Forbesが選ぶ「最も成長が速い女性社長の会社」に選出されたMatisia Consultants(マティシア・コンサルタンツ)の創業者、Kristina Roth(クリスティーナ・ロス)氏が女性限定のリゾートサービスの提供を始め、注目を集めている。

バルト海に浮かぶ、フィンランド沖のこの美しい小島では、「リトリート」と呼ばれる先進的なプログラムを体験できる。男性社会で大きな成功をおさめた女性起業家が、なぜいま「女性限定」のサービスを始めたのか。その背景には、大小関わらず多くの女性が感じたことのある“生きづらさ”のようなものがあったーー。

女性だけの高級リゾートアイランド“Super She”誕生

2018年7月に女性だけの高級リゾート“SuperShe Island(スーパー・シー・アイランド)”が誕生した。SuperShe Islandは、ドイツから単身でアメリカに渡った起業家、Kristina Roth(クリスティーナ・ロス)氏が所有する、プライベートアイランドだ。


創業者のKristina Roth(クリスティーナ・ロス)氏はもともとコンサルティング会社を経営し2016年に売却(「SuperShe 公式プレスリリース」より)

Kristina Roth氏は、コンサルティング会社であるMatisia Consultants(マティシア・コンサルタンツ)の創業者。2015年にはForbesの「最も成長が速い女性社長の会社」の7位にもランクインした。彼女は2016年に会社を売却し、2017年に女性限定の国際的なネットワーキング・クラブ「SuperShe(スーパー・シー)」を立ち上げた。


SuperShe Island公式サイトより

SuperShe Islandは、バルト海に位置するフィンランド沖の小島だ。約3万4,000平方メートル(東京ドームの約3分の2個分)の土地には4つのキャビンがあり、10人のゲストが宿泊可能。フィンランド式のサウナ、スパ施設、美しい客室が特徴の5つ星リゾートだ。

島では、ヨガ、瞑想、料理教室、フィットネスクラス、自然体験のアクティビティなどが提供される。アルコール・タバコは禁止、農場から直送された食材を使用した健康的な食事で、日常に疲れた心と体を癒やし、自分自身と向き合うことを目的としている。

Kristina Roth氏は、このフィンランドの美しい島を「小さなユートピア」と表現する。島の中心にはブルーベリー畑が広がり、夏になると、まるでその景色が永遠に続くのではないかと錯覚するほどだそう。

単なるリゾートではない、パワフルな女性のためのコミュニティ

CNBCの記事によると、2018年4月の時点でSuperSheには約3,000人のメンバーが所属。SuperSheのInstagramや公式Webサイトには、女性であれば心躍るような、美しく健康的な写真と情報が投稿されている。


SuperShe公式インスタグラム。SuperSheアイランドの写真だけではなく、ベリーが有名なフィンランドの果物、ヨガ情報なども発信。


SuperShe公式サイト。健康志向でパワフルな女性の感性を刺激するような旅行・健康情報のほか世界の女性起業家へのインタビューも掲載されている。

Kristina Roth氏は、The Ashramのリトリートプログラムに参加した後、この島の購入を決めたという。リトリートとは、「仕事や家庭生活などの日常生活から離れ、自分自身と向き合う時間や、新しい体験を新しい場所ですることで思考の転換を行い再スタートする」こと。自分自身と向き合うこと、体に優しいオーガニック食材や自然食品を摂ること、身体を無理なく動かすこと、新しい人々と出会うこと…などによって、心と身体の健全なバランスを取り戻すプログラムだ。

SuperSheは、世界各国の様々なバックグラウンドを持った女性をつなぐことを目的としているが、このリトリートのプログラムも非常に重視している。最近では、元オリンピック選手のLana Mikheeva(ラナ・ミヘエワ)氏によるヨガと栄養にフォーカスしたリトリートをハワイで開催した。


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男性がいないことで、“異性”を意識する必要もない。朝のヨガ、朝食後のカヤック、アウトドアやハイキングをしながら、心と体の幸福感に純粋に集中することができる。

