このところ欧州航空機大手エアバスのドローン分野の取り組みが顕著になっている。
シリコンバレーを拠点にするエアバス傘下のA3(Aキューブ)は2016年から1人乗り垂直離着陸機「Vahana(バハナ)」の開発を行っているが、2018年2月に実物大の機体による初の試験飛行を実施、無事成功したとして注目を集めた。この機体を使った空飛ぶタクシーサービスを2022年頃に導入する計画があるともいわれている。
1人乗りエア・タクシー「Vahana」(A3社プレスキットより)
2018年6月には西オーストラリアのウィンダム空港を太陽光ドローン「Zephyr(ゼファー)」の開発拠点にすることを発表。2018年下半期から試験飛行を行う計画だ。このゼファーは、成層圏を飛行し衛星としての機能を持つ「高高度・準衛星(HAPS=High Altitude Pseudo-Sattelite」と呼ばれるドローンだ。
太陽光ドローン「Zephyr」(エアバスウェブサイトより)
また最近では、インドネシアとシンガポールで医療物資輸送ドローンの研究開発を実施することを発表。同社が携わるドローン分野の幅を一層広げることになった。
エアバスはこの医療物資輸送ドローンの研究開発で、医療サービス会社インターナショナルSOSと提携。インターナショナルSOSのMedSupplyというサービスにドローンを試験的に導入するという。MedSupplyは、インターナショナルSOSが各国に配置するフルフィルメントセンターから救急医療に必要な医療機器や医療物資を運ぶサービス。フルフィルメントセンターは、シンガポール、マレーシア、オーストラリア、パプアニューギニア、英国、フランス、米国、ブラジルに配置されている。
今回、エアバスとインターナショナルSOSは、シンガポールとインドネシアを拠点にドローンによる輸送実験を実施する計画。都市部や地方などさまざまなシーンを想定した医療物資輸送の実験を行う。また、海上の船から陸地にドローンで医療物資を運ぶ実験も実施するようだ。
ドローンによる医療物資輸送は、インフラが整っていない地域での需要が大きく、すでに米国のZiplineはルワンダやタンザニアなどでサービスを提供している。エアバスの取り組みはこれに近いものになると考えられる。
ドローンによる医療物資輸送のパイオニア、Zipline
Ziplineは米カリフォルニアに拠点を置くロボティクス企業。2016年4月に、世界初となるドローンによる医療物資輸送サービスをルワンダでローンチした。このとき公開された第1世代ドローンは、最大1.5キログラムの医療物資を運ぶことが可能で、その飛行距離は往復120キロメートルに達した。この2年後、2018年4月同社は第2世代ドローンを発表。最大積載量は1.75キログラム、往復飛行距離は160キロメートルに改善された。また、第2世代ドローンのトップスピードは時速128キロとデリバリードローンとしては最速を誇るという。
Ziplineの医療物資輸送ドローン(Ziplineウェブサイトより)
世界保健機関によると、毎年630万人以上の子ども(5歳以下)が、簡単な処置で治療または予防できたケガや病気で死んでいるという。しかし、このような子どもたちが多く住む途上国ではインフラが整備されておらず、医療サービスが行き届いていない現状がある。交通手段、コミュニケーション、サプライチェーンが不足していることで、都市部から地方/遠方に必要な医療物資/サービスが行き届いていない「ラストワンマイル問題」を、Ziplineはドローンを活用し、解決しようとしている。
Ziplineが2016年にルワンダで開始したドローンによる医療物資輸送サービス。現在すでにその効果は数字になって現れている。Ziplineは2016年、ルワンダにドローン配送センターを設置。15機のドローンを使い、配送センターから21カ所の病院に血液や血小板を輸送している。
これまでの飛行回数は4,000回以上、総飛行距離は30万キロを超えたという。このうち3分の1は救急医療に必要な物資の輸送だった。またZiplineのドローンは、ルワンダの首都キガリ以外の地域における血液輸送の20%以上を担っているという。Ziplineによると、各地の病院ではドローンのおかげで常に新しい血液製剤を用意できるようになり、血液製剤の利用が175%増えたという。現在Ziplineはルワンダで新たなドローン配送センターを開設する計画だ。
また同社は、アフリカだけでなく、米国でもドローン医療物資輸送サービスを展開する計画があり、米当局と協議を行っているという。米国では、ハリケーン、山火事、洪水などで、医療物資やサービスへのアクセスが断たれるケースがある。Ziplineは、こうした課題をドローン輸送で解決したい考えだ。
近年、地震、台風、洪水などの自然災害リスクが目立つようになってきている。途上国に限らず、ドローンによる医療物資輸送は世界各地で求められるようになるのかもしれない。