ユーザーの服の好みはSpotifyが知っている? 異分野データによるパーソナライゼーションの可能性

eye catch img: Eison Triple Thread(同社公式インスタグラムアカウントより)

いつの時代もファッションと音楽の結びつきは強い。

例えば、近年では毎年約20万人が訪れる米国で催される「コーチェラ・ミュージック・フェスティバル」、その2016年の経済規模はおよそ700万USドル(約7億円)と言われ、リーバイスやH&Mなどをはじめ多くの有名ファッションブランドが協賛し、大きな商機となっている。

また、店舗で流すBGMを考案する際、わざわざプロのDJを雇うアパレルブランドも増えてきており、ファッションと音楽業界の双方がいかに互いを有効に活用するかを模索している。そんな中、米国のアパレルブランドが始めた、音楽を絡めたデジタルマーケティング施策が注目を集めている。

音楽の好みとライフスタイルから割り出される「高精度なパーソナライズ」

Julian Eison氏が2016年にスタートした米国カリフォルニアベースのラグジュアリーアパレルブランド「Eison Triple Thread(以下ETT)」は、NBA選手のSteph Curry氏やDamian Jones氏も顧客に抱える人気ブランド。

同社の商品はスーツが500~1,000ドル(約55,000~11万円)、シャツが$149(約16,000円)と決して安くはないが、身体の寸法を測り、洋服のフィット感から生地、色まで自分の好みにカスタムオーダーできるサービス「メイド・トゥー・メジャー」が強み。

そしてそんなETTの知名度を飛躍的に向上させるきっかけとなったのが、今月8月にベータ版としてリリースされたアプリ「FITS」である。

FITSのアカウントを登録する際、ユーザーは大手音楽ストリーミングサービス「Spotify」のデータを使ってサインアップする。するとユーザーのプレイリストからファッションの嗜好を推測し、おすすめのコーディネートを提案してくれるのだ。

具体的には、身長、体重、肌の色など基本的な情報の他、職種、独身か既婚か、子どもの有無などライフスタイルに関する質問に答えたあと、FITSが提示するいくつかのコーディネート写真に対して、笑顔か泣き顔の絵文字を選択して好みを回答していく。

そして、AIとマシンラーニングの技術を駆使し、Spotify上の好きな音楽のジャンルやアーティストからユーザーのスタイルを割り出し、そうした全てのデータを総合して、おすすめのパーソナライズドアイテムを提案してくれる。

ちなみに、Spotifyのアカウントを持っていないユーザーに対しては、ETTが別に用意した質問に回答してもらい、パーソナルデータを作り上げていく。


笑顔か泣き顔の絵文字を選択することで好みのスタイルを伝える

「データにもとづくパーソナライズ」という安心感で顧客の離脱を防ぐ

しかし、すべてのユーザーが自分の好きなミュージシャンのスタイルを真似たいとは思わない。おそらくプレイリストには異なるジャンルの音楽が入っている人のほうが多いだろう。

その点に関しても、収集したすべてのデータからアルゴリズムが微調整し、高精度な提案をする。オンラインショッピング中によく目にする「この商品を買った人はこんな商品も買っています」というサジェストや、単に「これが今人気の商品!」と宣伝するよりよっぽど精度が高いのだと、創業者のEison氏はRACKEDへ語る。

また、単価が比較的高い、自分に似合うかどうか確信が持てない・・・などさまざまな理由からオンライン上での購入に踏み込めない顧客は一定数いるが、同氏はデータに基づいたパーソナライゼーションがそういった層の購買率を高めると予想している。

確かに、自分の好みに基づいたオプションが提示されるとそのハードルは下がりそうだ。まるで音楽の趣味が合い、自分の好みを把握している、気の知れた店員からおすすめされる感覚なのだろう。

また、昨今主流化しつつあるサブスクリプションサービスを利用するような、自分のスタイルを探すのに苦労している人にもおすすめだという。

「顧客のライフスタイルの一部になりたければ、彼らのライフスタイルを知るべき」

自分のパーソナリティを服で表現するカスタムファッションというEETのビジネスコンセプトは、Eison氏が9年生(日本の高校一年生に当たる)のころ、学校の先生から裁縫を教わり、デニムジーンズにeBayで買った偽物のグッチのロゴ縫いつけていたというファッションルーツが影響している。

ちなみに彼は当時、Jay‐Zなどヒップポップミュージックに傾倒していたという。


The BeatlesからDrakeまで、幅広い選曲のEison氏おすすめのプレイリストも公開中。彼のパーソナリティを垣間見れるかも(ETTウェブサイトより)

Eison氏はプレスリリースで、ユーザーのパーソナリティーを紐解く鍵として音楽を選んだ理由を「音楽は日常にあり、われわれのライフスタイルと深く関わっている。そのため音楽を通して人間のコアな部分を知ることができる。それらの情報はパーソナライゼーションの質をグッと高めると確信したから」だという。

事実、米国のリサーチ会社Nielsen Musicのレポートによると、米国人は1週間のうち32時間も音楽を視聴しており、その時間は年々増加傾向にあるという。

彼はまたWWDに対して「サブスクリプションボックスやメンバーシップベースの小売の流行により、消費者のわれわれのようなプラットフォームを見る目は厳しくなってきている。もしわれわれが消費者のライフスタイルの一部になりたいのであれば、彼らのライフスタイルを知らなければいけない。」とも語った。

RACKEDによると同社はこの秋に資金調達を控えており、ストリートウェアなどカジュアル路線を拡大する予定だという。

パーソナライゼーションの流行自体は今やどの業界でも見受けられる。しかし、それを今回のETTのように、ファッション×音楽など「異分野のデータ」を掛け合わせて行うというのは、ファッションに留まらずさまざまな業界に適応できるアプローチではないだろうか。

文:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit

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