海外で「新素材コスメ」が人気急上昇の理由〜スーパーフード、マッシュルーム、古代の薬草も

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化粧品業界で2015年ごろからトレンドとなっていた「ナチュラルコスメ」。海外ではいよいよトレンドから「メインストリーム」へとのし上がろうとしている。

消費者は、より自然由来で身体に良いもの、それでありながら美を引き出す化粧品を求めている。それに応える形で、メーカーもユニークな素材・食材を使ったコスメを開発。

最近ではマッシュルームやスーパーフードを使ったアイテムが発売され、美容大国の韓国やフランスのコスメブランドでは古代の薬草を原料としたものも開発された。

動物由来の成分を一切使っていない「ヴィーガンコスメ」も人気。今、世界で最も影響力のあるヤングセレブの一人、Kylie(カイリー)も自身のヴィーガンコスメブランドを立ち上げるに至っている。

日本ではまだ馴染みの薄いナチュラルな新素材コスメ。なぜこんなにも注目を集めているのかーー。美容や消費に対する価値観の変化を考察する。

スーパーフード、古代の薬草・・・コスメ業界に新風吹かせる新素材

2018年7月にジェイ・ウォルター・トンプソンが発表したレポートによると、新しいコスメトレンドに、マッシュルーム、スーパーフード、タイガーグラスなどの新素材を挙げている。

同社のレポートによると、消費者のナチュラル志向は2015年ごろから加速しており、各社は肌に優しいだけではなく、ナチュラル志向でインパクトのある素材を求め、開発を進めている。

アメリカ、ロサンゼルスで話題のウェルネスブランド、Moon Juice(ムーン・ジュース)をご存知だろうか。アマンダ・シャンタル・ビーコンさんが2011年に立ち上げたジュースブランドだ。


創業者のアマンダ・シャンタル・ビーコンさん。
「新しい生き方に興味がある人のためにムーンジュースを作りました」と語る(Moon Juice公式サイトより)

Moon Juiceは単なるジュースを超え、人びとの身体・精神・脳までも癒し、パワーアップさせることを存在意義として掲げている。

製品ラインナップには、ウェルネスへの高い意識と美意識が反映されており、ショップには栄養学の知識を持ち、顧客のニーズに合わせた商品を提案できるスタッフをそろえている。


ビタミンやミネラル、酵素がそのまま生きているコールドプレスジュース。製品のスタイリッシュなパッケージや店舗はブランドの思想を体現している(Moon Juice公式インスタグラムより)

そんなMoon Juiceが、マッシュルームを使った美容液を開発し話題を呼んでいる。公式サイトの商品説明では、シワや肌のハリに効果があると謳われている。価格は58ドル。

公式サイトのレビューページには59件中54件に5つ星の評価がついており、「肌の感じがまったく変わった」「まわりの人に肌が綺麗になったねと言われた」などの声が掲載されている。

美容液タイプの他に、飲み物に混ぜて摂取する粉末タイプもあり、身体の内側からコラーゲンを守るようだ。


リップにも使える美容液。マッシュルームを原料としている(Moon Juice公式サイトより)

ここ数年注目を集めているスーパーフードも、コスメ領域で活用されている。

メイクアップアーティストの植村秀が創業したグローバルブランド、shu uemuraからは、スーパーフードを原料としたヘアケア商品が発売された。公式サイトには2018年7月時点で77件のレビューが幅広い年代から集まっており、総じて評価は非常に高い。


乾燥した髪に効果があるというヘアケア商品(シュウウエムラ公式サイトより)

さらに昨年は、韓国コスメブランドのDr Jart(ドクター・ジャルトルト)がタイガーグラスを使用したコスメを発売し、爆発的な人気を呼んだ。タイガーグラスとは東南アジア産の薬草で、日本ではツボクサとも呼ばれている。タイガーグラスという呼び名は、虎の怪我と感染症を治すために使われたことに由来している。

中国やアフリカでは生薬として古くから使われており、肌の鎮静効果、新しい皮膚細胞の成長促進効果があるようだ。Dr Jartからはタイガーグラスを使用したクリームが発売されており、肌の赤みの沈静化に効果があるだけではなく、「使うことで肌が強くなる」点が大きな魅力だという。

拡大するナチュラル系のコスメ市場、2024年には220億ドル規模に

インターネット調査会社 Statista(スタティスタ)によると、ナチュラル系コスメの市場は2024年には220億ドル規模になる見込み。拡大が見込まれる市場にメーカーも先行投資をしている。

これまでも、消費者はブランドに多くのものを求めてきた。新しさ、効果、見た目の美しさ・可愛さ、価格、話題性・・・しかしなぜ今、ナチュラル系のコスメに注目が集まっているのだろう。

まず一つは、ウェルネスへの関心の高まりが挙げられる。摂取するもの、肌に使用するものの原材料が、健康におよぼす影響について消費者は敏感になっているのだ。

先ほど紹介した韓国コスメのDr Jartは「お医者さんがつくったコスメ」として知られており、アメリカでもフロリダの皮膚科医によって開発された「 ゴールドファーデン・エムディ(Goldfaden Md)」などが人気を博している。