ただし、SuperSheは通常のバカンスのように気軽には予約できない。まずはSuperSheが認めた会員のみが島を利用することが可能だ。

Webサイトから登録申請を行い、審査を受ける必要がある。アメリカ、インド、フランス…様々な国から申請があるが、バックグラウンドだけではなく人間性も重視される。周りを海に囲まれた“島”で過ごすのだから、参加者同士で楽しい時間を過ごせるかどうか…人柄は確かに重要だ。また、一週間の滞在にかかる費用は平均5,000〜6,000ドルと高額。このことから、排他的・エリート主義と批判されることもある。


SuperSheメンバーシップへの申込みフォーム。返信メールには、「審査後、連絡します」とあった。

SuperSheの立ち上げと、“生きづらさ”の原体験

華やかなキャリアを歩んできたKristina Roth氏だが、SuperSheを立ち上げた理由には、彼女が感じた“生きづらさ”の原体験がある。

売却までに年間6,500万ドルもの収益を生んだ彼女だが、その過程で過小評価されることもあったそう。

彼女はもともとコンピューターを専門とした科学者だ。この業界は男性が多く、「ブロンドのお嬢さん、ここで何をしているの?」と、耳を疑うような言葉を何度も浴びせられた。そしてテクノロジー業界では珍しくない話だそうだ。

また、Matisia ConsultantsのCEOとして、忘れられない体験もある。新しい顧客と対面したときのこと。顧客が知っていたのは「CEOたちは複数名でやってくる」という情報だけ。そして、その一群のなかで一番年上の紳士をCEOと確信し、握手を求めたそうだ。彼は、Kristina Roth氏の部下だった。


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メールの名前を女性から男性に変えただけで、顧客の態度が一変した、という話(※1)があるが、男性中心の社会で大きな成功をおさめたKristina Roth氏ですら、生きづらさを感じ、心を開放できる場所を求めていたのだ。

女性をエンパワーメントするコミュニティ

Kristina Roth氏はMatisia Consultantsを売却した後、世界を旅行し、旅先で様々な女性に出会った。彼女のサクセス・ストーリーは他の女性を刺激したし、ファッションや芸術、スポーツなど、自分と異なる分野の女性たちの話も逆に彼女を刺激した。

女性限定ネットワークイベントに参加したこともあったが、形式的な名刺交換など、退屈で時間の無駄とすら思えるものが多かったという。もっと楽しくて良いものが作れるのでは?という疑問から生まれたのがSuperSheのネットワークだ。

現在、SuperSheの公式サイトではライフスタイルブログでの情報発信、定期的なイベント開催や、ハワイ、ネッカー島、タークス・カイコス諸島などの豪華な場所で女性限定のリトリートプログラムを開催するなど、拡大している。男性はゴルフコースやシガー・クラブで楽しくネットワーキングを行ってきたが、その女性版を創るのが狙いだ。

SuperSheに限らず、“女性限定”というサービスは他にも数多く存在し、ニーズも拡大している。

Forbesによると、アメリカでは女性限定のコワーキングスペースが急拡大している。WeWorkが35億円の投資を主導したニューヨークの女性限定コワーキングスペース「The Wing」は8,000人の入会待ちだそう。マインドの近い女性起業家らが集い、アイデアをシェアすることで、男性中心の世界に新しい風が入ってくるのではないだろうか。


The Wing」公式サイト

日本でも、女性限定のサークルやコミュニティが存在する。とくにテクノロジーの分野では女性は少数派になりがちだ。各グループで少数派である人々が集まり、アイデアや知恵を交換することは有益であると言える。そしてなにより、普段なかなか共感を得られないことに対して「そうそう!」と共感してもらえることは大きな救いになるのではないだろうか。

SuperSheには、“排他的である”、“価格帯が高すぎる”などの批判も多い。しかし発起人のKristina Roth氏いわく、基本的に「明るく、そして楽しいひと」を求めているとのこと。女性限定のコミュニティは、女性独特の感性をのばすことができる。そして女性だけのパーティやイベントはとても楽しいものだ。時には女だけで集まり、とことん盛り上がるのは、女にとっての大きな楽しみの一つといえる。

普段の社会で生きづらさを感じていても、非日常の空間で、楽しみ、ときに悩みを分かち合い、自分の心身と向き合うことで、新しいインスピレーションや明日への活力を得ることができる。単なる「女性限定」のリゾートを超えた、女性をエンパワーメントする新しいサービスの提供にSuperSheは挑戦しているのかもしれない。

文:佐藤まり子
編集:岡徳之(Livit