「ミレニアル世代は疲れている」――ベッドを出たがらない若者たち

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パジャマのままでソファーに座り、デリバリーアプリで注文したアルコールを飲みながら、ネットフリックスのTVドラマをビンジウォッチング(一気視聴)――ミレニアル世代を中心に外出しないライフスタイルが増えてきている。

オンラインショッピングやビデオストリーミング、そして自宅でのリモートワークが増えてきた現在、ネット環境さえ整えば、家から一歩も出なくてもすべてが完結するからだ。

一方で、現代の速すぎる生活リズムや激しい競争の中、若者の疲労をその原因に指摘する声も上がっている。


家でビデオストリーミングを見ながらリラックスするのが最大の娯楽に(写真:Pinterest)

ベッドから出る時間を最小限に

ニューヨークのブルックリンに住む26歳のヒラリー・ベントンさんは、自らのブログの中で「ベッドから出る時間を最小限にする方法」を紹介している。

「ティップスその1:ベッド脇のバスケットに朝夜のスキンケア製品を入れておく。顔を洗った後すぐにベッドに戻って、残りのルーティーンをベッドでできるように。ただし、顔は水で洗うこと。そこは微妙な線。・・・・・・ティップスその5:コーヒーメーカーをベッドから手の届くところに設置すれば、足を床に付けずにコーヒーを作って飲める」

一方、同じくニューヨーク市在住の32歳男性は米タブロイド紙『ニューヨーク・ポスト』に対し、「週末はあれやこれやしないで、リラックスする時間」とコメント。普段はメディア・プロダクションで勤務しているが、「家に帰ったら、もう外には出たくない」と述べている。

女の子と外でデートするより、家で「Netflix and Chill」がトレンドだという。この「Netflix and Chill」というスラングは、「ネットフリックスをみてくつろぐ」「ネットフリックスをみてセックスする」を意味している。

米労働統計局がこのほど発表した「アメリカ人の時間の使い方に関する調査」によると、ミレニアル世代(18~24歳)は全世代より70%多くの時間を家で過ごしていることが分かった。また、調査会社の「カンターTNS」の調査によると、ミレニアル世代(同調査では16~30歳)は1日に2.7時間を動画視聴に費やしており、X世代(31~45歳)の1.8時間を上回った。また、モバイル・デバイスに費やす時間もミレニアルは1日に3.1時間と、X世代の1.7時間を大幅に上回っている。

「ネットフリックス」や「アマゾン・プライムビデオ」に代表されるビデオストリーミングが浸透する中、家で映画やTVドラマを視聴するのが主流となっているほか、週末にTVドラマなどを一気見する「ビンジ・ウォッチング」もミレニアル世代を中心に定番の在宅エンターテイメントになっている。

あらゆる「ハウツー」をアップしている「WikiHow」では、「ビンジ・ウォッチングの楽しみ方」を紹介しているが、まずは準備段階として「1. スケジュールを空ける。2. リクライニングできる椅子やカウチなど、快適な場所を決める。3. 冷蔵庫にスナックを蓄える」といった“引きこもり体制作り”を勧めている。


出典:KantarTNSのデータより筆者作成

「家飲み」が増加、アルコール・デリバリーが盛況

家中心のライフスタイルを楽しむ世代は、当然飲みに出かけることも少ない。彼らはレストランに行くよりもフードデリバリーに多くのお金を費やしているという。2018年6月に実施された「Mintel」の調査によると、24-31歳の世代のうち3分の1は、「外に出るのが億劫だから、家で飲む」と答えている。54-72歳の世代で「外に飲みに出るのは億劫」と答えた人が15%にとどまったのを見ると、「元気がないのう・・・・・・」という声が聞こえてきそうだ。

ただ、全世代を含むアメリカ人全体でも「家飲みが好き」と答えた人は55%に上っており、家で飲む理由としては、「リラックスできるから」(74%)、「安上がりだから」(69%)、「アルコール摂取量をコントロールし易いから」(38%)を挙げている。ある男性はこの他にも「長い行列、遅いカウンターサービス、態度の悪いスタッフ、嫌気のさすニューミュージック、女性客と男性客の人数のアンバランス・・・・・・」などをナイトクラブに行かない理由として挙げている。


「家飲み」派が増える中、アルコール・デリバリーサービスが大盛況(写真:Minibar)

男性も女性も「家飲み派」が増えていることを受け、様々なフードデリバリー・サービスが台頭。特にアルコール飲料のデリバリー・アプリが急増している。中でも急成長しているのがロサンゼルスを本拠地とする「Soucey」。スマホのアプリで注文すれば、30分以内にアルコール飲料やタバコ、アイスクリーム、チップスなどを配達してくれる。2014年に設立されて以来、1,020万ドル(約11億6,200万円)のファンディングを得て、現在ではカリフォルニア各地のほかシカゴに事業を拡大しているという。

「Drizly」も全米95都市のリカーショップと提携し、アメリカ26州のほかカナダでもアルコール・デリバリーサービスを展開。オーダーしてから1時間以内に商品を配達してくれる。

ほかにも「Minibar」「Swill」「Tipsy」など、ニューヨークやロサンゼルスといった大都市を中心に多くのスタートアップが台頭している。こうしたアルコール・デリバリーサービスの多くは地元リカーショップとの提携で成り立っており、店舗や在庫を持たないケースがほとんど。このため事業参入が容易で、最近では乱立気味の様相さえみられる。

みんな疲れている

動画ストリーミングサービスとデリバリーサービスの充実は、ミレ二アル世代が外出しないポジティブ要因だが、『ニューヨーク・ポスト』によると、ある精神科医は「疲労」をネガティブ要因として挙げている。若者の間で疲労を訴えるケースが急速に増えてきているという。ニューヨーク市ブルックリン在住の22歳の女性は、「仕事では外に出てソーシャルになることを求められる。オフの時間にはそういう自分を完全に切り替えて、ただただ座って快適に過ごしたい」と述べている。

ミレニアル世代の経済問題も一つのネガティブ要因だろう。この世代はサブプライムローン問題やリーマンショックの影響をもろに受け、グローバル化に伴う貧富の格差を目の当たりにしてきた世代。大学を卒業しても多額の学生ローンを抱えていたり、親と同居していたり、経済的に厳しい状況にある人が多く、堅実な考えを持つ傾向にある。

外出してお金を使った挙句、次の日に疲労と二日酔いで寝込むぐらいなら、快適なソファーでちょっといいワインを飲みながら、大好きな映画やTVドラマにふけるほうがいい・・・・・・と考えるのは、自然な流れかもしれない。

一歩外に出ると、そこには大気汚染や人込み、はたまた経済不安やテロの脅威にもさらされる。一方で、自宅で楽しめるエンターテイメントや各種デリバリーサービスの選択の幅は広がるばかり。

ひとたびスマホを開けば、SNSアプリで友達ともつながっているし、自宅で運動だってできる。「太陽の光を浴びないと、不健康なのでは?」という質問に、前述のベントンさんはこう答えている・・・・・・「SADランプ(光療法用のランプ)を買えばいい!」。

文:山本直子
編集:岡徳之(Livit

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