昨今「シェアリングエコノミー」というキーワードが、国内外を賑わせている。

シェアリングエコノミーやCtoCビジネスへの期待が高まる一方で、個人と個人が直接価値を交換する、という新たな価値の流通の仕方には少々不安を感じるし、個人につく評価なども信用しきれない、などの課題も浮上している。

そんな状況を受けて、人の定性面を新たな評価軸として個人をスコアリングし、新たな評価経済の形を実現しようという取り組みが登場している。

2018年9月20日に株式会社オウケイウェイヴから、「感謝」を見える化することによって経済活動を活発にさせる「感謝経済プラットフォーム」が発表された。

感謝に軸を置いた新しい経済活動の提案

同イベントでは、感謝を見える化して、イイコトをした人に社会全体からイイコトが受けられるようなあたらしい経済の形である「感謝経済プラットフォーム」の本格始動の宣言と新サービスの発表を行った。加えて、評価経済のあり方や感謝経済への期待について、株式会社オウケイウェイヴ(以下、OKWAVE)代表取締役会長 兼元 謙任氏、株式会社VALU代表取締役 小川 晃平氏、経済アナリスト 森永 卓郎氏による3者対談が行われた。

会場では、新しい経済プラットフォームが及ぼす評価経済への期待やその役割などについて、熱い想いや言葉が登壇者から発せられた。ここからは、当日会場で行われたプレゼン内容やディスカッションについて紹介していく。

心の見える化によって世界へ広げたい感謝経済


株式会社オウケイウェイヴ 代表取締役会長 兼元 謙任氏

イベント冒頭の挨拶で、兼元氏は感謝経済について以下のように語った。

兼元(以下、敬称略):「OKWAVEは会社や家庭の中で困っている人たちを、組織や専門領域を超えて助け合うことを目的としてきました。このような助け合いで生まれる感動を見える化して、つなげていくこと、そして経済に組み込むことを感謝経済では目指します。感動の見える化、心の見える化を通して、感謝経済プラットフォームを日本そして世界へと広げていきたいです。」

つまり感謝経済というのは、これまで内在化しやすかった「ありがとう」という感謝の心を見える化することによって、自身の気持ちや想いを表現するためのひとつのツールであり、その結果が経済にも良い意味で反映される。

感謝も見える化の時代へ。AIが「ありがとう」を数値化する


OKWAVEコンシューマーソリューション部 部長 伊藤 勇剛氏

続いてOKWAVEコンシューマーソリューション部 部長 伊藤 勇剛氏が、感謝経済プラットフォームのシステムについて説明を述べた。(以下、敬称略)

伊藤「感謝経済圏構想というのは、自社サービスを通して蓄えたビックデータである年間利用者7,000万ユーザー、Q&A3,600万件、ありがとう4,700万件のユニークな資産を生かし、これらのデータを集約し、制御をかけ、OKWAVEが開発したAIシステム『KONAN』やブロックチェーンといったテクノロジーを掛け合わせて作られたものです。」

ありがとうを「感謝指数」という形で見える化することによって、同社ではシェアリングエコノミーをはじめとする、個人間取引の新しい指標としての導入を目指す。

感謝の手紙にチップを添えて気持ちを表現

組織内でのありがとうを可視化するサービスも同時にリリースされた。それがOKWAVE GRATICA(オウケイウェイヴ グラティカ、以下、GRATICA)だ。感謝の気持ちとして、メッセージと併せて「OK-チップ」というトークンを添付することができる。

伊藤「GRATICAというのは、100種類以上のイラストや写真などでデザインされたカードに言葉や写真を添えて感謝の気持ちを伝えられるメッセージサービスです。手持ちの画像を添えれば、それだけでオリジナルのカードが完成します。もちろんOKチップも添付できます。」

GRATICAに一緒に送れる「OK-チップ」というのは、感謝経済プラットフォームに参加する企業内で自由に使うことが可能な通貨のようなトークンだ。

伊藤「サービスの最も大きな特徴としては、感謝経済との連携です。類似のメッセージサービスとは異なり、OK-チップは社外でも使用できます。そのため、これまで社内で閉じていた経済圏とは異なり、社外への開かれた経済活動が可能となりました。

例えば、同僚や上長からもらったOK-チップを仕事終わりの一杯の足しに使ったり、部屋のインテリアやクリーニングの費用として使用したりするなど、生活の様々な場面でお金の代わりとしてOK-チップを活用できます。」

