2018年はファッション産業における歴史的な転換点になることが予想されている。
マッキンゼーとビジネス・オブ・ファッション(BoF)の最新レポートよると、これまで世界ファッション市場の売り上げの50%以上を占めてきた北米・欧州市場だが、2018年に歴史上初めて50%以下になる可能性が出てきたのだ。
2011年北米・欧州市場のファッション売り上げシェアは60%だったが、アジア太平洋や南米など新興市場の売り上げシェアが拡大し、2018年には50%、2025年には45%まで縮小する見込みという。
特にアジア太平洋地域では2018年のファッション市場成長率が6.5〜7.5%と世界最大の伸び率になると予想されており、北米・欧州に取って代わる可能性が示唆されている。
そのなかでもさらに注目を集めているのが中国市場だ。人口14億人の巨大市場。中間層の増加、所得水準の高まりから、今後もさらなる成長が見込まれており、国内外のブランドがシェア獲得を競う活発な市場となっている。
この中国市場でいま、ミレニアル世代を中心とした消費者の意識変化とともに、「ファッションシェア」や「サステナビリティ」をキーワードとした新しいトレンドが生まれつつあり、ファッション業界関係者だけでなく起業家や投資家の関心を引いている。
高学歴層がつくりだす中国ファッション市場の新たなトレンド
2018年5月にシリーズAラウンドで数百万ドルを調達したと報じられているShare2は、中国の新しいトレンドを代表するスタートアップといえるだろう。
同社が提供するのは中古の女性用衣服やアクセサリーを売買するプラットフォームだ。ただし、よくあるC2Cモデルではなく、同社が介在し、ブランド鑑定、クリーニング・アイロン、写真撮影を行うC2B2Cモデルを採用している。
スマホアプリで簡単に操作できるインターフェイスや人気ブロガーを起用したプロモーションなどが奏功し、ミレニアル世代を中心に人気を集めている。中国では偽ブランド品が多く出回っているため、同社が介在したブランド鑑定も購買を促進し、80%のアイテムが30日以内に売れているという。
中国初のアップサイクル・マーケットプレイスといわれるSquirrelzにも各方面から関心が集まっている。
「廃棄ファッション版アリババ」とも呼ばれているSquirrelzのプラットフォーム上では、ファッションブランドは製造過程で出た不良品やプロモーションでの売れ残り品をデザイナーに買い取ってもらうことができる。
一方、デザイナーは廃棄される予定だったアイテムに自身で価値を付加し、このマーケットプレイスで販売することが可能だ。同社ウェブサイトによると、H&Mやニューバランスなど大手ブランドもSquirrelzのプラットフォームを活用しているという。
Squirrelzの創業者バニー・ヤン氏は、中国のファッション業界に18年以上携わってきた経験を持つ。ファッション大量廃棄問題を目の当たりしたことがきっかけとなり2013年にSquirrelzを立ち上げた。
ヤン氏はtechnodeの取材で、立ち上げ当初は買い物客の80%が海外客で、中国国内の客は20%のみだったが、国内の消費者意識が変化しており、現在では国内客の割合は50%まで高まったと述べている。中国国内客の多くは海外から戻ってきた高学歴層という。
中国ではこれまで中古アパレルは、死人を連想させたり、海外で捨てられたもの、また不幸を呼び寄せるといったネガティブな印象を持たれがちだったといわれている。
しかし、高学歴・アッパーミドル層を中心に、ファッション消費に対する考えが変わりつつあり、それが新しいトレンドとなって現われているようだ。ちなみにShare2では中国語の「second hand(中古)」を意味する言葉ではなく、「old love」という言葉を使いイメージを変えようとしている。
香港拠点の組織Redressによると、中国のエシカル・ファッション消費者は現在全人口の8%ほどにとどまるが、アッパーミドル層を中心に拡大しており、2030年には31%に増加する見込みだ。アッパーミドル層は服を選ぶとき「サステナビリティ」を重要要素の1つとして考えているという。
中古やアップサイクルに加え、ファッションシェア市場にも注目が集まっている。昨年アリババ、ソフトバンク、セコイアなど大手企業やベンチャーキャピタルから5,000万ドル(約56億円)を調達したと報じられているYCloset。加入すると100万着以上あるストックから好みのブランドの服やアクセサリーを借りることができるサービスだ。
利用者は一級都市に住む高学歴のミレニアル世代女性が多く、海外のファッション事情に詳しい層という。服をシェアする文化はこれまで中国にはなかったが、海外のシェアリングトレンドをよく知る女性たちによって、ファッションシェア文化が中国にも根付き始めているようだ。このほか中国発のMSParisや米国拠点のLe Toteがファッションシェアサービスを提供している。
ミレニアル世代だけでなく、Z世代の間でも中古ファッションは受け入れられているようだ。
上海発の中古ブランドショップ「Pawnstar」は、店舗での販売だけでなく、ソーシャルメディアのライブストリーミング機能を使って、Z世代を中心に販売を伸ばしている。サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙によると、Pawnstarは週4回WeChatでライブストリーミングを実施、1セッションあたりの視聴者は2万〜3万に上る。同社の売り上げの30%はライブストリーミングによるものという。
このほか中国では営利目的としないファッション交換のイベントも増えているといわれている。北京では「Live With Less」と呼ばれるプロジェクトの一環で、3カ月に1回物々交換イベントが実施されている。家電やおもちゃなど何でも持ち寄れるイベントであるがもっとも多いのは衣服だ。ソーシャルメディアを通じた情報拡散によってコミュニティは拡大している。
冒頭で紹介したマッキンゼーとBoFのレポートでは、2018年の世界ファッション産業の重要トレンドとして「人工知能活用」や「パーソナル化」と並び「サステナビリティ」を挙げている。同レポートでは、サステナビリティに関する取り組みがCSRの枠組みを超えて、バリューチェーンのさまざまな側面に組み込まれると指摘している。
環境改善において先進的な取り組みが進められる欧州では、消費者の環境意識も高いといわれている。一方、今回お伝えしてきたように、中国でも消費者意識は変化しており、新しいムーブメントの予兆がうかがえる。
文:細谷元(Livit)