人工知能だけじゃない、極超音速テクノロジー開発でも存在感を高める中国

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イノベーション主導の経済発展モデルの確立を目指す中国。現在、人工知能を活用した顔認識システムやドローン・ロボット分野で躍進を見せ、世界中から注目を浴びている。

一方、他のテクノロジー分野でも着実な前進を見せている。

ハイパーソニック・テクノロジーはその1つといえるだろう。現在、北京-ニューヨーク間を2時間で結ぶ旅客機の開発や極超音速エンジンの大量生産などが計画されている。

ハイパーソニックとはNASAの定義によるとマッハ5~10の速度を指す。音速の5~10倍で、時速換算ではマッハ5が時速6,100キロメートル、マッハ10が時速1万2,000キロとなる。
ちなみに超音速旅客機と呼ばれたコンコルドの最高速度はマッハ2.2で、速度カテゴリはスーパーソニックとなる。ハイパーソニックの日本語訳には、極超音速という言葉が使われている。

極超音速テクノロジーに関して、現時点ではロシアが先端を行き、それに米国が追随する形になっている。そこに中国が参入、すでに米国と肩を並べつつあると見る研究者もいるという。

中国ではどのような極超音速テクノロジーが開発されているのか、その最新動向に迫ってみたい。

時速8,000kmも可能か、中国で開発されるハイパーソニック航空機

中国の科学ジャーナル『Physics, Mechanics and Astronomy(2018年2月版)』に掲載された論文では、北京-ニューヨーク間を2時間ほどで結ぶ極超音速航空機の開発進捗が公開された。中国科学院力学研究所のチームが進めているプロジェクトだ。

同研究チームは、極超音速航空機の縮小モデルを使い風洞実験を実施。この風洞実験施設は、中国の最新極超音速兵器の試験でも利用されている軍事グレードの施設だ。この施設で、研究チームはマッハ7(時速8,600キロメートル)まで速度を高めることに成功したという。

風洞実験のイメージ

北京からニューヨークまではおよそ1万キロ離れており、既存のジェット旅客機だと14時間かかる。仮にマッハ5(時速6,100キロメートル)で巡航できるとすると、所要時間は2時間弱にまで縮まることになる。

今回、使用された極超音速航空機は翼が2枚ある複葉機タイプ。地上から見た降下時のシルエットがアルファベットの「I」に見えることから、「I-plane」と呼ばれている。今回の実験では、2枚の翼によって乱気流や抗力が抑制されることが確認できたという。


「I-plane」の形状(論文「Hypersonic I-shaped aerodynamic configurations」より

また翼が2枚あることで大きな揚力を生み出せるため、より多くの乗客と荷物を運ぶことが可能となる。これまで米国などで公開された極超音速航空機には流線形のものやコンコルドのようなデルタウィングタイプが多いが、これらのタイプでは積載量に大きな制限があるといわれている。


コンコルド

今回公表されたのは縮小モデルによる風洞実験であり、実用化にはまだ長い道のりが予想される。一方、I-planeの革新性に注目する専門家は少なくないようだ。

サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)紙によると、中国の軍事研究プロジェクトに携わる航空デザイン専門家は、I-planeが極超音速航空機分野のゲームチェンジャーになる可能性を指摘している。

また、I-planeの研究チームは中国の極超音速兵器の先端プロジェクトにも携わっており、屋外実験の準備を進めている可能性が高いと述べている。

ロシアや米国との極超音速テクノロジー開発競争で、I-planeは中国が優位に立つための重要な切り札として見られている。一方、ほかにもさまざまな計画や取り組みが明らかにされており、中国が本腰を入れてロシア、米国との差を埋めにいこうとしているが読み取れる。

I-planeプロジェクトの研究者らが所属する中国科学院力学研究所は2018年4月、中国東部の安徽(アンキ)省合肥市に航空機エンジン製造工場を設立する計画を明らかにした。工場の完成時期は明らかにされていない。

関係者らがSCMPに語ったところによると、この工場では極超音速航空機向けエンジンの量産が計画されているという。合肥市は最近多くの研究者を魅了する「サイエンス都市」として注目を集めている。

「サイエンス都市」として注目される合肥市

また、2020年を目処に中国国内に世界最速の風洞実験施設が建設される予定で、この施設では秒速12キロメートルで飛ぶ高速飛行体のシミュレーションが可能になるという。これは中国から米国西海岸まで14分で到達するスピードだ。

中国の参入で激化を見せる極超音速テクノロジー開発競争。インドなども野心的な取り組みを行っていると報じられており、各国での開発の勢いはさらに増していくと考えられる。今後の展開に注視が必要だ。

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