ジョブズも顔負け? 新商品発表会のチケットが売れる中国スマホメーカー「Smartisan」

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一度、消費者の支持を集めれば、億単位の顧客を獲得できる中国市場では、スマホ業界でもサムスンやアップルを脅かす国内メーカーが複数存在している。そんな中、「Smartisan(錘子科技)」というスタートアップ企業が台頭。新商品発表会はチケットが売れるほどの人気を博しているほか、2018年5月には世界初、1TBのストレージを持つ最新モデルを発表した。今年8月にローンチしたSNSアプリ「Zidan Duanxin(子弾短信)」のユーザー数も急伸中で、最大手「WeChat(微信)」のライバルに台頭できるか、注目を集めている。

◆目指すはジョブズ時代のアップル、元カリスマ英語教師が創業

Smartisanは2012年5月、英語教師だった羅永浩(Luo Yonghao)CEOにより設立された。現在は北京、成都、深セン、上海に拠点を持ち、スマホを中心に、タブレット、コンピューター、空気清浄機などを製造・販売している。社名は「Smart」と「Artisan(職人)」を合わせたもの。中国語の社名は「錘子科技(直訳するとハンマー・テクノロジー)」で、会社のロゴマークはハンマーを形どったものになっている。

会社のモットーは「完美主義の職人技で一流のデジタル・コンシューマー・プロダクトを製造し、人々のクオリティ・オブ・ライフを改善すること」。その商品はシンプルで美しく、使いやすく、若者の間で人気が高い。

同社の人気を集めているのは、商品だけではない。創業者でCEOの羅永浩氏は、ぽっちゃりした親しみやすい風貌と、ユーモアあふれるトークでカリスマ的な人気を誇り、彼がプレゼンテーションを行う新商品発表会は、チケットが100~1,000元(約1,600~1万6,000円)で売れるほど。北京オリンピックスタジアム(鳥の巣)で開催された2018年5月の新商品発表会では、チケット収入が480万元(7,800万円)に達したという。


Smartisanの創業者、羅永浩氏はカリスマ的な人気を誇る(写真:「老羅手機網」より)

羅永浩氏は中国東北部、吉林省出身の46歳。英語教師を務めていたが、熱い理想主義とユーモアたっぷりの語り口で人気を集め、「老羅語録(羅さん語録)」としてネット上に流れた動画は多くの学生の間でシェアされた。2006年には独自のブログ「Bullog(牛博網)」を開設。中国の著名な作家や学者、メディア関係者らが投稿する人気ブログに成長したが、2009年に同ブログは突然閉鎖された。自由な言論活動が政治的に問題視されたためとみられている。その後、羅氏は自らの半生を綴った著書を著し、講演などの活動を行っていたが、2012年にSmartisanを立ち上げ、2014年には同社初のスマホ「T1」を発表した。

大きなスクリーンを前にラフな格好で新商品を説明する羅CEOの姿は、アップル社の創業者スティーブ・ジョブズ氏のスタイルを彷彿とさせる。盧CEOはジョブズ氏を尊敬しているが、同氏亡き後のアップル製品については「魂がなくなった」と批判。Smartisanをジョブズ時代のアップルのような偉大な会社にすることを目標としている。

◆世界初、1Tストレージ搭載のスマホを発売


新商品「Nut(堅果)R1」の最高級モデルは、1テラバイトのストレージ容量を搭載。約14万3,000円(写真:Smartisan)

今年5月、Smartisanはスマホの新商品「Nut(堅果)R1」を投入した。注目を集めたのはその最高級モデルで、内臓ストレージ容量がスマホ史上最大の1テラバイト(1T)に上る。クラウドを使わなくとも、身の回りのデータをすべて端末本体に保存できるほどの容量だ。

デザインはミニマルで高級感のある外観となっており、背後のロゴの部分に指紋センサーが埋め込まれている。CPUにはクアルコムの「snapdragon845」を搭載。ディスプレイは6.17インチで、解像度は2242×1080ドット、背面には「ソニーIMX363」「ソニーIMX350」(2,000万画素+1,200万画素)のデュアルカメラを搭載しており、フロントカメラも2,400万画素と、スペックはいずれも業界内で最高水準を誇っている

OSはアンドロイドをベースとして独自に開発されたユーザーインターフェースの「Smartisan OS」が搭載されている。今回の新商品では「無限屏(インフィニティ・ディスプレイ)」と称される機能を盛り込み、ユーザーはスマホを持った手を上下左右に動かすだけで、様々なアプリを切り替えられるほか、無限に広がる地図などの画面をパノラマ的に閲覧できるようになった。新商品発表会で羅CEOがこの機能を紹介すると、会場からは歓声が沸き起こった。

