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インスタグラムといえば数あるSNSツールの中でも、写真を中心とした比較的カジュアルな情報発信・共有の場という印象が強い。しかし、アメリカでは最近、政治や社会的なトピックについての議論を繰り広げる場として、インスタグラムを選ぶティーンエイジャーの姿が注目されている。
なぜアメリカの10代の若者たちは自らの意見を表明したり議論したりする場としてインスタグラムを選ぶのか、そして実際にインスタグラム上でどのようなやり取りが行われているのか、その実態を覗いてみよう。
ソーシャルメディアで居場所を失うティーンエイジャー
SNSの主軸であるフェイスブックとツイッターは、少し前まで多くのティーンエイジャーにとってもオンラインコミュニケーションの中心だった。しかし、最近のツイッターはスパムボットの投稿で溢れ、フェイスブックでも企業アカウントが幅を利かせるようになった。フェイスブックはSNSの中でも利用者の年齢層が高めということもあり、たとえ特定のコミュニティに入ったとしても、ティーンエイジャーは自分たちがきちんと相手にされないという疎外感を味わうことも多いという。
さらに20代の頃からSNSを使ってきた世代がティーンエイジャーの親になる時期に差し掛かっていることもあり、ティーンエイジャーにとってツイッターやフェイスブックは「親や教師をはじめとする『大人たち』が支配する場所」という印象が強くなってきたようだ。
ツイッター、フェイスブックを自分たちの居場所と感じられなくなったアメリカのティーンエイジャーたちは、Youtubeやmusical.ly(短編動画アプリ)、Tumblr(写真ブログアプリ)などに居場所を求めたものの、これらも既に固定ユーザーや少数のコミュニティ、広告コンテンツなどで占められており、不特定多数のティーンエイジャーが交流するプラットフォームとはなり得ない状態だった。
こうして多くのソーシャルメディアで居場所を失ったティーンエイジャーは、インスタグラムを同世代とのコミュニケーションの場として選ぶようになったという。
有名人をからかう目的で始まったインスタグラムアカウントが変質
今ティーンエイジャーが集まってきているのは「Flop Account」と総称されるインスタグラムのアカウントだ。「Flop」とは「みじめに失敗する、ポシャる」といった意味で、元々はセレブや売れっ子YouTuberなどの発信を取り上げてからかったり、恥をかかせたりする目的で使われていた。
こういったFlopアカウントが昨年から少しずつ変化し、たとえば有名人の差別的な発言など、ティーンエイジャーが「これは許せない」と感じたことが写真やビデオ、スクリーンショットで投稿され、コメントで議論が交わされるようになっていったのだ。5,000人以上のフォロワーを持つFlopアカウント「nonstopflops」を運用する13歳のAlmaは「Flopアカウントは良くない事や人に注意を向け、皆に気づかせる役割を持っている」とニュースサイトThe Atlanticの取材に答えている。
Flopアカウントの管理者一覧を表す画面
ひとつのFlopアカウントは通常複数人のティーンエイジャーによって運用されており、13〜15歳というローティーンの管理者も数多くいることに驚かされる。Flopアカウントのプロフィール画面にはアカウント管理者のニックネーム、性別、各自を表す絵文字が一覧になっていて、たとえば「nontstopflops」の場合Almaを含めて7人の管理者がいる。
インスタグラムのストーリー機能でアカウントの概要を説明
多くのFlopアカウントは投稿するネタを管理者以外からも受け付けるようにしていて、約2万人のフォロワーを持つ「toomanyflops_」では、インスタグラムストーリーのハイライト機能を使い、取り扱うトピックの特徴やネタ提供の方法などについて丁寧に説明している。
ティーンエイジャーの根深いメディア不信が背景に
そんなFlopアカウントの中でも、この数カ月で急増しているのが政治的、社会的なテーマにフォーカスしたアカウントだ。たとえば銃規制や移民問題、LGBTについての考え方、トランプ大統領の政策などがトピックとして投稿され、コメント欄がフォロワーたちの議論の場となっている。
