1961年にソ連のボストーク1号が人類初の有人宇宙飛行に成功してから、人類は宇宙を目指してきた。1969年には米国のアポロ11号が月着陸に成功し、以降、スペースシャトルをはじめ、世界各国が宇宙を目指している。
日本でも同様の試みは進められているが、今回、なんと月や火星で事業を推進しようというプロジェクトが登場した。
ANAホールディングス株式会社(ANAHD)と国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、“AVATAR X Program”(アバターエックスプログラム:AVATAR X)を始動すると発表した。
月や火星で建設事業やエンタメ事業展開を目指す
「AVATAR X」は、今後の宇宙関連市場の大幅な拡大を見据え、宇宙関連事業への参入を目指す企業・団体と、ANA・JAXAが連携し、「AVATAR(ANAグループが描く瞬間移動手段」を活用した後述するような宇宙関連事業の立ち上げを目指すプログラムだ。
2018年3月に発表した「ANA AVATAR VISION」と、新たな発想の宇宙関連事業の創出を目指す「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」における「人類の活動領域を拡げるテーマ群」の一環として始動した。
具体的な宇宙事業は以下の3つ。
- 宇宙空間における建設事業
- 宇宙ステーションや宇宙ホテルなどの保守・運用事業
- 宇宙空間におけるエンターテインメント
まずは「コンソーシアム」という共同体にて第一歩を踏み出し、今後は事業会社化を視野に入れながら、将来的には、月面や火星などへ事業を展開していくことを目指していく。
また、「AVATAR X」は、主に以下の4つのステップに分けて、その活動を推進していく。
- ステップ1
- 各事業分野におけるコミュニティの形成を目的に「AVATAR X」コンソーシアムを速やかに発足
- コンソーシアム会員について、革新的な技術や知見を持つ新興スタートアップ企業や異業種企業を含め、産官学各方面より広く募集
- 「AVATAR X」コンソーシアムにおいて、AVATARを活用した宇宙関連事業の事業性検討や、事業計画・ロードマップの作成に着手(「J-SPARC」事業コンセプト共創フェーズ)
- ステップ2
- 2019年からの事業会社化を視野に入れながら、AVATAR技術を宇宙空間で活用する前段階として、月や火星の宇宙環境を模した、大分県内の技術実証フィールド「AVATAR X Lab@OITA(アバターエックスラボアット大分)」において、「地上での技術の実証実験と事業性検証」を行なう(※)
- AVATAR技術を中心とする最先端技術の実証実験を行なうため、「AVATAR X Lab@OITA」に「建築事務所 CLOUDS Architecture Office」がデザインするシンボル建造物を配置し、実証実験に必要な通信や研究設備などの環境を整備
- AVATAR技術の実証実験に限らず、将来人類が宇宙空間で生活するために欠かせない5つの軸、 ①「探す・みつける」、②「楽しむ・学ぶ」、③「建てる」、④「暮らす」、⑤「医・食・住」を中心とした各種の事業性検証も併せて「AVATAR X Lab@OITA」にて行なう
(※)AVATAR X Lab@OITA 全体イメージ
(※)AVATAR X Lab@OITA シンボル・ビルディング
(※)VATAR X Lab@OITA 月面環境模擬センター
AVATAR X Lab@OITA R&Dセンター
- ステップ3
- 2020年代序盤の開始を目指し、「宇宙空間(地球低軌道)での技術の実証実験と事業性検証」後、各事業を立ち上げ
- ステップ4
- 将来的に、これら事業を月面や火星にまで展開するフェーズとして想定
「AVATAR X」にアバターロボットを活用
また、この「AVATAR X」プロジェクトに株式会社メルティンMMIが参画し、アバターロボット「MELTANT」の宇宙環境での利用に向けた本格的な取り組みを開始する。
