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企業による、クラウドサービスの利用が進んでいる。
クラウドサービスには、ハード・ミドルウェア・ソフトウェアと以下の3つのレベルが存在する。
- IaaS(Infrastructure as a Service)
サーバー・ストレージ・ネットワーク関連をクラウド化したもの - PaaS(Platform as a Service)
開発基盤としてのミドルウェアになるもの - SaaS(Software as a Service)
これまでパッケージソフトとして提供されていた機能をクラウドサービスとして提供するもの
クラウドサービスの利用は、企業に労働生産性の向上をもたらす。総務省が公表した「平成28年通信利用動向調査」では、クラウドサービスを利用している企業は、利用していない企業に比べて労働生産性が約30%高いというデータが示されている。
2017年時点で約60%の企業が利用し、さらなる成長が期待されるクラウドサービス。ここでは、SaaS業界の市場規模やトレンドについてみていきたい。
SaaSで注目されるのは「グループウェア」と「マーケティングオートメーション」
2018年8月21日、スマートキャンプ株式会社は、「SaaS業界レポート2018」をリリースした。
スマートキャンプは、BtoBマーケティング領域を中心にサービスを展開する企業。SaaS比較サイト「ボクシル」、インサイドセールスのコンサルティング・アウトソーシングサービス「ベイルズ」の運営を行っている。
2017年の第1刊目に続いてリリースされた「SaaS業界レポート2018」では、SaaSを提供・利用する企業で働くビジネスパーソンに向けた、統計データ・トレンドなど、SaaS業界の概況がまとめられている。
SaaS市場は拡大が続き、年平均成長率15%超が見込まれている。テーマとなっているのは、働き方改革やデジタルマーケティング。予測では、2021年には市場規模が、約5,800億円へと拡大する。
レポートでは、業界地図となるカオスマップをみることができる。図は、Horizontal SaaS(業界を問わず特定の部門や機能に特化したSaaS)のカオスマップだ。サプライチェーン・人事・財務会計・営業マーケティング・コラボレーション・データ分析といった領域で、SaaSが提供されている状況が分かる。
Horizontal SaaSで導入が進んでいるのは、「グループウェア」だ。カレンダー・チャット・ワークフロー・文書管理などの機能を通して、企業のコラボレーションを支援する。働き方改革の実現と、ワークスタイル変革のツールとして、注目されている。
「マーケティングオートメーション」も広く利用されている。見込み顧客のスコアリング・メール配信・マーケティング効果の検証といった業務を、自動化するツールだ。マーケティングのデジタル化を高度化する。
カレンダーやチャットなど、身近なところでも利用が進むSaaS。業界内でのトレンドもチェックしてみたい。
SaaS業界にみられる7つの最新トレンド
レポートでは、SaaS業界のトレンドとして7つの項目が挙げられている。
- サブスクリプションモデル
利用量や利用期間に応じて利用金額が発生するのが、サブスクリプションモデルであり、継続課金によって、マネタイズする。
従来の買い切りモデルに比べ、導入ハードルを低くすることができる。例えばアドビでは、サブスクリプションモデルによる売上が、全体の約84%を占めるまでになっている。 - インサイドセールスとカスタマーサクセス
サブスクリプションモデルにおいては、一人の顧客が生涯にわたって企業にもたらした価値の合計である、LTV(Life Time Vales:顧客生涯価値)が重要となる。
そのためには、新規ユーザーの獲得を効率化しなければならない。そのため外回りをせず内勤で完結する「インサイドセールス」の導入が必要となってくる。
また、解約防止策として「カスタマーサクセス」を重視する。従来のITベンダーによるサポート業務を超えて、予見的に業務改善を支援していく。
成功体験を提供することで利用が継続され、アップセル(より高いものを購入)も期待でき、「既存ユーザーによる継続利用の最大化」を通じ、LTVを高めることが可能だ。 - SaaS企業によるエコシステム構築
SaaSを、自社単独のソリューションとして提供するのではなく、他社サービスと連携することにより提供価値を高める。
例えば、給与計算SaaSは、他社の労務管理SaaS・勤怠管理SaaSなどと連携することで、より利便性が高くなる。
こういった連携は、API(Application Program Interface:アプリケーションプログラムの機能を呼び出し、その実行結果を戻り値として受け取る)という仕組みによって実現されている。 - SaaS企業のプラットフォーム化
SaaSビジネスの成長フェーズには、PMF(Product Market Fit:顧客のニーズに対してプロダクトを最適化すること)を行い、次にマーケティングに投資することでカテゴリーキングになり、最終的にプラットフォーム化を目指すといった段階が考えられる。
プラットフォーム化においては、ビジネスチャットSlackのように、特化したSaaSが広く登場する形がある。また、ファンドを設立してスタートアップに投資する、CVC(Corporate Venture Capital)という手法も利用される。
他にも、PaaS化・マーケットプレイス化などが、SaaS企業のプラットフォーム化への道となるようだ。 - SaaS化によるSlerの変革
SaaS化により、Sler(システムインテグレーター)の役割も変化する。情報システムのハードウェアを企業内に設置するオンプレミスの時代とは、異なるものが求められるようだ。
Slerは、SaaSの代理販売、導入コンサルティングへと転換が進んでいる。カスタマイズなどの付加価値が必要となる。最終的には、自社でオリジナルSaaSを開発するケースも増えているようだ。 - Vertical SaaS
特定の部門や機能に特化したものを、Horizontal SaaSと呼ぶのに対し、特定の業界に特化したSaaSは、Vertical SaaSと呼ばれ注目されている。
レストラン・飲食店向け予約管理SaaS、薬局薬剤師向け電子薬歴管理SaaS、建設業界向け施工管理SaaSなどが存在する。
キャッシュ効率が良い、競争が少なくカテゴリーキングになりやすいといった特徴があり、市場規模の拡大がみられる。 - SaaSにおけるテクノロジー活用
SaaS業界においては、スマートフォン・タブレットなど、現場での使用を前提としたMobile(モバイル)対応が重要となっている。ウェアラブルデバイスやスマートスピーカーの利用拡大で、Screenless(スクリーンレス)への対応も必要だ。
AI(人工知能)、VR/AR(仮想現実と拡張現実)の活用も進む。VR/ARでは、会議・研修・展示といったソリューションが提供されている。
ほかにも、IoT(モノのインターネット)、Blockchain(ブロックチェーン)といったテクノロジーが、SaaSで活用が進んでいる状況だ。
成長が期待されるSaaS市場
これからのサービスは、クラウド化が進みそうだ。身近なカレンダーやチャットだけでなく、企業の労働生産性を上げる、さまざまなSaaSが登場している。仕事の中で、SaaSを使いこなす必要性が出てくるだろう。
SaaS業界は、サブスクリプションモデルでマネタイズするため、新規ユーザーの獲得はインサイドセールスで効率化する必要がある。またカスタマーサクセスによる、既存ユーザーの利用継続とアップセルでLTVを最大化する、といったトレンドがあることも分かった。
働き方改革やデジタルマーケティングといったテーマから注目されるSaaS。これからの成長が期待される市場だ。
img:PR TIMES