GIPHY公式サイト。GIFの検索だけではなく、会員登録をすると自分で写真を組み合わせたGIFや短い動画を投稿できる。
GIFキュレーションサービスの「GIPHY」が、18秒以下の超ショートフィルムに特化したアワードイベントの開催を発表した。
GIPHYは、2013年創業の短いGIFアニメのオンラインデータベース。文章の代わりに感情を表現するツールとして、FacebookやWhatsApp、Slackなどでも利用できる。資金調達額は累計1億5,000ドル、評価額は6億ドルにものぼると言われ、今最も注目を集めるベンチャーの一つだ。
確かに、たとえ数秒の短いアニメーションであっても、私たちのコミュニケーションを加速し、感動さえ与える時もある。しかし、ここまでGIPHYが利用される背景は一体なんだろう?
今回はGIPHYが注目を集める理由や、アワードを開催することで同社が社会に与えたいインパクト、そしてその背景にある若年層の間で生まれる新しい価値観について考察する。
評価額は6億ドル、注目集めるコミュニケーションツール「GIPHY」
GIPHYはもともとGIFの検索サービスとして創業したが、リリース後にユーザー自身もGIFを投稿する機能が追加。FacebookやTwitterにURLを埋め込むことでコミュニケーションのバリエーションを増やすツールの一つとして成長してきた。
最近ではWhatsApp、Slackなどでも感情表現の方法として活用されており、LINEでいうスタンプのような役割だ。
日本ではコミュニケーションアプリとしてはLINEがメジャーだが、海外ではWhatsAppが中心。会話の途中で、短いGIFアニメーションを差し込むことで、言葉による詳しい説明なしでも、利用者の気分や感情を伝えてくれる。コミュニケーションの幅を広げている。
例えば、Facebookメッセンジャーでは写真や絵文字と並んで「GIF」ボタンがあり、クリックするとまずトレンドGIFが表示される。検索ボックスに「Thank you」など言葉を入力すると、それに合った様々なGIFが表示される。ただ「ありがとう」と送るだけではなく、ユニーク、可愛い、クール…様々なトーンのGIFを選択できる。グループチャット内で面白いGIFを送れば、それだけで会話が盛り上がることもある。
Thank youの一言だけでも様々なGIFがあり、会話内で個性を出せる
GIPHYは、2017年7月時点でAPIとウェブサイトを合わせて毎日2億人のアクティブユーザーがおり、月間アクティブユーザーは2億5,000万人にものぼる。いま世界で最も人気のあるサービスと言っていいだろう。
2014年5月には240万ドル、2015年には1,700万ドル、2016年2月には、3億ドルの評価で5,500万ドルの資金調達を行い、前述のとおり累計調達額は1億5,000万ドル、評価額は6億ドルにものぼると言われている。
ビジネスモデルは? スポンサード広告としての可能性も
TechCrunchによると、今後はスポンサードGIFも視野に入れているとのこと。例えば、「Cheers(乾杯)」という言葉をGIFの検索ボックスに入力すると、バドワイザーのボトルで乾杯するGIFが表示されるなど。
さらに、アカデミー賞やニューヨーク・コレクション(New York Fashion Week)といったイベントに合わせてライブGIFも公開。現在は無料でライブGIFを提供しているが、これから各イベントとパートナーシップを組む可能性も高い。
会話の中で自然に利用されるGIFを制作すれば、企業がブランディングに活用できる可能性はある。
というのも、ウェブ上で従来の動画広告が表示される際、ユーザーはその広告が必要かを直感的に判断。テレビCMと異なり、興味がない・面白くないと思えばすぐに離脱してしまう。
GIF動画のように短いコンテンツは、移動中やプライベート空間のスキマ時間で、短い閲覧体験が非連続に続いていく現代のコンテンツ消費スタイルに最適と言えるだろう。
超ショートフィルムで人は感動するのか?
