中国の観光戦略、意外な促進のカギは「ランニング」〜急増するトレイルラン・レース

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少し前、日本ではランニングを行う人が大幅に増え「ランニングブーム」が起こった。

笹川スポーツ財団の調査によると、2002年の日本のランニング人口は483万人だったが2012年に1,009万人と10年で2倍以上に増加したのだ。しかし、2014年は986万人、2016年は893万人と2012年をピークとして減少傾向が続いている。高齢化や人口減少の影響を受けているようだ。

一方、中国ではいまランニング人気が急速に高まっている。マラソンイベントが増え、関連プロダクトやサービスが続々登場しているのだ。

中国政府はこのランニングブームを市場機会と捉え、政府主導でさまざまな取り組みを始めている。その1つとして、地方でトレイルランニング・レースを開催し、観光収入を増やそうとしている。

中国は、ランニングのなかでもニッチといわれるトレイルランになぜ注目しているのか、またトレイルランを軸にどのような観光戦略を練っているのだろうか。

中国では空前のランニングブーム

所得水準や健康意識の高まりを背景に、中国のスポーツ市場は成長スピードを加速させている。スポーツ市場全体の市場規模は2016年1.5兆元(約25兆円)だったが、2025年までに5兆元(約85兆円)に達する見込みだ。

レクリエーション目的のスポーツのなかでランニングの人気がもっとも高いといわれている。スポーツメディアISPOによると、中国のスポーツ人口のなかでランニングを行うと回答したのは44%に上るという。2016年にはマラソンイベント参加者が100万人以上に達したとも伝えている。また、同年に開催されたマラソンイベントは中国全土で100を超えたという。


北京で開催されたマラソン大会(2016年9月)

このランニングブームのなか、トレイルランへの注目も高まっている。

中国のランニング市場に詳しいパベル・トロポフ氏がサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙に語ったところによると、中国では数年前までトレイルランニングはほとんど知られていないスポーツだったが、この数年で急速に認知度を高めているという。数年前まで中国全土で数回しか開催されなかったトレイルラン・レースだが、いまでは100以上に増えているというのだ。

そのレースの多くは「ウルトラトレイル杭州」や「ウルトラトレイル深セン」など「ウルトラトレイル」という名称で各地で開催されている。これらはトレイルランのオリンピックと呼ばれる世界的に有名な大会「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)」を意識した名称だ。


UTMB、2017年フランス・モンブラン

これまではUTMBとは関係なく開催されてきたレース大会だが、2018年3月に中国雲南省・高黎貢(ガオリンゴン)山でUTMBのライセンスを取得した初の公式レース開催に至っている。このレースには世界的に著名なトレイルランナーやスポーツ写真家が招待されており、国内外のランナーたちの注目を集めた。

UTMBの公式レースが開催される以前から同地ではトレイルラン・レース「高黎貢山ウルトラ」が実施されていた。これは、雲南省・騰衝(とうしょう)市が国際観光開発の一環で実施していたもの。UTMBレースの開催は国際観光開発の取り組みに強力な追い風となったはずだ。


雲南省

このほか福建省でも「グレート・ハッカ・マラソン」に世界的に有名なランナーを招待、トレイルランを通じて国際観光開発を加速させようとしている。

ニッチといわれるトイレルランだが、数千人の大規模なレースに発展する可能性もあり、地方政府は躍起になってプロモーションに力を入れているようだ。

また、中国のランナーは所得水準が高いという特徴があり、このこともランニング・イベントを増やす動機を強めていると考えられる。

テックサビーな中国ベテランランナー、旺盛な消費

ニールセンが2016年に公表した調査によると、中国のランニング人口は裕福な都市に多いことが判明。北京のランナーは全体の17%、上海は11%を占めるという。教育水準、役職、資産水準が高いほどランニングに従事する傾向が強いことも明らかになった。たとえば、週2回以上ランニングを行い、過去3年以内にフルマラソンに参加したコアランナーのうち、修士号取得者は24%に上り、54%が車を所持、42%が銀行のVIP顧客であるという。また頻繁にマラソンに参加するランナーのうち36%が企業の中・上級役職という。

コアランナーの98%が今後フルマラソンに参加、37%がウルトラマラソンやトレイルランに参加する予定と回答している。

トロポフ氏によると、中国のアマチュアランナーは1,000万人以上いるという。もしその37%がトレイルランに参加すると、中国のトレイルラン市場は400万人規模に成長する可能性がある。

またニールセンの調査では、中国人ランナーの活発な消費を浮き彫りにしており、観光推進を狙う政府だけでなく、企業にとっても興味深い市場になっているようだ。

調査によると、ランナー全体の平均支出額は3,601元(約6万円)、ランニング頻度の低いポテンシャルランナーは2,333元(約38,000万円)という。一方、ランニング頻度の高いコアランナーは4,549元(約7万5,000円)とポテンシャルランナーの倍ほどの支出額になっているのだ。サイクリングなどと異なり、ランニングは安く済ませられるというイメージがあるが、実際はそうではないようだ。コアランランナーになるほどスマートウォッチやスマートリストバンドなどを購入する傾向が強く、支出額の差はデジタル機器の消費で生まれているという。また、マラソン・イベントへの参加でコアランランナーは平均6,935元(約11万円)を支出していることが分かった。

現在、コアランナーの86%が男性で女性は20%に満たないが、ポテンシャルランナーでは女性が38%を占めている。現在、中国ミレニアム世代の女性の間でランニングを含めたフィットネスブームが起こっており、今後女性ランナーの割合は増加していく見込みだ。

以前お伝えしたように、中国では現在肥満問題が深刻化している。一方、ランニングブームに見られるように健康意識の高まりも顕著になっている。中国のトレイルラン人気はどこまで高まっていくのか、今後の動向にも注目していきたい。

文:細谷元(Livit

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