人が何かを行う場合、その物事を上手く遂行するには、その人の持つ能力や努力はもちろんだが、置かれた環境が大きく左右するといっても過言ではないだろう。それは、もちろんビジネスも同じで、環境が悪ければ、ビジネスの成功は難しいだろう。

東急不動産株式会社は、会社員経験のある30~54歳の起業家、男女600人を対象に起業とオフィスに関する実態調査「起業とオフィスに関する調査」を実施し、調査結果をまとめた。

それによると、85.1%が「整ったオフィス環境はビジネスによい影響を与える」と回答し、オフィス環境の重要性が確認できたという。

約8割がオフィス環境がビジネスに「影響を与える」

調査は、一都三県・二府二県・東海三県(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県・大阪府・京都府・奈良県・兵庫県・愛知県・岐阜県・三重県)の30~54歳の会社員経験のある起業家男女600人を対象とし、インターネットで調査(GMOリサーチ株式会社調べ)した。

まず、『現在利用しているオフィスの形態として、当てはまるものをお選びください』という質問に「オフィス(シェアオフィス、賃貸オフィス、他社のオフィスの間借り)」と回答した人のうち、『起業後のあなたのビジネスは軌道に乗っていますか』という質問に「はい」と回答したのは71.5%だった。

対して、同様の質問に「自宅(カフェなどの利用含む)」と回答した人のうち、『起業後のあなたのビジネスは軌道に乗っていますか』という質問に「はい」と回答した人は49.9%にとどまった。

また、『現状のオフィス環境に満足していますか』という質問に対し、ビジネスが軌道に乗っていないと回答した人の62.3%が「満足していない」と回答した。

そして、『オフィス環境はどの程度ビジネスに影響を与えると思いますか』と質問をしたところ、79.0%が「かなり影響を与えると思う」「やや影響を与えると思う」と回答した。

さらに、『整ったオフィス環境がビジネスに良い影響を与えると思いますか』という質問に対し、「影響を与えると思う」と答えた人は85.1%だった。

『独立したとき、サラリーマン時代に受けていた福利厚生がなくなることに不安を感じましたか』という質問に対し、61.3%の人が「不安を感じた」と回答した。

これらの結果から、オフィスの環境がビジネスに大きな影響を与えることがわかったが、ビジネスが順調にいっているという人の大半が、自宅とは別にオフィスをレンタルしていることがわかった。

これは、ビジネスにおいては、プライベートとは別の空間に身を置くことで、ビジネスへ集中することができるという、いわば、気持ちの切り替えが大切であることを示しているのではないだろうか。

ビジネス環境として大切なのは「集中」できる場所

また、『起業後に「自分がしなくてもいいと思う仕事」がどのくらい増えましたか』と質問をしたところ、51.5%が「増えた」と回答した。

ビジネスが軌道に乗っている人のうち「増えた」と答えた人は60.3%、乗っていない人のうち「増えた」と答えた人は39.3%で、ビジネスが軌道に乗っている人ほど「増えた」と答える傾向があったという。

次に『オフィスを選ぶ際に重視したことはなんですか』と質問をしたところ、「集中できる環境が得られること」が43.8%で最も高く、次いで「通勤の便、通勤時間の短さ」が33.2%、「ビジネスに有利な立地」が27.5%という結果となった。

やはり、大切なのは「集中」できるということのようだ。次の「通勤の便」よりも10.6ポイントも上回っている。

最も集中できるのはクローズされた空間

オフィス環境がもたらす影響についての調査例として、オフィス家具などオフィス関連事業を展開している株式会社イトーキの調査がある。

同社は、2018年5月、杏林大学名誉教授で医学博士の古賀義彦氏による監修のもとで、「脳の活性度が高い状態」をパフォーマンスが高い状態であるとの仮説もたて、株式会社スペクトラテック社の「spectratechOEG-SpO2」を使用し、前頭部16部位の脳血流量〔酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)〕の測定分析を実施した。

この調査では、「クローズ空間」、「セミクローズ空間」、「オープン空間」という3つそれぞれの空間にて、被験者は、複数の図形カードについて、あらかじめ示されたカテゴリーのうちどれが適切か類推するテスト。

主に前頭葉の活動を検証する「ウィスコンシンカードソーティングテスト」、数字の足し算を繰り返すテストで、主に左脳の活動を検証できる「クレペリンテスト」という2つのテストを実施。その際の脳血流量を測定して、脳の活性度を比較した。

実験の結果、ウィスコンシンカードソーティングテスト(主に前頭葉の活動を検証)で、最も血流量が増加したのはクローズ空間だった。

これは判断力がもとめられる作業では、周囲の視覚的・聴覚的刺激によって注意がそらされることがないクローズ空間において最も脳が活性化することを示しているという。

次にクレペリンテスト(主に左脳を使う作業)では、セミクローズ空間において最も血流量が上昇した。これは、簡単な計算のような単純作業では、程よい開放感があるセミクローズ空間で最も脳が活性化するということになる。

一方、視覚や聴覚の注意を妨げる要因が多いオープン空間では、特徴的な脳血流量の変化はなく、脳の活性化はみられなかった。これにより、このような空間は、特定の作業に集中するのに最も適していないということがわかった。
※「イトーキ調べ」

集中でき、ストレスのない環境を優先する時代に

これまでのように、広い場所で、大勢の人に囲まれて働くオフィスというイメージはもう古いようだ。

以前AMPで紹介した、アマゾンが本社ビルの前に建設した「The Sheres(スフィア)」などの例でもわかるように、今後のビジネスにオフィス環境は、交通の利便性や立地条件ではなく、集中でき、ストレスのない環境が優先される時代となるのだ。

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