このように単なるコミュニケーションツールとしてではなく、広告としても大きな可能性を秘めたGIPHY。2018年はよりクリエイティブな挑戦をしている。
米国在住の映像制作者、アーティスト、デザイナーなどを対象に、18秒以下の超ショートフィルムに特化したアワード「GIPHY FILM FEST」を主催。応募期間は2018年8月15日から9月27日まで、最高賞金額はなんと1万ドルだ。
11月に表彰イベントも開催。応募要項の中には「全てオリジナルの素材で製作する」などの条件が提示されている。
GIPHYの広報担当Tiffany Vazquez氏はこう語る。「これからは、18秒以内のフルホラー映画、ロマンチックコメディー、メロドラマが生まれるでしょう。だって、世界最初の映画はマイクロフィルムで、音すらなかったんだから」。
GIPHY FILM FESTは、GIFアニメを”アート”や”文化”として扱うイベントだ。たった18秒の映像で人の心を震わせることができるのだろうか? それには懐疑的な声もある。
しかし、Vazquez氏が指摘するように、初期の映画は無音で短いもの、そして現代のGIFアニメと同じく、一つの場面にフォーカスしたものだった。例えば、発明者ルイス・ル・プライスの最古映像『Roundhay Garden Scene (1888)』は、わずか2.11秒間、1896年に上映されたルミエール兄弟の映像は50秒だった。
何百ページにも及ぶ長編小説で感動するのと同じように、私たちは本名も知らない他人の140文字のツイートを読んで感動し、悩みから救われることすらある。それはGIFアニメでも同じであるとGIPHYは信じているのだ。
GIFアニメーションの新たな才能
前述のように、アワードには全てオリジナルの素材で参加することが義務付けられている。当然、YouTube動画にアップされた既存の作品を切り取った(盗用した)ようなものは応募不可。参加者にはオリジナリティが求められる。
GIPHY内ではすでに、新たなGIFクリエイターの才能が芽を出しつつある。
例えば、ブルックリンを拠点とするデザイナーのKyle Sauer(カイル・サウアー)が製作した『Grandma BB(グランマ・ビー・ビー)』は、もともとはコミックGIFで、首を痛めたおばあちゃんが初めてニューヨークに旅行するという気の抜けたコメディーだ。そらを切り取ってGIFアニメにしている。
カイル・サウアーのGRANDMA BB
また、メキシコのグラフィックデザイナー、 Analí Jaramillo(アナリ・ジャラミロ)は大胆なアングルのGIFアニメを制作。イラストも美しいが自転車が走り抜けていく様子を捉えたアングルは見事だ。
映画でも、アニメでも、単なるイラストや写真でもない、GIFという新たなアートの文化が確立されつつある。ニューヨークのクイーンズにあるThe Museum of Moving Imageでは、エレベータの壁や天井がGIFアートのギャラリースペースになっているほどだ。GIPHYが今回アワードを開催する狙いは、この新しい才能に注目を集めるためでもある。
GIPHY FILM FESTに参加しよう
GIPHY FILM FESTへの参加には米国在住者というハードルはあるものの、応募方法は簡単でシンプルだ。応募期間内に下記のページからオリジナルのGIF動画を投稿するだけ。優勝者には1万ドルの賞金だけではなく、オフィシャルスポンサーのSQUARESPACEやSpotifyの無料利用券もついてくる。
- 応募期間:2018年8月15日〜9月27日まで
- 参加条件:
- ビデオフォーマットで応募すること(H264, Apple ProRes or DNxHD)
- 動画の長さは1〜18秒
- 動画には音があってもなくてもOK
- アワードより2年以内に発表された作品であること
- 動画がGIPHYのコミュニティガイドラインに準拠していること
- 18才以上の米国在住者であること
筆者自身もGIPHYに試しに動画をあげてみたのだが、簡単にGIF動画を作成できた。
写真で簡単にGIF動画を作ることができる。
GIPHYは単なる「ユニークな短い動画」の域を超え、アートやエンタテイメントとして次のステップへ進もうとしている。本当に簡単に作成できるので、アイデアが浮かんだ読者はアワードに参加してみてはどうだろう。11月8日の表彰イベント際には、オンラインでもその結果が発表される。イベント自体も要注目だ。
文:佐藤まり子
編集:岡徳之(Livit)