マリファナ市場は2021年に約3.4兆円まで成長。消費拡大の鍵はどこにある?

「グリーンラッシュ」

マリファナ市場の盛り上がりを、1848年にカリフォルニア州で起きたゴールドラッシュになぞらえて、こう表現するそうだ。今年1月にカリフォルニア州でマリファナが合法化されたことは記憶に新しい。現在アメリカでは9つの州で合法化が進められている。

突如出現した巨大なマリファナ市場にチャンスを見出すプレイヤーも登場してきた。マリファナ関連スタートアップは「ウィードテック」と呼ばれ、それ専門に出資するVCが登場するほど盛り上がりを見せている。

これまで吸引型のみだったものが、グミやチョコレート型のマリファナが登場し、消費形態も多様化。マリファナ界のスターバックスと称されるブランドも登場。成長を続ける新市場を追いかけてみよう。

2026年には約5.4兆円の市場規模となる「マリファナ」

世界では、マリファナ使用に対する考え方が変化しつつある。他のドラッグやアルコールと比べて依存性が少ないという研究結果や、てんかんの治療に効果があるという研究結果が出ていたり、合法的に管理することで犯罪組織の資金調達を断つことができる社会的な効果も見込まれる。

マリファナ使用の是非については、医療用とレクリエーションに分けて考えられてきた。これまでも医療用のマリファナ使用は一部地域で行われてきた。レクリエーション用の解禁が増えてきたのが最近の動きだ。

アメリカでは2014年1月にコロラド州での合法化を皮切りに、徐々に合法化された地域が増え、今年1月のカリフォルニア州での合法化の動きは日本でも報道された。

マサチューセッツ州では、マリファナの小売販売が今年の7月に開始される予定だ。メーン州では、マリファナを合法化する法案は住民投票で承認されたものの、生産者や小売業者のライセンスのルールなどを設定していないため、まだ販売は行われていない。

2018年1月時点でアメリカでは、ワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州、ネバダ州、アラスカ州、コロラド州、メーン州、マサチューセッツ州とワシントンD.C.、9つのエリアで、レクリエーション用途でのマリファナの使用が合法化されている

カナダでは国家としてマリファナのレクリエーション用途の合法化に関する法案が可決され、2018年10月17日から嗜好品としての大麻の所持・使用が合法化される

世界では、マリファナのレクリエーション用途での使用が合法化されつつあり、アメリカやカナダでの合法化の動きとともに、巨大なマリファナ市場が立ち上がろうとしている。

『Forbes』によれば、現在の世界の合法大麻市場の規模はおよそ77億ドル(約8,400億円)と推定されている。今後60%の年平均成長率が予想されており、2021年には314億ドル(約3.4兆円)にまで成長する見通し。Cowen&Coの報告によると、2026年には500億ドル(約5.4兆円)まで拡大すると予測されている。

市場の盛り上がりを背景にデザインファームFrogがレポートをリリース

市場の拡大とともに、そこにビジネスチャンスを見出すプレイヤーや、「どのように市場を成長させられるか」という視点で関わるプレイヤーも登場している。

Apple IIcの躯体デザインで世界に衝撃を与え、40年に渡り世界に優れたクリエイティブを提案するデザインファーム「Frog design」。世界でも有数のデザインファームが、アメリカのマリファナに関する意識調査とマーケットの可能性をまとめたレポート「CROSSING THE CANNABIS CHASM」を自社のウェブサイトで配っていると知り、とても驚いた。

非合法だったものが合法化され、大量消費されていく現象は、歴史的に見てもあまり例を見ない。Frogでは、デザインの力がマリファナのマーケットに及ぼす影響は大きいと考えており、レポートをまとめるに至ったようだ。

需要拡大のカギはパブリックに使用することへの許諾

Frogのレポートでは、アメリカ国内でのマリファナに対する意識調査の結果が掲載されている。価値観が多様化する今、世代や地域によってマリファナに対する意識は多様ではあるが、多くのアメリカ人は、マリファナの解禁を許容していると結論づけた。

ただし、現状では、他人と体験を共有したり、パブリックな場面での使用には拒否感があるようだ。アンケートでは「リラックス目的で、家の中で一人で使用すること」を許容できる人は47%に対して「リラックス目的で、同僚と使用すること」になると21%、「公共空間で使用すること」になると16%まで下がる。