OK-チップには自身が受けた感謝を可視化する指標としての働きはもちろん、サービスや優待提供といった企業福利厚生や制度活用などの新しい形としての利用が期待される。

連携企業が感謝経済に寄せる期待とその想い

続いて、OKWAVEが掲げる「感謝経済」の理念に賛同し、感謝経済プラットフォームに参加する企業、全19社の内の12社(2018年9月20日時点)の代表者から感謝経済への意気込みや想いについてコメントが述べられた。どの企業からも熱いコメントが寄せられていたため、ここでは3企業を抜粋して紹介する。

ローランド株式会社カスタマーセンター部長 井山氏
「音楽好きの方や楽器好きの方、そして演奏やバンドを楽しむ方たちと『ありがとう』を通じて、お互いの交流や音楽を通じてワクワクとした体験をどんどん広めたいと思っています。感謝経済にはその可能性があると思い、今回参画させていただきました。」

一般社団法人日本居酒屋協会 会長 八百坂氏
「今回、兼元会長からのお話を受け、居酒屋というのは『ありがとう』をたくさん集められる企業だと確信しました。今後も感謝経済に頑張って貢献していきますので、よろしくお願いします。」

株式会社ZERO TO ONE 石井氏
「弊社では、ノリーナというライドシェアサービスを運営してます。まさにシェアリングエコノミーのサービスです。今回、OKWAVEさんの感謝指数を上手く活用して、ライドシェアによって感謝経済圏を盛り上げていければと思っております。」

「ありがとう」というプラスの評価を経済に結びつける新しい挑戦

兼元氏、小川氏、森永氏による3者対談では、感謝経済のあり方や期待、そして日本で評価経済が浸透する上でのポイントなどが語られた。(以下、敬称略)

兼元「感謝経済の構造には、みえなきゃいけないものや今までみえていなかったものを、本当の価値として出していきたいという考えがあります。例えば、OKWAVEのQ&Aに『6カ月の子どもが育てられなくなりそうで、気が滅入ってます』という質問がありました。

50万人以上の方が閲覧し、この質問に対してものすごく多くの方たちが『あなただけではないのよ、大丈夫!』と回答しています。これらの行動は質問したお母さんだけではなく、同じような思いをしている人たちを助けたことにもなるということにお気づきでしょうか?こうした事例から、わたしたちはみなさんの想いや気持ちを見える化することで、すごいことが起きると考えています。」


経済アナリスト 森永 卓郎氏

森永「わたしは世の中の99%以上がいい人だと思っています。同時に、なにかをしてあげたいとも。OKWAVEはまさにその優しさの上で成り立っているサービスです。だからお金ではなく、善意が経済を動かしていくっていうことは本当に新しい形だと思っています。同時に、将来的にこのスタイルがネット社会の一番良いところになることを期待しています。」

感謝経済の本質は、他者を思いやる心から派生した行動としての「ちょっとした善意」ではないだろうか。困っている人たちのために、少しでも自分の経験や知恵を提供したい。「情けは人の為ならず」を体現化するネット社会の可能性を示している。

さらに、感謝経済をはじめとする評価経済が日本で広まるのに必要な要素として、森永氏が「自分からの情報発信」と述べたことに対して、小川氏は次のように語った。


株式会社VALU代表取締役 小川 晃平氏

小川「情報発信をすることで評価を得る人もいれば、銀行からお金を借りられるということで評価を得る人もいます。今までの経済や評価経済と、これからの評価経済は違ってくるはずなので、どういったところで仕事や生活をしているかを自分の中でしっかりと認識した上で、判断し、情報発信などの行動に移していけると良いと思います。」

さらに小川氏はこのように続けた。

小川「相手のマイナス評価だけをみるのではなく、プラスの部分をみることも必要ではないでしょうか。そういった意味では、『ありがとう』という感謝の気持ちをプラスの価値として、経済にどのように結びつけるかはひとつのチャレンジになると考えます。」

小川氏が述べるように、感謝という動作は必然的に相手のプラスの面をみることになる。「ありがとう」というポジティブな感情や動作が広がることによって、感謝経済はもちろん、評価経済の新しい可能性がみえてくるのかもしれない。

企業内活動から経済循環の波が起こるフェーズへ

OKWAVEは複数の企業が連携した経済プラットフォームを構築することによって、社内における「ありがとうの活性化」だけでなく、社外における経済循環にも影響を与えるシステムを考案し、世の中に実装しようとしている。

OKWAVEの社名には「教えて答えるを波のように世界に広げていく」という意味が込められている。社内だけで留まるはずだった感謝の波が、社外という大海原に流れ出るきっかけを作り出したのだ。

OKWAVEの取り組みのように、今後は社内活動がきっかけとなった社会経済を循環させるためのシステムやサービスが誕生するかもしれない。このような新しい取り組みや企業活動には引き続き注目していきたい。