政府がすすめる働き方改革では、出産を控えていたり子育てをしている女性でも仕事を続けられる社会づくりを目指している。
とはいえ、実際に働く女性にとって有益となるような働き方改革が実践されている企業は、まだまだ少ないのではないだろうか。保育園が見つからない、と頭を抱える母親の声は、未だにニュースなどでよく聞かれるところだ。
そんな中、子育て中でも柔軟に仕事ができる環境作りを目指した新しい働き方プロジェクトが始動。熱い注目を集めている。
子育て中のママが活躍するデザイン設計チームFINTY(フィンティ)始動
ブライダル施設のリニューアルデザイン設計などを手掛けるデザイン設計事務所「株式会社ディーアンドエス」は、子育て中のインテリアデザイナーや建築家、インテリアコーディネーターたちによるデザインチーム「FINTY(フィンティ)」を2018年4月に立ち上げた。
このチームが設立された経緯は、結婚や出産といったライフステージに変化の生じるタイミングで、せっかくキャリアを積んできた女性の多くが、大好きな仕事を辞めてしまう例を同事務所が見てきたからだ。「業界のみならず社会的に大きな損失なのではないか」との思いで、チーム立ち上げに至ったとのこと。
株式会社ディーアンドエスでは、女性が結婚や出産を機に仕事を辞める主な要因が、「デザイン設計の仕事のバランスと、家庭との両立が極めて難しいという仕事の進め方にある」と考察した。
2017年からインテリアや建築の仕事に携わってきた方々を中心に、「どうしたら子育てしながら仕事をつづけられるか」を課題として「働き方座談会」を開催し、ヒアリングを続けてきた。
FINTYには、そこであがった意見が反映されているとのことだ。
時間に縛られることなく柔軟に仕事が可能。FINTYの特徴とは
FINTYは、フリーランスとして働く人たちがそれぞれの専門職を活かし活躍するプロフェッショナルのチーム。
最も大きな特徴は、「タイム(時間)を分けるパートタイム」ではなく「ワーク(仕事)を分ける『パートワーク』」を志向している点にある。
FINTYでは事務所を持つことなく、役割分担を明確に定めたチームワークとIT技術を駆使したコミュニケーションによって在宅ワークスタイルで仕事をすすめていく。
結婚をして出産を控えていたり子育てをしていたりする女性にとって、働く際の一番のネックとなるのは労働時間だろう。子どもの世話をする必要上、職場に長時間縛られる仕事は難しい。
仮に保育園に入れられたとしても送り迎えの時間がある。時間を縛られない働き方は、結婚・出産を控えながら働き続きたいと考える女性にとっては魅力的だろう。FINTYのその他の特徴として、以下の点もあげられる。
- 属することなく柔軟に仕事を選択できる場
- フリーランスでも福利厚生制度が受けられる
- 似た境遇のメンバーたちが集まり情報交換するコミュニティ
サイトオープン時のアクセスが25倍に。FINTYへの注目度と今後の展望
FINTYでは、9月にメンバー募集サイトを開設したところ、ホームページへのアクセスが通常の25倍を記録したという。
さらに首都圏だけでなく、関西や海外からも応募や問い合わせが相次いでいるとのこと。それだけ、仕事を渇望する女性が多いということだろう。
FINTYでは、現在子育て中の女性3名がメンバーとして活動している。現時点では、株式会社ディーアンドエスの実働チームとして仕事をしているが、今後は以下のような働き方を目指しているという。
- メンバー増員によりこれまでメンバー個人として請けるのが難しかった案件を他のメンバーと協力して対応
- メンバー同士でチームを組みデザインコンペに参加し仕事につなげる
- 他のデザイン設計事務所のサポートや、様々な仕事依頼の受付
株式会社ディーアンドエスではメンバーが、FINTYの一員であるということが自身のブランディングにつながる様にしていくとのこと。
さらにFINTYでは、チーム作りのノウハウを他の設計事務所や企業へ提供することも視野にしていると言う。働き方改革の進め方に悩む企業にとっては、力強い助けになりそうだ。
女性によってもそれぞれ、希望するワークスタイル
女性の中でも人によって希望するワークスタイルは色々と異なるようだ。
リビング新聞グループのシンクタンク「株式会社リビングくらしHOW研究所」が、40代までのフルタイムワークで働く女性(有効回答数:362)を対象として2018年1月に実施したアンケート調査によると、継続雇用制度を利用して定年後も企業で働き続けたいと考える女性は37.1%、そう思わない女性が31.0%、分からないという女性が32.0%とほぼ均等に別れた。
また条件を満たせば有期労働契約から無期労働契約へ切り替えられる「無期転換ルール」を使って、雇用安定などを求め現在の勤務先で無期転換したいと考える女性は約6割、そう思わない女性も約4割と、こちらもそれほど差がつかずに拮抗した。
無期転換したい主な理由として「雇用の安定」や「慣れた仕事を続けられる」という回答が多かった一方で、希望しない理由として「現在の立場のほうが働きやすい」「現在の勤務先で長期で働くことを望まない」などの声が多かった。
このように、女性によっても仕事に対する考え方が大きく異なるようだ。
働きたいと考える女性が、その希望を叶えられる社会へ
ここ数年、話題にあがることが多い働き方改革であるが、企業でのその成果はまだ十分とは言えない。結婚や出産を控えながらも働きたいと考える女性の多くが、その希望を叶えられずに退職してしまう例は未だに多い。
彼女たちに活躍してもらうためには、時間などに縛られる既存のワークスタイルとは異なる働き方が必要となることは、誰の目にも明らかだ。そんな中で、今回紹介したFINTYのような活動が成功し、ひろがっていくことを期待したい。