アンケートからも読み取れるように、需要を拡大するためには「自分たちと同じような人々が使って良いんだ」というパブリックにおける許容に対する合意形成が必要である。

フォーマル・カジュアル、プライベート・パブリックの軸で分けた4つの使用場面

Frogはレポートの中で、マリファナの消費のされ方を、フォーマル・カジュアル、プライベート・パブリックの観点から、Escape and Relax / Treatment / Wellness / Enhance the Experienceの4つに分類し、それぞれの需要を拡大していくために効果的なデザイン方針をまとめている。

Escape and Relaxは、カジュアルでプライベートな使用の方法。仕事から帰ってきて、家で一人になり、日頃のストレスを一時的に忘れて、リラックスするためにマリファナを用いる場合だ。過度な使用を抑止する他人の目がないため、過剰摂取をしないように促す表記やデザインが必要であるとしている。

Treatment は、フォーマルでプライベートな使用。主に医療目的での使用だ。同社のアンケートや調査によると、レクリエーション目的での使用の合法化により、医療用マリファナの使用も心理的な障壁が減っているようだ。Treatmentのデザイン方針としては、健康を改善するために臨床的に立証されていることなどを分かりやすく伝えることが重要。グラフィックも権威的なイメージがよいとしている。

Wellness は、レクリエーション目的での使用が合法化されたときに、大きな需要が発生すると、記述されている。ビタミン摂取やストレッチの延長として、健康を促進するための日常的な使用であるため、用法・用量の設定などが重要となる。個々の消費者の体験を、消費者同士で共有し、健全なマーケットを広げていく必要がある。女性からのニーズが高いであろうとの予測もされている。

Enhance the Experienceは、野外フェス、アウトドアアクティビティ、高級ディナーなど、エンターテイメントや特別な体験を強化する機会としてのマリファナの使用だ。同じエンターテイメントを楽しむ消費者同士での体験の共有や、クリーンなエンターテイメント空間、信頼性の高いインフルエンサーなど一緒に消費デザインを行うことで、大きな需要が見込まれるとしている。

アップデートされつつあるマリファナへのイメージ

グラフィックとしてよく見かける5枚の葉っぱ。ラスタカラーと共にデザインされたビジュアルイメージは、今後のマリファナにとっては負の遺産と言えるかもしれない。

Frogのレポートが洗練されたデザインで表現されているように、マリファナに関係する新しいプレイヤーは、既存のイメージから抜け出し、ブランドやショップをアップデートしている。

2010年にカリフォルニアで設立されたMedMenは、合法マリファナ産業を牽引するブランドだ。マリファナ界のスターバックスやAppleと評されており、店内はApple Storeのようだ。

“Shop. It’s legal.(買おうよ、だって合法だから)” というキャッチコピーが掲げられ「使用への許諾」を消費者に伝えている。

アメリカのオレゴン州ポートランドに2店舗を展開するSERRAは、今までのマリファナのイメージを一新し、新しいカルチャーをつくることをゴールとするブランド。ポートランドの写真ではおなじみの、白鹿のネオン看板にほど近い場所にある店舗は、セレクトショップのような雰囲気だ。

Instagramを覗けば、キーカラーになっている青が映えるコントラスト高めの写真が並ぶ。私たちが抱いているマリファナのイメージとはいい意味でかけ離れている。

吸引タイプだけでなく、チョコやペットフードも

消費者の多様化に合わせて、プロダクトの変化も生まれている。

MedMenの分析によれば、若年層は、グミやキャンディーなど喫煙以外での使用方法を好む傾向にある。店舗には、キャンディーやチョコレート、ボディークリームやペット用のサプリメントなども取り揃え、様々な用途を提案している

SERRAでもオイルやスプレー、クリームの形態でも販売されている。他にもブランドロゴやキャッチフレーズをグラッフィックに使ったアパレルやアクセサリーもある

プロダクト自体のニーズを高めるだけでなく、消費形態、体験をデザインする

新しく生まれる巨大なマーケットは、大きなチャンスだ。プロダクトの販売だけでなく、使用の体験創出、機会提供など、関わる分野は多岐にわたる。消費より体験が重視される今の購入行動ともマッチしているだろう。

Frog副社長のTim Morey氏はレポートのリリースに寄せて、デザインを重要性を次のように語った

「これまで禁止されていた製品が数十億ドル規模のマーケットになり、想像もできないような波及効果をもたらすことは、これまで前例がない。購入や使用に対する障壁を減らし、市場拡大を加速させるためには、効果的なデザインと商品戦略が欠かせないと考えている。合法化は物理的な障壁は減らすかもしれないが、いま消費者は使用への許諾を求めている」

img : SERRA,MedMen,CROSSING THE CANNABIS CHASM

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