同社によると、有人宇宙計画において、宇宙飛行士を現地へ送り届けるまでには高いハードルがある。しかし、人間の知覚を同期させて遠隔操作できるアバターロボットがあれば、宇宙飛行士の作業を代替することで、地上の管制室から宇宙環境での作業をリアルタイムに行うことが可能だという。
つまり、地上に居ながら宇宙で仕事ができるわけだ。
加えて、宇宙における作業は非常にリスクが大きく、宇宙飛行士などの滞在者の生命維持には莫大なコストが必要だ。アバターロボットによる作業代替により、宇宙開発における安全性向上やコスト低減が期待されている。
また、宇宙飛行士は宇宙服越しにしか月の表面に触れることができないが、アバターであれば生身と同じ感覚で月の表面に触れる体験が可能となるのだ。
MELTINが開発したアバターロボット「MELTANT」は、宇宙ステーション、月面基地、火星基地など、あらゆる宇宙環境での利用を想定している。想定されるユースケースは以下のとおり。
宇宙ステーション(地球低軌道・月周回軌道)
- 宇宙飛行士の生活補助(食料生産、料理、清掃など)
- 科学実験における作業
- 船内における各種機器のメンテナンス作業
- 船外活動によるメンテナンス作業
- 遠隔宇宙体験
など。
宇宙ホテル
- 従業員の作業補助(食料生産、料理、清掃など)
- 宿泊者への各種サービス提供
- 船内における各種機器のメンテナンス作業
- 船外活動によるメンテナンス作業
- 遠隔宇宙体験
など。
軌道上サービス
- 地球軌道上における大型の人工衛星や宇宙探査機等の組み立て作業
- 地球軌道上の衛星に対する燃料補給・修理・改修
など。
月面基地
- 基地の建設作業、メンテナンス作業
- ローバーや各種機器のメンテナンス作業
- 基地外の暴露環境における危険作業
- 滞在者の生活補助(食料生産、料理、清掃など)
- 遠隔医療の提供(診断、手当、手術)
- 科学実験における作業
- 月面から採掘した水の精製プラントにおける作業
- レゴリス(月の砂)用3Dプリンターを用いた材料生産
- 遠隔月面体験
など
火星基地
- 基地の建設作業、メンテナンス作業
- ローバーや各種機器のメンテナンス作業
- 基地外の暴露環境における危険作業
- 遠隔医療の提供(診断、手当、手術)
- 現地で採掘した各種資源の処理設備における作業
- 遠隔火星体験
など
宇宙ステーションや月面基地などの全作業を自動化することは困難であり、今後も一部の作業は人間の高度な判断と作業能力が必要となる。
そのようななか、工具や各種機器のインターフェースなどは人間による操作が前提とされているため、そこで作業代替する遠隔操作ロボットには人間に近い能力が要求される。
このため、MELTANTのロボットハンドは、人間と同サイズでパワー・スピード・自由度・ハプティクスを兼ね備えており、また直感的な操作が可能となっている。宇宙環境において多様でハイレベルな作業代替が可能となる。
今後、継続的に模擬フィールドでの実証を繰り返し改良を重ねることで、宇宙環境におけるMELTANTの実利用の早期実現を目指す方針だ。
また、世界で初めて力強さと繊細な動きを両立した「人間の手に最も近い」ロボットハンドを備えることで、従来のロボットハンドには困難であった複雑で柔軟な作業が可能となった。
人類の活動範囲を広げるため宇宙を目指す
宇宙空間、あるいは月や火星でコンサートを観覧できる―
考えただけでもワクワクする。
人類が宇宙を目指すのはただの興味だけではなく、人類の活動範囲を広げるという目的がある。ゆえに、資源を求めたり、宇宙での事業展開を考えたりするわけで、今回のプロジェクトの登場は必然のことだったのではないだろうか。
こうした「宇宙ビジネス」はすでに各国で構想されており、日本ではホリエモンこと堀江貴文氏が出資したロケットが打ち上げ失敗が話題となった。
「AVATAR X」のロードマップでは2019年から地上での実証実験が開始されるということである。その成果に大いに期待したい。