

両大学では、入学志願者は高考の試験結果のみで合否が判断され、英語力を測るTOEFLスコアの提出は必要ないという。アデルフィ大学では、中国人学生のための8週間の英語プレプログラムを提供しており、ここで一定の英語力を身につけることになる。また両大学では、高考のスコアに応じた奨学金(5,000〜1万5,000ドル)を提供する好待遇だ。

英語圏の大学が次々と高考を採用する背景には、世界の大学間の中国人留学生獲得競争の加熱があると考えられる。特に米国では、留学生の数が激減しており、減少分を補填する施策が求められている。一方、中国人学生にとって、米国は依然として人気の高い留学先で、その需要を取り込むために高考をアピール材料として採用する大学が増えているのだ。

米国務省の統計によると、留学生向けのF1ビザ発行数は、2013年53万枚、2014年59万枚、2015年64万枚と右肩上がりだったが、2016年に47万枚、2017年に39万枚まで減少している。

米国国際教育研究所(IIE)の米国インバウンド留学生に関するデータでは、サウジアラビアからの留学生数が2016年度の6万1,000人から2017年度には5万2,000人に減少していることが確認できる。サウジアラビア政府は、2016〜2017年にかけての原油価格の低迷を受け、留学生向けの奨学金予算を削減したといわれており、それが数字となって現れた格好だ。

このほか韓国が6万1,000人から5万8,000人に、ブラジルが1万9,000人から1万3,000人に減少している。日本も1万9,000人から、1万8,700人と若干の減少となっている。一方、中国からの留学生数は32万人から35万人と大幅に増加しているのだ。

国際教育機関NAFSAによると、米国に滞在する外国人留学生数は100万人を超え、その経済効果は369億ドル(約4兆1,000億円)に上る。全体の3分の1を占める中国人留学生は120億ドル(1兆3,000億円)以上もの経済効果を生み出している計算になる。

アリババやテンセントなど海外に進出する中国企業が増えるなか、専門知識を持ち英語と中国語を話せる人材の需要が高まっているといわれている。このため英語圏の大学を目指す中国人留学生は今後も増えてくると考えられる。これにともない高考を採用する大学も増えてくるはずだ。

文:細谷元(Livit

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