変わる世界のMBA事情、人気は「MiM」にシフト

キャリアアップのためにMBA(経営学修士号)の取得を考える人は少なくないだろう。

しかし一方で、ビジネススクールへの2年間のフルタイム入学と高い授業料が将来のリターンに見合うのかどうか、そのリスクとリターンを天秤にかけ、迷っている人も多いはずだ。

いま日本だけでなく世界各地でこのように考える人々が増え、2年要するMBAではなく、1年間でビジネス関連の修士号を取得できるコースの人気が急速に高まっている。需要の大きな変化が起こっており、ビジネススクールは変革を迫られているようだ。

世界のMBA市場でいったい何が起こっているのか。その最新動向をお伝えしたい。

100年前に登場したMBA、変化の時期に直面

MBA(Master of Business Administration)という言葉が日本で広く知られるようになったのは、外資コンサルティング会社や外資証券会社の日本市場参入が増えた1980年代頃と考えられる。これらの企業はMBA取得者を求める傾向が強かったからだ。

一方、MBAという学位が登場したのはおよそ100年前にさかのぼる。1981年、米国の資本家ジョセフ・ウォートンの支援によってペンシルベニア大学に「ウォートン・スクール」が開校。米国最古のビジネススクールと呼ばれてる。1900年、米ダートマス大学に「タック・ビジネス・スクール」が開校、同校が新たに設置した「商業学修士号(Master of Science in Commerce)」がMBAの前身になったといわれている。その後1908年ハーバード大学で世界初のMBAコースが開設された。


ペンシルベニア大学ウォートン・スクール

この頃MBAという学位を開設したのは米国の大学だけだったといわれているが、ビジネススクールとしては1818年にフランス・パリに開校した「ESCP」が世界最古といわれている。欧州でMBAが登場したのは、1957年にINSEADでMBAコースが開設されたときだ。

その後米国企業の世界進出に合わせて、米国流の経営管理を学んだMBA取得者が世界各地で求められるようになり、世界中でMBA人気が高まっていったと考えられる。需要の高まりにともない、MBAコースを開設する大学も増えていったようだ。現時点で米国だけでも400校以上のビジネススクールが確認できる。

一方、デジタルテクノロジーの進化と普及により、経済・社会の変化速度は加速。ビジネス環境も大きく変化しており、MBAに対する人々の考えも変わり始めている。

MBAでなくMiMを選ぶ理由

ファイナンシャル・タイムズ紙が2018年1月に報じた記事のなかで、ビジネススクールで広く採用されている能力評価試験「GMAT」を主催する団体GMACのレポートに言及。このレポートによると、2年フルタイムMBAコースの60%近くが入学申請数の減少に直面しているというのだ。

またMBA専門メディアPoets&Qauntsは、フルタイムMBAコースの入学申請数の減少はこれまでMBAランキング下位に位置するビジネススクールで顕著で、ランキング上位校では減少していなかったが、その状況も変わりつつあると指摘している。つまり、MBAランキング上位校においても入学申請数が減少しているというのだ。たとえば、ライス大学のビジネススクールでは、27%以上減少。ウォートン・スクールでは6.7%減少、UCバークレー校ハース・ビジネススクールは7%減少したという。

需要の減少を受け、フルタイムMBAコースを閉鎖する大学も出てきている。アイオワ大学ビジネススクールでは、フルタイムMBAコースを閉鎖し、1年のビジネス修士コースに特化する計画を発表。ウェイクフォレスト大学やバージニア工科大学でもフルタイムMBAコースを終了。ウィスコンシン大学でも、そのような動きがあると報じられている。

このような状況であるが、ビジネス関連の修士号への需要がなくなったわけではない。2年フルタイムMBAコースの人気が下がっている一方、急速に需要を伸ばしているのが1年ビジネス修士コースだ。

変化の速い環境で2年間仕事から離れてしまうことや高騰するフルタイムMBAコースの学費をリスクと捉え、1年ビジネス修士コースを選択する人々が増えている。米国ビジネススクールのフルタイムMBAの学費は10万ドル前後(約1,100万円)、生活費を含めた総コストは15万ドル(約1,650万円)に上ることも珍しくない。

このことは教育コンサルティング会社CarringtonCrispが2017年に実施した最新調査に顕著に表れている。この調査は、今後数年以内にビジネススクール入学を考えている1,000人を対象に実施されたもので、対象国は100カ国以上だ。

それによると、フルタイムMBAではなく、通常1年のビジネス修士コースへの入学を検討していると回答した人の割合は67%と前回調査の48%から大きく増加していることが明らかになったのだ。国別では中国が77%で最大、次いで米国66%、英国64%、カナダ57%だった。教育市場として今後大きく成長するとみられる中国でMBAではなく1年修士コースを選ぶ人が増えていることの示唆であり、MBA市場を大きく変える原動力になると考えられる。

MBAに代わる人気の修士コースとして、MiM(Master in Management)が挙げられている。1年で取得できる修士号で、MBAと似たカリキュラムでありつつ、MBAより早く安く取得できるとして人気が高まっているという。たとえば、米ミシガン大学ロス・ビジネス・スクールでは2017年、MiMコースの入学申請数が前年比22%増加したという。英国ロンドン・ビジネス・スクール(LBS)のMiMコースの学費は2万9,900ポンド(約430万円)と7万5,100ポンド(約1,000万円)の動向MBAコースの半額以下だ。

イタリア・ボッコーニ大学国際学部長のステファノ・カゼッリ氏がファイナンシャル・タイムズ紙に語ったところによると、同校のMiMコースへの入学申請数はこの10年で毎年10%以上増加、いまでは1,000人近い候補者が150人の枠を競うまでになったという。また、最近の傾向として、入学申請者の学力の高まりと多様化が顕著になっていると指摘している。入学申請者の多くが学部で上位5%の成績優秀者であり、さらに3分の2が海外学生で構成されるというのだ。10年前、海外学生の割合は10%に満たなかったという。

MiM人気の高まりだけでなく、オンライン教育の普及など伝統的なMBAコースにかかる変化圧力は強くなる一方といえるだろう。採用する企業の意識もMiMに向かい始めているといわれるなか、伝統的なMBAがどのような進化を遂げるのか、またMiM人気はどこまで高まっていくのか、その動向から目が離せない。

文:細谷元(Livit

モバイルバージョンを終了