flops.r.usというFlopアカウントで発信されている様々な投稿
現在#flopaccountというタグでインスタグラムを検索するだけで、5万件以上の投稿がヒットする。多くのティーンエイジャーがFlopアカウントに集まる理由は、既存のニュースメディアに対する強い不信感にある。Flopアカウントの管理者たちは「新聞やテレビのニュースには特定のフィルターが掛けられていて、一方的だ」と口を揃える。
デジタルネイティブ世代の彼らは、マスメディアの報道とは異なる意見、物の見方がインターネット上に溢れている環境で育ってきた。そのため、新聞やテレビでレポーターが発信していること、さらには学校の授業で教師が教えることも「単なる一人の考え」としか捉えられず、メディアの発信を事実と受け止めて疑わない親世代とのギャップを強く感じるのではないだろうか。
「Toomanyflops」の管理者である17歳のHalは「ティーンエイジャーは、家や日常生活では表現できない自分の信念や思想を発信できる場所を欲している」と分析する。Flopアカウント「flops.r.us」を運用する15歳のLunaも、親や教師、ティーンエイジャーの意見を軽んじる大人たちから離れて、同世代だけで議論をぶつけ合えるFlopアカウントこそが自分の居場所になっていると話す。
Flopアカウントが自らの思想構築の場に
ティーンエイジャーはFlopアカウントを意見表明の場としてだけでなく、自らの思想を構築する場としても、意識的に使うようになっている。「hackflops」というアカウントを立ち上げた16歳のBeaは、リベラル寄りのFlopアカウント、保守寄りFlopアカウントそれぞれで問題視されているトピック、議論の内容などを見比べながら、自分なりの意見や見方を作り上げていっているという。ティーンエイジャーにとって、テレビや新聞などのメディアよりも、Flopアカウントからの発信の方が参考にすべき情報源となっているのだ。
Flopアカウントの管理者たちは「投稿する前に、自分たちは必ず別々の情報源から複数人で情報の正しさを確認する。それにFlopアカウントでは皆がコメントしたり、質問したり、といった双方向のやり取りができる。だからニュースメディアよりもFlopアカウントでの情報の方が信頼に値すると思う」と自負する。
しかし管理者たちの意図に反してFlopアカウントが事実と異なる情報やフェイクニュースの発信源となってしまうこともあり、ニュースメディアStudy Breaksは、メディア気取りのFlopアカウントによる断片的な発信がマスメディアのニュースの代替となり得るはずがない、と一蹴している。しかし同時に、Flopアカウントは今のアメリカの高校生像を浮かび上がらせる場となっているとも述べている。
今のティーンエイジャーは社会問題に高い関心を持ち、自らの意見を発信したいと強く思っている。そしてティーンエイジャー特有の大人に対する反抗心から、同世代でコミュニティを作り議論することを居心地よく感じる。しかし、これは何も現在のティーンエイジャーに限った傾向ではない。これまでの世代が学校の休み時間や放課後に友人たちと集ってやっていたことを、彼らはインスタグラムというSNS上で再現しているのだと言えるだろう。デジタルネイティブ世代の彼らにとって、自分のアイデンティティを構築するコミュニティを選ぶ際に、クラスメートや地元の友人に限られる現実世界ではなく、より選択肢の広がるオンラインという場を選ぶのは、ごく自然なことなのかもしれない。
Flopアカウントについて取り上げているアメリカメディアの多くは、その持続性について懐疑的だ。他のソーシャルメディアと同様、すぐにスパムや広告コンテンツなどが入り込み、Flopアカウントの有効性が失われるのではないか、というのがメディア側の見立てだ。ようやくインスタグラムに発信・議論の居場所を見つけたティーンエイジャーたちは、その居場所を守り育てていくことができるのか、今後の動きにも注目していきたい。
文:平島聡子
企画・編集:岡徳之(Livit)