中国・人工知能都市ランキング15、投資・政策・研究・人材などで見る都市のAI開発力

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2017年、次世代人工知能開発を国家戦略に格上げし、2030年までに同分野のグローバルリーダーになるという野心的目標を明らかにした中国。投資拡大や人材育成を猛烈な勢いで進めている。

国全体で盛り上がりを見せる中国の人工知能開発だが、その状況は都市ごとに大きく異なっている。

2018年7月、中国のCCIDコンサルティングは国内の主要40都市における人工知能開発状況をまとめたレポートを発表。このレポートでは、人工知能開発に関わる投資、研究開発、政策など40以上の指数によって、中国でもっとも人工知能開発に強い都市のランキングを明らかにした。

中国ではどの都市が人工知能開発に強みを持っているのか。今回はこのランキングを踏まえ、都市ごとの人工知能開発最新動向をお伝えしたい。

中国・人工知能都市ランキング、北京、上海、杭州が強い理由

CCIDコンサルティングのレポートがまとめた人工知能都市ランキングトップ15はこのような順位となった。

1位は総合指数9.2ポイントを獲得した北京だ。以下、2位上海(総合指数8.1)、3位杭州(7.4)、4位深セン(7.2)、5位合肥(7.2)、6位広州(7.1)、7位重慶(7.0)、8位蘇州(6.8)、9位武漢(6.7)、10位南京(6.3)、11位成都(5.9)、12位西安(5.9)、13位天津(5.7)、14位アモイ(5.5)、15位瀋陽(4.9)となった。

北京は、人工知能開発に関わる主要企業が拠点を構えており、トップレベルの人材が集まりやすい環境が評価された。同レポートによると、中国全土に占める北京の人工知能人材の割合は27.9%と4分の1以上を占めている。また2017年の人工知能開発投資額は271億5,000万元(約4,425億円)と中国全体の52.2%に達したという。

同レポートは、北京の人工知能産業の盛り上がりを支える土台として「中関村(ちゅうかんそん)」の重要性を指摘している。

中関村とは、北京市・海淀区(かいでんく)の一角を占める地区。1988年に北京市が公布した「北京市新技術産業開発試験区暫定条例」によって、中国初の国家級ハイテク技術産業開発区として成立、2001年には「サイエンスパーク条例」の施行で同地区のにおける税制優遇や戸籍緩和策などが実施され起業・投資が促進、テクノロジー企業が集積する「中国のシリコンバレー」と呼ばれるようになった。

バイドゥ、シャオミ、JDなど中国を代表するテクノロジー企業が拠点を構えている。北京大学や清華大学など人工知能開発で国内トップの大学・研究機関が隣接しており、人工知能開発で産学連携が加速し、一層の人材と投資を呼び込むサイクルを生み出している。

北京・中関村

中国国営新華社通信が2018年1月に伝えたところでは「中関村人工知能パーク」が建設される計画が明らかにされている。この人工知能パークの建設には138億元(約2,250億円)が投じられ、完成後は400社の企業を誘致するという。また海外の大学との提携も強化する予定で、産学連携もさらに広がる見込みだ。

2位上海には中国全体の12.1%の人工知能人材が集まり、2017年の投資額は155億8,000万元(約2,500億円、全体の30%)に達した。

上海も北京と同様にグローバル・イノベーション・ハブを目指し、その取り組みを加速させており、どこまで北京に迫ることができるのか、その動向に注目が集まっている。

2018年7月、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙が伝えたところでは、上海市は今後2〜3年間で人工知能開発を促進するために1,000億元(約1兆6,300億円)規模のファンドを設立する計画を明らかにしたという。

上海市はBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)のような巨大テクノロジー企業を同市から輩出したいという思惑があり、有望なスタートアップへの投資や優遇政策を次々に実施している。

2015年には、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルの投資を促進するために、損失補てん施策を導入。この施策では、上海拠点のスタートアップに投資を行ったものの、損失を被った投資家に対し最大3億元(約50億円)が補償されるという。

上海市のなかでもスタートアップが集まる「楊浦(ようほく)区」では、さまざまな起業家向け優遇政策が実施されている。

たとえば、同区を拠点とするスタートアップは、近隣の賃料に比べ70%も割引された価格でオフィスを借りることが可能だ。このほか、法務や知的財産管理なども上海市が支援するという。また有望なスタートアップに100万元を支給する「リトルジャイアント」と呼ばれるプロジェクトも実施されている。

上海市・楊浦区

上海市の支援を受け、同市発の人工知能スタートアップの動きは活発化している。2018年9月には、上海拠点の人工知能スタートアップDeepBlue(深蘭科技)がルクセンブルクのフィンテックハブLHoFTと提携し、ルクセンブルクに3カ所の共同研究センターを開設することを発表。

人工知能開発における中国と欧州の連携を強化する。将来的にルクセンブルクだけでなく、他の欧州諸国でも共同研究センターを開設する可能性もあるという。

上海市には、上海科技大学、上海師範大学、上海交通大学など人工知能開発に力をいれる大学が多く、産学連携による研究開発促進が期待されている。

北京と上海に次いで人工知能開発力が評価されたのは、上海の南西に位置する浙江省杭州市だ。

全国に占める杭州市の人工知能人材割合は6.5%、投資額は9億2,000万元(約150億円、全体の1.8%)。

杭州市

レポートは、浙江省が掲げる「次世代人工知能開発計画」や杭州市独自の「科学技術革新十三五計画」が人工知能開発を推し進める要因になると指摘。人工知能開発に力を入れるアリババやHikvisionなどの主要企業が拠点を置いていることも同市が評価されたポイントになるようだ。

今後はこのアドバンテージを生かし、より多くの人材を誘致し、人工知能開発エコシステムを構築することが期待されている。

4位以下深セン市や合肥市などでもテクノロジー投資が盛り上がっており、今後も各都市で人工知能開発が加速していくことが予想される。人工知能人材が不足している問題については以前お伝えしたとおりだが、各都市の大学で人工知能学部が次々と開設されており、人材供給はこれから増えていく見込みだ。

都市ごとにユニークな戦略で人工知能開発が加速する中国。今後どのように展開していくのか、各都市の動きから目が離せない。

文:細谷元(Livit

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