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仕事をしていると、嬉しいこともあれば嫌なこともある。
仕事にまつわる感情を、人々はどう処理しているだろうか。同僚に話したり、ネットに書き込んだりとさまざまありそうだ。
今、ソーシャルリスニングと呼ばれる、SNS上における口コミの感情分析を利用した、マーケット分析手法が注目され始めている。
ここでは、17業種の仕事についての満足度を、ソーシャルリスニングの手法で明らかにしようという調査の結果をみていきたい。
ソーシャルリスニングでみる、業種別の仕事満足度ランキング
2018年8月14日、SNAPLACE(スナップレイス)は、「スナップレイス・モニター」をリリースするとともに、17業種別の満足度ランキングを発表した。
スナップレイスは、SNSの投稿分析を行う企業だ。今回リリースした「スナップレイス・モニター」では、自然言語処理と機械学習エンジンを活用し、SNS上の口コミの感情分析を行う。顧客満足度を瞬時に20段階で定量化することが可能だ。
大量のSNS口コミの感情の情報などから商品・サービスなどの悪評や好評を抽出し、満足度の改善へとつなげる。ソーシャルリスニングと呼ばれる手法だ。
今回行われた調査では、新サービス「スナップレイス・モニター」が用いられている。17業種に関連する内容が含まれる最新(2018年8月11日時点)約10万ツイートを対象に分析を行い、仕事満足度を20段階で定量化。ツイートの分布から満足度の加重平均を行うことで仕事満足度を算出し、ランキング化した。
仕事満足度の分析結果を全体でみると、全業種の平均では49.4%となった。日本全体で、仕事への満足度は低いといえる。しかし、業種別にみると、90%以上の高い水準で満足している人が多い業種や、満足度が10%以下の水準の人が多い業種など、特徴がみられる。
以下で、上位3業種・下位3業種について、仕事満足度の分布ヒストグラムをみていく。1が大変満足(満足度100%)、-1が大変不満(満足度0%)を示し、右に行けば行くほど満足度が高いという形となっている。
仕事満足度の分布ヒストグラム
仕事満足度の高い業種第1位は、「学術研究・専門技術サービス業」で59.4%だった。企業の研究職や大学教授、弁護士などが該当する。
ヒストグラムをみると、満足も不満もない中心の層も多くいる中で、不満に思っている層が比較的少ないのがわかる。特に高いレベルで満足している人も多いのが特徴といえそうだ。
研究の進展や成果に関する書き込みが、多いのかもしれない。専門知識を用いたサービスを提供するため、仕事に対する自負も高そうだ。
第2位は、「製造業」で満足度53.5%。いわゆるモノづくりの業種に該当する。グラフからは、不満も満足もしていない中間層が多いという特徴が読み取れる。
工場での作業などでは、労働環境が整っていれば、不満も満足も出ない状況で、仕事ができるのかもしれない。製造業の分野で、労働環境の改善が進んでいる可能性が考えられる。
満足度第3位となったのは、「教育業・学習支援業」で53.2%だ。この業種には、教師や学習塾の先生などが該当する。ヒストグラムは、不満な人も人数として多い一方、一定水準で満足している人も多い状況となっている。
最近、教員の長時間労働が話題になった。不満をつぶやく層となっているかもしれない。一方で行事や試験など、生徒の成長を感じたときに、ポジティブな書き込みをしている可能性がある。
ここからは、満足度の低い業種3つを紹介する。満足度ワースト1位(第17位)となったのは、「金融・保険業」で39.2%だった。銀行や証券、保険などが該当する。
ヒストグラムの特徴をみると、大変不満に思っている人と、満足も不満もないと思っている人が多い。満足に感じている人は、ごく少数だ。
銀行ではAIなどの導入で、人員削減の計画が発表されている。巨大で安定した組織ではあったが、人間関係や将来への不安がつぶやかれているのかもしれない。
ワースト2位(第16位)となったのは「建設業」で44.1%だった。他業種と比較すると、偏りなく広範囲に分布するグラフとなっている。満足している人もいれば不満な人も多く、どちらかというと強く不満を持つ人が目立つ、といった印象だ。
建設業は、土木から電気工事まで職種が広いため、仕事への満足度もバラついている可能性が考えられる。建設業の現場は、3Kと呼ばれるような悪条件になることもある。また、人手不足が目立つ業界でもあるので、満足度の低い口コミにつながっているのかもしれない。
仕事の満足度ワースト3位(第15位)は、「不動産業」の44.4%となっている。グラフでは、高い満足度の層が少ないのが目立つ。中間から不満の間で層が厚い。
不動産の売買・賃貸・開発などを行うこの業種は、不動産価格など景気の動向に左右されやすい。都市と地方で差があるようだが、景況感がSNSでの書き込みに反映されている可能性がある。
このソーシャルリスニングを用いた分析では、業界別の仕事満足度が明らかになっている。だが、仕事に対する満足度を考える場合、どんな業種にも共通する要素もある。
働きがい向上させる要因とは
株式会社日経リサーチでは、従業員の「働きがい」をバロメーターとして、組織の今の“健康状態”を診断する、従業員調査を行っている。ここでは、民間企業に勤務する(パート、アルバイトを除く)20~64歳の約5万人分を対象にした分析結果をみていく。
調査では、「自分にとって働きがいのある会社である」と感じているビジネスパーソンの特徴が明らかになっている。
「自分にとって働きがいのある会社である」と感じているビジネスパーソンでは、「自分の仕事の目的や役割が明確になっている」と感じている人が多い。働きがいを感じる人の71.5%で、仕事の目的や役割を明確に把握している。働きがいを感じない人では、32.7%と少なくなる。
また、働きがいを感じる人の76.8%が、「自分は、自分に課された仕事の目標を達成したいと強く思っている」と答えた。働きがいを感じない人では、34.3%まで減っている。
このように「働きがい」に注目した場合、「目的や役割の明確化」「目標達成意欲の高さ」が重要なカギとなるのがわかる。
仕事の満足度は、業種の内容だけでなく、職場や個人の意識によっても高められるのだ。
「ソーシャルリスニング」が拾い上げる人々の声
新たな市場分析方法として登場した、ソーシャルリスニング。仕事にまつわる満足も不満も、SNSに書き込んでおけば、調査対象となり、ユーザーの声としてすくい上げられる。各業界で、仕事の満足度を改善するための結果を得られるきっかけとなるだろう。
各業界による改善も必要だが、職場や個人が「目的や役割の明確化」といった意識を持つことで、仕事への満足度が高まることもわかっている。
SNS・AI・ビッグデータが実現した「ソーシャルリスニング」。これからも、さまざまな社会の声を拾い上げ、人々の世界に対する満足度を高めていくことになるだろう。