「Nut R1」はメモリ(RAM)とストレージ容量(ROM)との組み合わせで6GB+64GB、6GB+128GB、8GB+128GB、8GB+1Tの4種を展開しており、価格は3,499~8,848元(5万7,000~14万3,000円)。最高級モデルはさすがに高価だが、人気ショッピングサイトの「JD.com」の予約だけで23万台を売り上げたという。

◆独自のSNSアプリが急成長


Smartisanの独自SNSアプリ「Zidan Duanxin(子弾短信)」は立ち上げから2週間で720万のダウンロードを記録した。(画像:微博)

数々の話題を生み出してるSmartisanだが、今年8月下旬にローンチした独自のSNSアプリ「Zidan Duanxin(子弾短信)」にも注目が集まっている。マーケット調査会社のAppAnnieによると、同アプリは立ち上げから2週間で、アップルストアで最もダウンロードされた中国の無料アプリに浮上した。

中国のSNSアプリといえば、テンセントが運営する「WeChat(微信)」が月間利用者数10億人強と圧倒的なシェアを握っているが、Zidan DuanxinはWeChatにはない音声認識技術を導入。声を直接文字に変換してメッセージを送信できる機能で、ユーザーの利便性を一気に高めた。他にも一斉返信機能や後で返信するボタンを加えたり、アプリをダウンロードしていない人にもブラウザからのメッセージ送受信を可能にしたり、ユーザーの過去のプロフィール画像を閲覧できるようにしたり(アカウント名がニックネームの場合、プロフィール写真が変わると誰だかわからなくなるケースもあるため)、WeChatにはない細かな機能を盛り込んだ。

複数のメディアによると、Smartisanは今後、同アプリに「Alipay(支付宝)」の決済機能も搭載する計画で、スマホ決済「WeChat Pay(微信支付)」が一つの売りとなっていたWeChatにとってはますます脅威的な存在となる可能性がある。ただ、羅CEOは「ユーザーがWeChatをアンインストールするのは現実的でない」としており、Zidan DuanxinがWeChatと共存していく考えを示唆している。

◆スマホ出荷量の伸び率は国内トップ

ITマーケット調査会社のIDCによると、全世界のスマホ出荷数は2018年1-3月期に前年同期比1.8%減の3億4,200万台だった。出荷数が前年同期を下回るのは、3四半期連続。スマホ市場が飽和化する中で、トップのサムスンが苦戦した。一方、中国勢は好調で、華為(ファーウェイ)は出荷数を40%伸ばし、アップルを抜いてシェア2位に躍り出た。また、一時不振だった小米(シャオミ)も2017年から巻き返しており、出荷数が2018年第1四半期には88%増、第2四半期には49%増と奮闘し、このままいけば、年間で1億台を突破するとみられている。

一方、中国のデータ会社、旭日大数拠による国内メーカーのスマホ出荷台数ランキングを見ると、2017年はファーウェイが1億5300万台の出荷数で国内首位。OPPO、伝音(Transsion)、シャオミ、vivoがこれに続いた。Smartisanの出荷台数は340万台で、国内ランキングでは23位。大手の出荷台数に遠く及ばず、まだスタートアップの域を出ないが、2016年の44万台から飛躍的に増加し、伸び率では国内トップとなった。地元ニュースによると、2018年1-3月期、5月の統計で、同社のランキングは20位、17位と、徐々に上昇している。イノベーティブな機能を盛り込んだ新商品・サービスの投入で、下期以降の出荷数はさらなる躍進が予想される。
 
Smartisanは未だ黒字を計上していない模様だが、スマホ事業の成長のほか、アプリなどのサービス事業も今後の収益の柱となる可能性がある。実際、世界ランキング4位に位置し、今年7月に香港市場への上場を果たしたシャオミは、スマホ事業ではほとんど利益を上げていないが、付随するインターネットサービスやオンライン小売事業が稼ぎ頭。同社の小売りサイト「小米商城」では、100社以上の出資企業が製造するIoT製品を販売しており、自前のエコシステムを構築している。

IDCによると、スマホ市場は出荷台数では減退しているものの、金額ベースではハイエンド製品の伸びで成長を維持している。今後も機能・性能のアップグレードが加速する可能性が高く、金額ベースでは成長局面を維持する見通し。Smartisanのハイスペック商品がどこまで市場に食い込んでいけるか、SNSアプリなどで独自のエコシステムを形成していけるのか、今後の動向が注目される。

文:山本直子
編集:岡徳之(Livit

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