Dr Jart公式サイトより

また、環境汚染への懸念も高まっている。中国やその近隣の韓国では、大気汚染が原因で肌荒れを起こす人が少なくない。汚染対策のスキンケア製品が今後さらに増えるのではと予想されている。

ファッションメディア VOGUEの記事「 Five Trends That Will Transform Beauty In 2018(2018年、美容に関する5つのトレンド予測)」によると、イギリスでは汚染対策用の高級スキンケア製品の販売額が下半期で310万英ポンドにも達した。

新素材の本命、ヴィーガンコスメに見る新たな価値観

こうしたナチュラルコスメの人気を支える、もう一つの新たな価値観がある。自分たちが消費する商品にトレーサビリティー(追跡性)を求める考え方だ。

人びとはコスメを買う時にどんなことを考えるだろうか。パッケージの可愛さや化粧品自体の機能、SNS映え、話題性・・・さまざまな要素があるはずだ。

しかし今、海外では、この化粧品はどこからきたのか?環境を破壊していないか?動物を苦しめていないか?というところまでに考えをめぐらせる人が現れ始めている。

例えば、ヴィーガンコスメも人気。動物由来の成分を一切使っておらず、その製造の課程で環境破壊や動物実験を行っていないコスメのことだ。


モルモット

ヴィーガンコスメは、20歳のヤングセレブ、Kylie Jenner(カイリー・ジェンナー)が自身のブランドを立ち上げたことで注目を集めた。

公式サイトには、すべての商品に対して動物実験は一切行っておらず、人気商品のThe Kylie Lip Kitは全てヴィーガンコスメであると記載。多くの商品は発売後すぐに完売。インスタグラムなどSNSを巧みに使い話題性を作っていることも特徴だ。


ヤングセレブ、カイリーが立ち上げたKylie Cosmetics(カイリー・コスメティクス)。ELLE Girlによると18カ月で4億2,000万ドル(約461億円)を売り上げたそう(カイリーのインスタグラムアカウントより)

また、日本ではあまり知られていないが、ニューヨークで人気のコスメブランドMilkMAKEUP(ミルクメイクアップ)も2018年3月、完全ヴィーガン化したと公式サイトで発表した。


ポップでカラフルなコスメブランドMilkMAKEUP。パッケージの華やかさからお土産としても人気だ(MilkMAKEUP公式サイト

ヴィーガンと聞くと、ストイックなイメージを持たれがち。しかし、MilkMAKEUPの他にもlimcrimeやSpectrumなどポップで可愛らしいコスメブランドが数多く台頭している。

天然素材を使用し、動物実験を行わない方針を宣言しているだけではなく、SNS映えするフォトジェニックなパッケージが現代的だ。さらに、さまざまな肌に合うように作られており、身体にも社会にも優しいブランドと言える。


イギリスのヴィーガンコスメブランドSpectrum(スペクトラム)。10本入りのマーメイドブラシは貝の形のケースに入っている(Spectrum(スペクトラム)公式インスタグラム

これらのブランドは日本未上陸だが、イギリス発のザ・ボディショップ、ラッシュもヴィーガンコスメを多く取り扱っている。ザ・ボディショップからはボディミルクがすでに発売されており、2018年8月にはストロベリーのノンシリコンシャンプーが発売される。


ザ・ボディショップのヴィーガンコスメ、ボディヨーグルト(ザ・ボディショップ公式サイト

新しい価値観、”クリーン”であること

前出のVOGUE記事には、このような言及がある。

英コスメストアの「スペース・エヌ・ケー(Space NK)」の購買ディレクターであるマーガレット・ミッチェルは、「クリーン」への欲求は「ナチュラル」派の消費者に限ったことではないと付け加える。「もはや自然派かどうかは無関係です。あらゆる人がクリーンを求めています」

世界の消費者は、自分たちの健康や美容に対してだけではなく、その商品自体が生物や自然に対して誠実で「クリーンであるか」どうかに関心を向け始めている。

これはコスメに限らない。特にヨーロッパの消費者は服や食品がどのように作られているかもをとても気にしている。オランダのスーパーでは卵に認証マークがついており、鶏が劣悪な環境で育てられていないことを消費者に伝えている。

この点で日本は遅れており、現代ビジネスの「日本人だけが知らない「食用卵」のアブない実態」によると、日本の卵農家の92%は、EUであれば違法業者となるそうだ。

大量生産・大量消費の時代はとうに終わった。ブランドも消費者も、コスメが持つあらゆるストーリーに目を向け、地球環境や他の生物に配慮した生産・購買態度を求められている。

「綺麗になった」「楽しい」・・・など、コスメはすでにさまざまなポジティブな感情を生み出してくれるが、今後はますます私たちの生活や精神性を豊かにしてくれるはずだ。

文:佐藤まり子
編集:岡徳之(Livit

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