あなたが知らない「スマート家電DV」。スマート家電の許せない用途ーーIoT業界の不都合な真実

TAG:

スマート家電が、昨今世界中で人気を呼んでいる。リモートコントロールで、簡単に自宅のセキュリティ面、省エネ面の効率化を図ることができ、さらにここ数年で価格も手ごろになった。

米国のコンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーが、米国内のスマート家電の普及について調査したところによると、スマート家電を取り入れる家庭は2015年から年々約30%の伸び率で増え続け、2017年にその数は3,000万世帯近くに及んだそうだ。

しかし残念なことに、生活を暮らしやすくしてくれるスマート家電が、人を傷つける道具になっていることが明るみになった。

6月下旬、『ニューヨーク・タイムズ』紙が、また時期を同じくして発表された英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンによる報告書「ジェンダー・アンド・IoT」が、それを浮き彫りにしたのだ。

勝手にかかるロック、盗聴するスピーカー、個人情報を転送するスマホ

この2つが明らかにしたのは、スマート家電が家庭内暴力(DV)に使われているという、ショックな事実だ。携帯電話やコンピュータ、タブレットなどを利用し、掲示板、コミュニケーション用アプリ、SNS上に誹謗中傷を書き込んだり、個人的な写真やビデオなどを本人の許可なく掲載したりといった嫌がらせが存在することは、周知の事実。

そこに新たに加わったのが、IoTによるDVなのだという。「ジェンダー・アンド・IoT」は、IoTと、女性に対する暴力や虐待との関係を調査し、まとめたものだ。

DVに使われるIoTの1つが、スマートホームシステムだ。スマートフォンからリモートコントロールで、サーモスタット、照明、オーディオの調節のほか、施錠や、人の動きのモニターなどができる。このシステムを使えば、虐待者は指1本、遠隔操作で、被害者に対し、嫌がらせ、監視、復讐、コントロールを行うことができるわけだ。

ヒーターの温度を高温にしたり、音楽を突然大音量で流したり、玄関のロックをはずせないようにしたりと、手口はさまざま。スマートスピーカーを通して、パートナーが自宅での言動を逐一知っていたという人、パートナーにスパイウェアが植え付けられたスマートフォンをプレセントされた人もいる。

1日24時間、365日のDVが被害者を追い詰める

スマート家電によるDVが特に陰湿なのは、「ノンストップ」な点にあるだろう。身体的、精神的を問わず、通常のDVの場合は、ふるわれる暴力と暴力の間には、間がある。しかし、スマート家電によるDVはそれがない。自宅にいる限り、1日24時間、何日にもわたる。そして、いつどこでどんな仕打ちに遭うかわからず、常に緊張した状態でいなくてはならない。これは苦痛なことだ。

精神的に崖っぷちに立たされ、誰かに相談しても、「スイッチに触ってもいないのに、家電がオンになったり、オフになったりする」といった訴えはなかなか信じてもらえない。そうなると、もしかすると自分がおかしいのではないかという疑いが生まれ、精神科や心療内科を受診する人もいるそうだ。病院で異常がないと認められると、夢を現実と取り違えているのだろうかと、自分が信じられなくなる。そして加虐者であることに気づかず、今まで以上にパートナーに依存してしまうのだそうだ。

テクノロジーは「諸刃の剣」

昨年、世界保健機関が行った発表によれば、DVを受けた女性は、全世界の女性の30%にも上るそうだ。DVの被害者が主に女性という傾向も世界的なもの。

これは、スマート家電を使ったDVにも当てはまる。テクノロジーに関しては、一般的に女性より男性の方が興味を持ち、知識も豊富なので、男性が機器を取り付けることが多い。その中に虐待者がいるわけだ。女性は男性に任せ、使用法や機器の機能を知らず、使用にあたって必要なアプリのインストールをしていることも少ない。

スマート家電のことがよくわからないからといって、虐待から逃れようと、機器のスイッチや、インターネットの接続を切ってしまうのは命取りだ。かえって逆効果で、加害者は逆上。さらにひどい行為に出る可能性もあるからだ。

同時に、ネットが接続されていないということは、被害者が孤立してしまうことを意味する。英国の慈善団体、コミック・リリーフとDV撲滅に尽力する組織、セーフライブズなどによる、「テク vs アビューズ」は、このことを警告するためのキャンペーン。テクノロジーによる嫌がらせに屈することなく、自らがテクノロジーをうまく利用することで、過酷な状況から脱却することを勧めている。

被害者を含め、関係するすべての人がIoTを知る必要あり

スマート家電によるDVの実態把握も、解決策の模索も、まだ始まったばかりだ。スマート家電が一般に普及し始めて、そう年月が経っているわけではない。しかし、改良を加えた新モデルがどんどん発売される。そのスピードに法律が追いつけていないせいもあり、虐待者が法の目をかいくぐるのは難しくない。スマート家電の関与は別にして、そもそもDV自体が非常に込み入った問題であることは言うまでもない。

「ジェンダー・アンド・IoT」の研究責任者、レオニー・タンクザー博士は、今できることは「教育」だという。まずは女性への教育。機器の仕組みを知り、虐待への対処法を身につける。さらに、どのようにすれば、虐待者との関わりを断てるかのノウハウも習得する。例えば、DVによる接近禁止命令に、IoTを通してのコンタクトも禁止する一文を加えてもらうこと、どんな証拠を残しておけば、裁判になった時に有利かを把握することなどだ。

また、支援団体のスタッフは、IoTによるDVの被害に遭った人に手を貸す方法を学ぶ。タンクザー博士らは、団体の参考になるよう、今回の調査結果を踏まえたガイドを作成し、ネット上でも公開している。


「G-IoT・テク・アビューズ・ガイド」には、支援団体が知っておくべきことがまとめられている

そして、スマート家電のメーカーは現状を理解すべきだ。博士は、開発時に女性の意見を取り入れること、機器にセキュリティ機能を追加すること、販売時に必ず取扱説明書という形で情報を提供することを勧める。さらに自社機器を通してDVに苦しむ人が出た時のことを考慮し、相談窓口を開設すべきとしている。

メーカー側も、この問題を深刻に受け止め始めている。「テク vs アビューズ」キャンペーンの会議において、アップル、FB、グーグルなどの大手は、助けを求める女性が出た場合、保護した女性保護施設を通しての連絡に応じることを示唆している。昨年、DVに苦しむ人をサポートする、英国の慈善団体、レフュージが相談員300人のトレーニング、被害者の安全を守るための専門グループの開設、キャンペーンを計画。この資金の一部を、グーグルが提供したという。


レフュージのウェブサイト。上部にある「ESCAPE/HIDE WEBSITE」のボタンを押すと、無関係なウェブサイトに飛び、DV関係のウェブを見ていたことを加害者から隠すことができる

『ニューヨーク・タイムズ』紙の取材に、米国のDV被害者支援団体のネットワーク、ナショナル・ネットワーク・トゥ・エンド・ドメスティック・バイオレンスのセーフティ・ネット・プロジェクト責任者である、エリカ・オルセンさんは、テクノロジーの悪用を語る際、「『スマート家電を通してDVができる』というコンセプトを広めたくない」と慎重な姿勢を崩さない。「しかし、このように明るみに出るようになったのでは、もう隠しておくことはできない」とも言う。

今後ますますの普及が予想される、スマート家電。スマート家電を使ったDVがはびこらないよう、対策を練る時が来ている。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit

モバイルバージョンを終了