住宅のUX改善。HOMMA 本間 毅が描くのは“人”がコネクテッドするコミュニティ

直感的に操作ができる、調べたい情報にすぐにたどり着く、ストレスを感じさせないページ遷移。ユーザーの体験をよりよくするためにWebやアプリなどの領域を中心に行われているのがUX改善だ。あらゆる領域で進むUX改善だが、まだまだ後進的な領域となっているのが住宅業界かもしれない。数十年前から様式の変わらない住宅は、はたして現在のライフスタイルに最適化されているといえるだろうか。

そんな課題意識から住宅業界にイノベーションを起こそうとしているのがHOMMAのFounder & CEO本間毅氏だ。本間氏が着目したのはアメリカの住宅業界だ。創業に至った背景やビジョンについて話を伺った。

バックグラウンドにある“点”がコネクテッドした

学生時代に起業を経験し、その後ソニー、楽天とキャリアを進めていた本間氏が、なぜHOMMAを創業したのか。きっかけについて本間氏が振り返る。

本間:「HOMMAは私にとって2社目の創業になるのですが、最初は学生時代に立ち上げたインターネットの会社でした。そのあとにソニーに入社して、アメリカに赴任していました。そしてアメリカに住んでいるときに楽天に転職しました

楽天の最後の2年間はシリコンバレーのオフィスで投資や買収、事業提携などビジネスデベロップメントの仕事を行っていたんです。そのときにシリコンバレーで、世の中にインパクトを与えるスタートアップやアントレプレナー、ベンチャーキャピタルの人などを多く目にする中で、僕もやってみようと思いました」

シリコンバレーでのスタートアップやアントレプレナーとの接触が、自身が挑戦する起爆剤となった。そして住宅業界に注目した点についてはアメリカ生活での実体験が大きいと語る。

本間:「10年間アメリカで暮らす中で、住宅に関する問題意識を抱えていたので、この領域でチャレンジしようと思うようになりました。衣食住の中の住でイノベーションが起きていないのは問題でありチャンスでもありました」

本間:「もう一つは、実は父方の祖父が建築家で、母方の祖父は建築資材の販売会社をしていました。なので、生まれ育った環境は建築業界そのものでした。また、日本の中には優れた住宅関連の設備や技術、会社が存在しています。自分のバックグラウンドに加えて、こういった日本の良さを海外にもっていくことで自分にしかできないイノベーションが起こせるのではと思いました」

自身のバックグラウンドから、アメリカの住宅業界という未知の領域でチャレンジを決めた本間氏だが、これまでの経験の多くが現在の事業に役立っているという。

本間:「楽天時代の一つの事業で電子書籍のkoboがありました。日本導入の担当役員をやっていましたが、出版業界からの反発がありました。今回も同様にアメリカの住宅業界の人から反発がありました。古い業界を変えることへの恐怖感や不安というのは、koboの経験から恐れずに挑戦できるようになっています。お客様を味方にすれば超えていけると思っています。また、ソニー時代の経験でいえばハードウェアに対してどのようなサービスを提供すればよいか、などの思考も今の事業に役立っています。

コネクティング・ドッツとよく言われますが、私の中でいえば、生まれ育った日本の住宅環境、ソニー時代の経験、楽天時代の経験などすべてが繋がっています」

ピボットするも、初心に立ち返った

アメリカの住宅業界に対する市場としての魅力、そして他国展開について本間氏はアメリカ滞在の体験をもとに語った。

本間:「アメリカの市場を選んだ理由は、住宅がイノベーティブでなかったというオポチュニティがあった点です。そして日本と比較してマーケットが大きかった点があります。日本は少子高齢化が進んでおり新築は増えませんが、アメリカでは年間69万戸の新築の戸建住宅のマーケットがありました。イノベーティブでなかったこと、サイズが大きかったこと、自分が住んでいた経験があったことがアメリカを選んだ理由です。

他国展開についてはもちろんなくはないのですが、サプライチェーンや建築基準、文化の違いなどがあり、そのまま簡単に横展開するというのが難しいので、慎重に考える必要があります。アメリカは大きいので、まずはアメリカで成功できれば他国でも挑戦していけると思います」

実際に事業開発を進める中で、困難はつきものである。HOMMAは現在の建売住宅という姿にたどり着くまでにどのような壁を乗り越えてきたのだろうか。

本間:「プロダクトマーケットフィットというものがありますが、作るプロダクトがちゃんと売れるものになるためにはどうすればよいか、という点が難しかったです。どういう価格設定やポジションにするか、どういうパッケージングにするかなどです。事業立ち上げ当初は住宅を建てようとしましたが、注文住宅は建てるのに2年程度の期間を要するということで、これを今からアメリカで何度も行えるのか、という疑問がありました。

そこから一度ピボットし、ハードウェアやソフトウェア、AI、サービスなど家の中のスマート化の方向に進みました。しかしそこにはAmazonやGoogleやAppleなどコンペティターが多く存在し、その中で戦うのは厳しいのではないかと感じました。そこから改めてもう一度住宅に立ち戻ったときに、建売だと思いました」

試行錯誤の末にたどり着いたのが建売住宅のモデルだ。建売住宅であればこれまで抱えていた課題を解決できると考えた。

本間:「建売は、自分たちが土地を買って住宅を建て、それを売るということなのでコントロールしやすく、同時に複数の住宅を建てられるなどスケールメリットもあります。一方で、そうなると重要になるのは事業資金です。例えば50軒家を建てようと思った場合、一軒5千万円だとしたら25億円かかるのです。なので、資金負担が重くのしかかるビジネスモデルになっています。スタートアップは調達した資金の中で次のステップにいかなくてはならないので、そういったプレッシャーはあります」

