中国でドローン産業が盛り上がっている都市といえば、ドローン世界最大手と呼ばれるDJIが拠点を構える広東省深セン市を思い浮かべるかもしれない。
しかし中国ではいま各都市でドローン産業を促進する動きが増えており、深センに続くドローン都市が誕生しつつある。
その1つが上海市だ。中国のCCIDコンサルティングが発表した「人工知能都市ランキング」において北京に次ぐ2位となった上海。
同市からBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)のような巨大テクノロジー企業を輩出したいという思惑があり、有望なテクノロジー企業を呼び込むためにさまざまな施策を実施。その一環でドローン企業の育成・誘致にも注力している。
2018年8月末、上海市は同市の金山インダストリアルパークでドローンの研究開発を促進させる「華東ドローン基地」をオープンした。固定翼ドローン向けの長さ800メートル、幅3メートルの滑走路を2本、また研究開発用の施設も備えられている。
飛行可能領域は58平方キロメートル。これは東京世田谷区と同じ広さだ。将来的に製造・組み立て施設も追加される可能性があり、研究開発から産業化までを一手に担う重要拠点として期待が寄せられている。
また今後、海上を含めた200平方キロメートルもの飛行可能領域を追加する計画もあるという。
「華東ドローン基地」(上海金山区ウェブサイトより)
このドローン基地のオープンに先駆け、金山インダストリアルパークでは2018年5月にアリババ傘下のデリバリーサービス「餓了麼(ウアラマ)」がドローンを使ったデリバリーを開始。
この施策では、予めドローンの飛行ルートと着陸ポイントが複数決められており、ドローンはそのなかで注文者にもっとも近いポイントに着陸できるルートを飛行、着陸後配達員が注文者にデリバリーする。
ドローンデリバリーの平均配達時間は20分。通常より10分短縮させることに成功したという。2018年5月時点で、域内で17の飛行ルート・着陸ポイントが承認されている。
餓了麼のデリバリードローン(上海金山区ウェブサイトより)
餓了麼は2008年に設立された上海発の企業。2018年4月にアリババの完全子会社となった。アリババは現在、次世代ロジスティクスの構築に向けて多大な投資を行っている。餓了麼のドローンデリバリーはこの次世代ロジスティクスの一端を担うものと考えられる。
アリババ傘下のサウス・チャイナ・モーニング・ポストによると、アリババは次世代ロジスティクスの構築に向け1,000億元(約1兆6,500億円)を投じる計画を明らかにしている。
中国国内であれば24時間以内、グローバルデリバリーでは72時間以内の配達を目指すという。これにともない配達ロボットやドローンの開発・運用も加速していく見込みだ。
次世代ロジスティクスの構築を目指すのはアリババだけではない。上海市では2017年5月に、次世代ロジスティクスの研究開発を促進する「ロジスティクスIT・国家研究開発ラボ」が開設された。
速達・宅配大手のYTOエクスプレス(圓通速逓)、政府研究機関の電信研究院、通信大手のチャイナユニコム(中国聯通)など6社・機関が共同で設立した研究施設だ。
人工知能やロボットなどを活用した倉庫管理やデリバリーの自動化を研究する。ドローンによるデリバリーも研究テーマの1つとなっている。YTOは今後3年で1億元(約16億5,000万円)以上を投じる計画という。中国のロジスティクス分野では国内初の取り組みといわれており、その研究成果に期待が寄せられている。
上海市は、世界のイノベーションセンターとして、また国際物流拠点としての地位を確立することに躍起になっており、ロジスティクスやドローン産業を促進する取り組みは今後一層加速しそうだ。
文:細谷元(Livit)