人工知能以上に盛り上がる、中国のスパコン・量子コンピューター開発

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家庭用コンピューターの計算処理能力を遥かに凌ぐスーパーコンピューター。このスーパーコンピューターの保有台数が現時点でもっとも多い国をご存知だろうか。

年2回更新される「TOP500」という世界スパコンランキングがある。このランキングでは、スパコンの計算能力をランク付けし、上位500台を対象に国ごとの保有台数を公表している。

もっとも最近公開されたのは2018年6月。これによると、スパコン世界最多保有国は、206台で中国となったのだ。これまでスパコン開発と保有台数で世界のトップを走ってきた米国は124台と、中国と大きな差を開けられている。ちなみに3位は日本で36台、4位英国22台、5位ドイツ21台、6位フランス18台、7位オランダ9台、8位韓国7台、9位アイルランド7台、10位カナダ6台。中国と米国が世界のスパコンの70%近くを保有していることになる。

中国がスパコン保有国台数で米国を追い抜いたのは、2017年11月のランキングでのこと。このときは、中国202台、米国143台だった。その半年前、2017年6月時には、米国は169台で1位、中国160台で2位だった。

このランキングに示されるように、中国は近年スパコン開発を加速させている。また、量子コンピューター分野でも投資を拡大し、世界でのプレゼンスを高めようとしている。

なぜ中国は、米国を凌ぐほどスパコンと量子コンピューターの開発に力を入れるのだろうか。

中国、イノベーション国家に向け人工知能とスパコン開発に注力

2030年に人工知能分野のグローバルリーダーになる。中国が掲げるこの目標を達成するためにはスパコンや量子コンピューターの存在が欠かせない。

2014年、中国政府は人工知能開発に約1,500億ドル(約16兆5,000億円)の投資を行うと発表。2017年までにその3分の1に相当する額が準備されたといわれている。さらに2017年7月に発表された国家戦略には、2030年までに中国が人工知能分野のグローバルリーダーになるという目標が盛り込まれ、人工知能開発を一層加速させることになった。

この目標に向けての取り組みの一環として、中国ではすでに小売サービスや警察で人工知能を活用した顔認識システムが広く導入されている。実際の利用を通じて知見を蓄え、国内利用だけでなく、海外へ輸出することも計画されている。


顔認識システムの重要インフラ、中国の防犯カメラ

人工知能の社会的な普及を鑑みると、中国はすでに他国をリードしているといえるが、その地位はまだ盤石ではない。人工知能のパフォーマンスはデータの学習量が大きく影響を及ぼすため、人工知能開発と同時にコンピューターの処理速度を高めていくことも必須の課題となるからだ。

中国が開発するスパコンは「天河二号」と「神威・太湖之光」がよく知られている。

天河二号は、TOP500ランキングにおいて2013年6月から2015年11月まで世界最速の座を維持したスパコンだ。最新ランキングでは世界4位に位置している。最近話題となっている人工知能を活用した監視・犯罪予測ネットワーク「天網」の基盤と見られている。

神威・太湖之光は、2016年6月から2017年11月までランキング1位となったスパコン。清華大学が開発しており、2017年よりスケールダウンしたバージョンが販売されている。

中国はイノベーションによる経済成長モデルを目指しているが、人工知能とスパコンは不可欠な存在となる。なぜなら、人工知能とスパコンを活用することで、これまでにない規模と精度のシミュレーションが可能となり、それは創薬、航空、船舶、自動運転などさまざまな産業でのイノベーションを加速させることになるからだ。たとえば、高い計算処理能力が求められる3次元シミュレーションでは、これまでにないファクターを付加して、より現実に近い環境を仮想空間に作り出すことが可能となり、そのなかで自動運転車や航空機の実験ができるようになるのだ。また、産業だけでなく気象、核物理、量子力学などの科学分野でも高度シミュレーションがもたらす革新に期待が集まっている。

政府、アリババ、バイドゥなど、中国で加速する量子コンピューター開発

中国はスパコンだけでなく量子コンピューターの開発でも、世界をリードする構えだ。

開発を加速させるにあたり、2020年に世界最大の量子コンピューター研究施設を開設する計画だ。施設の広さは37ヘクタール(東京ドーム約9個分)、総工費760億元(約1兆2,440億円)、中国東部にある安徽省・合肥市に建設される予定となっている。


サイエンス都市として注目される安徽省・合肥市

地元紙などが報じるところでは、量子コンピューターの研究開発のほか、量子計測を応用した潜水艦ナビゲーションシステムの開発が行われるという。

また、技術コンサルティング会社Patinformaticsの代表、トニー・トリッペ氏がブルームバーグに語ったところによると、量子テクノロジーを活用した暗号化技術の開発と特許取得で、中国だけでなく欧米の金融機関がしのぎを削っているという。金融や軍事、さらには医療などデータの機密性が高い分野での活用が想定されているようだ。

トリッペ氏によると、量子テクノロジーによる暗号化を施せば、既存のコンピューターでは解読不可能となる。一方、量子テクノロジーを駆使すれば、既存のコンピューター上の暗号は簡単に解読でき、システムに侵入することができるという。

中国はこれまでにも量子テクノロジーを応用した暗号化の研究を進めており、いくつか世界中から注目を集める研究結果を発表している。2016年8月には、世界初となる量子通信衛星を打ち上げ、その1年後にその衛星から解読不可能のコードの発信に成功したという報道がなされていた。

政府や大学だけでなく、中国企業も積極的に量子コンピューターの開発に乗り出している。

アリババは2017年10月、150億ドル(約1.6兆円)を人工知能や量子コンピューターなどの次世代テクノロジーに投じると発表。2018年2月には、IBMに次いで世界で2番目に強力な量子コンピューターをローンチ。アリババの量子コンピューターは11量子ビット。2017年11月に登場したIBMの量子コンピューターは20量子ビットだ。

このほか、テンセントやバイドゥも量子コンピューター開発に本格参入。バイドゥは2018年3月に、独自の量子コンピューター研究所を開設したと発表。またテンセントも研究所を開設することを明らかにしている。

人工知能に関して話題になることが多い中国だが、今回紹介した事例が示すようにスパコンと量子コンピューターは人工知能以上に盛り上がっているといえるのかもしれない。人材不足が顕著になっているといわれるなか、この先どのように開発の勢いを弱めず、世界のリーダーになるという目標を達成するのか。今後の動向に注目していきたい。

文:細谷元(Livit

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