資金調達対策は投資ファンドの設立

初期投資の大きな建売住宅モデルで重要な資金調達への対策について、本間氏は投資ファンドによって乗り越える方針だ。

本間:「最初の何軒かはプロトタイプということで自分たちが調達した資金でまかなっていますが、ここからのスケールについては、我々のプロジェクトに特化した投資ファンドを創ります。これはエクイティファイナンスとは別で、直接会社に投資してもらうのではなく、ファンドをつくりそのお金をプロジェクトのために運用しリターンを戻すモデルです。

いまアメリカではプライムレート5%くらいで、銀行から借りると調達金利6%程度かかりますが、日本は金利がほぼゼロです。日本から借りて6%の金利を戻し、さらにプロジェクトのリターンがでればそれも戻していくモデルです。そうすると銀行から借りる審査などの工数が省けて、自由に使える資金が効率よく調達できます。ですので、いまは日本の企業からの投資ファンドをつのる準備をしています」

住宅の“UX改善”

HOMMAが強く押し出しているコンセプトにUX中心のデザインというものがある。HOMMAが提供するUX中心のデザインとはどのようなものであるか具体例を伺った。

本間:「中古対新築と考えた場合、今のアメリカの市場は中古がほとんどです。それこそ60年前に作られた家に2018年に住むわけです。このギャップはすごいと思います。例えばこれまでの家は、普通のリビングに加えてフォーマルリビングルームやフォーマルダイニングルームなどがありますが、実はほとんど使われません。年に2回くらいサンクスギビングなどの際に使う程度で、普段はほこりをかぶっているのです。

他にも、現在の子どもたちはリビングでラップトップを広げているので、勉強部屋がいるのかどうか。父親もソファで膝の上にラップトップをおいて仕事をしているため、書斎が必要かどうか。スマートスピーカーの設置場所なども、置き場所が必ずあるとは言えません。

つまり、これまでの家は現在のライフスタイルもテクノロジーも受容できていないのです。とはいえアメリカの家はスペースがたくさんあるのでそういった作りになっていたりするのですが、それもかえって掃除が増えたり物が増えたりなどの原因になり、ちょうどいいサイズにダウンサイズできていないというのもあると思います」

 

現在のライフスタイルやテクノロジーを受容していくことで住宅のUX改善を進めるということだが、各家庭に最適化させるパーソナライズもユーザー体験を向上させる要因である。建売というモデルに対して、パーソナライズとのバランスはどのように考えているのだろうか。

本間:「建売住宅はもちろん見た目が美しくて格好の良いほうが売りやすいし目をひきます。しかしその主張が強すぎると、パーソナルなデマンドに対しての回答がつくりづらいんです。デザインがこうだからと決まってしまうので。ですので、我々はあまりペルソナを絞りこみすぎないように、一定の人たちの使い勝手を考えたうえで、優れたデザインでありつつあまり主張しすぎないデザインにすることで、個人の要素を各家庭がつくっていけるような状態を目指しています。

通常の建売住宅はできることが少ないですが、よりプレーンな形で多目的につくることでパーソナライズを個々に行いやすくしています」

パーソナライズについては多目的な余白をつくることで実現を図っている。さらにもう一つ気になるのがテクノロジーの進化にともなう拡張性だ。今後新たなテクノロジーが生まれることを想定した住宅のアップデートに関する要素について伺った。

本間:「スマートロックやコネクテッドライトスイッチやエアコンのコントローラーなど、コネクテッドな要素があるものをいれていますが、その際に5年、10年もつものなのか、3年くらいで変える必要があるかということを考えています。例えば壁のスイッチやドアロックなどは5年10年もつものだろうと。そこは完全にインストールします。しかしスマートスピーカー対応などは20年後はわかりません。そういったものは完全にインストールせず、どう置けば自然かということを考えておさまりを意識します。

さらにいえば、現在のスマホアプリとボイスコントロールですべてを操作するというのはベーシックな部分だと思っていて、その先をつくろうとしています。それは、人間の動きや環境の変化に合わせて家が自立的にそういったコントロールを行うということです。ですのでハードだけでなくソフト面での拡張性を考えています。ハードですべて対応するというのは効率が悪いので、ソフトも組み合わせていくことが拡張性を高めることだと考えています」

人と人とのコネクテッド

建売住宅モデルの魅力としてコミュニティ単位で展開できることもある。コミュニティ単位で展開する際に、スマートホームだからこその新たなつながりやコミュニケーションを生み出すことも視野に入れている。

本間:「僕らのコンセプトの中にコネクテッドホームというのがあります。普通に考えると家がネットにつながるコネクテッドですが、人と人がつながるコネクテッドでもあります。家の中でいえば家族、コミュニティでいえばご近所などです。

例えば、オーナー向けのアプリを創ろうと考えています。これはクローズなコミュニティの中でコミュニケーションがとれる場所になります。コミュニティの人たちが楽しく安心して暮らすためのつながりを生み出したいと思っています。

また、コミュニティ内でシェアサイクルであったり、個々にガレージをもたずに共有スペースを作り、そこから自動運転で家の前までやってくる、他にも各家のセキュリティ情報やデータをつなげることでセキュリティ性を高めたり、停電情報などをシェアしたりなどコミュニティをスマート化させることで、いろいろなリスクを減らすような取り組みができると思っています」

建売住宅というモデルを活かして本間氏が描いているのは住宅単体のUX改善にとどまらず、家と家、人と人がコネクテッドされることで形成される新時代のコミュニティだ。

(取材・写真・文)木村和貴

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