Uber(ウーバー)やAirbus(エアバス)などが開発を競う「空飛ぶタクシー」。2018年8月にはロールスロイスも空飛ぶタクシー用に独自の推進システムを開発すると発表し、この分野に参入することを明らかにした。
空飛ぶタクシーに関して、さまざまなニュースが飛び交っているが、最近注目を集めているのがイスラエルの企業Urban Aeronautics(UA)が開発する水素燃料動力の空飛ぶタクシーだ。
UA社はプロペラを露出しない垂直離着陸機(VTOL)の開発を目的として、2001年にイスラエルのラフィ・ヨエリ博士が創業した企業。ヨエリ博士は、イスラエル空軍での経験に加え、ボーイングでエンジニア、またイスラエルで航空機開発企業AD&Dを創業した経験を持つ人物で、VTOL開発の第一人者と目されている。
そのUA社は2018年7月、自社で開発するVTOL「シティーホーク」の開発を本格化させ、2021〜2022年ごろの実用化を目指す計画を明らかにしたのだ。
シティーホークは、翼を持たず、車体の前後にあるプロペラで離着陸と飛行を行う。街なかでの安全な利用を想定し、プロペラを露出しない形状になっている。米国連邦航空局(FAA)の「ツインエンジン・ヘリコプター」基準を満たすように設計されており、新しい基準を設ける必要がないのがシティーホークの強みだ。同社ウェブサイトによると、最高速度は時速270キロメートル、最長飛行距離は150キロ、最大積載量は760キログラム。4〜6人乗りを想定している。
シティーホークのイメージ図(UA社子会社Metro Skyways社ウェブサイトより)
開発初期段階では、まず1,000馬力のターボシャフトエンジンを搭載する予定だが、FAAの認定を取得後、動力を水素燃料に切り替える計画という。
シティーホークの開発はこれから本格化することになるが、同社は子会社Tactical Robotics(TR)を通じて似たタイプのVTOL機を250回以上テストしており、その知見を生かしたスムーズな開発が見込まれている。
TR社が開発していたのは「コーモナント=Cormonant(鵜)」と呼ばれるモデル。形状はシティーホークとほとんど同じで、自動運転が可能だ。TR社では空飛ぶタクシーではなく、デリバリーや災害対応、また軍事利用を想定し開発が進められていたようだ。
コーモナント(Tactical Robotics社ウェブサイトより)
同社YouTubeチャンネルでは、2011年に縮尺モデルでの試験を実施した様子が公開されている。その後、2015年12月に原寸モデルを作成し、テスト飛行を実施。これは地上から少し浮く程度の短いテスト飛行だったが、2018年5月に公開された最新動画では、平原を自在に飛ぶ姿が映し出されている。
UA社がまず狙うのは米国市場のようだが、世界には空飛ぶタクシーの利用を計画する国がいくつかある。シンガポール政府は2030年を目処に、都市交通の重要インフラとして空飛ぶタクシーを導入する考えがあることを明らかにしている。また、ドバイも空飛ぶタクシーの導入を積極的に進めようとする国の1つだ。さらに、このほどニュージーランドがグーグル共同創業者の1人ラリー・ペイジ氏が出資する空飛ぶタクシー開発企業キティーホークとの提携計画を発表し、積極的に空飛ぶタクシーを導入する姿勢を明らかにしている。
環境に良いというだけでなく、先進的なイメージをアピールできるため、今後も空飛ぶタクシーの導入を積極的に進める国は増えてきそうだ。企業側の開発動向に加え、国の法規制の整備がどのように進んでいくのか、今後の動向から目が離せない。