世の中にはさまざまなクライシス(危機)が存在する。ビジネス面では、経済上の危機や恐慌などを表す言葉として使われている。昨今、経済上のクライシスが増加傾向にあり、企業も、増大するクライシスの脅威にさらされていると強く認識しているといわれている。

では、果たしてその実態はどうなのか。デロイト トウシュ トーマツ リミテッド(デロイト グローバル)が2018年に実施したクライシスに関する意識調査「Stronger, fitter, better: Crisis management for the resilient enterprise」によると、アンケート回答者の60%が10年前よりも多くのクライシスに企業が直面していると考えているものの、多くの企業が自社のクライシスへの対応能力を過大に評価していることが判明したという。

クライシスに対する企業の自信と準備の実態に大きなギャップが

この調査は、デロイト トウシュ トーマツ リミテッドからの依頼を受けた英市場調査会社のComResによって2017年11月から2018年1月にかけて電話でのアンケート調査が実施され、クライシスマネジメントや事業継続、リスクマネジメントの責任者である上級管理職(取締役は除く)523名(20カ国、5地域)が回答した。回答者の地域別の内訳は、北米(109名)、南米(114名)、欧州(106名)、中東/アフリカ(69名)、アジア太平洋(125名)となっている。

まず、企業のクライシスマネジメント担当リーダーの60%が、企業がクライシスに直面する場面が10年前よりも増えていると考えていることがわかった。また、回答者の90%近くが自社は企業不祥事に十分に対応可能と回答した一方で、実際に訓練と検証を行ったと回答したのは17%という結果となった。

2015年に調査を実施した際に、クライシス状況下も自社は適切に対処可能だと取締役会が考えていた一方で、発生可能性のあるシナリオを想定したクライシスマネジメントプランは存在していなかったということが判明しており、同社ではこの事実と似ているとしている。

これにより、企業は自社の危機対応能力に対して自信を持っている一方で、実際の準備状況の十分性には大きなギャップがあることが明らかとなった。また、クライシスを想定した訓練の実施有無を調査すると、そのギャップはさらに広がることが明確となった。

次に、世界企業の80%が過去2年以内に少なくとも一度はクライシスマネジメントチームを動員せざるを得なかったと回答した。

その中で特に多くの企業が経験したクライシスは、サイバー関連が46%、安全性関連が45%という、サイバーまたは安全性に関するインシデントによるものだった。

この結果に対し、同社ではクライシスに直面した経験がある企業の多くは過去の経験から学んでいるとみている。クライシスに直面した企業の約90%が検証を行ったところ、多くのクライシスは回避可能であったことを学んだという。この学びにより多くの企業がクライシス未然防止行動へ注力することにつながっているという。

また、未然防止のための事前検知・早期警告システムの改善ニーズや予防プロセスへのさらなる投資ニーズ、さらに、直面する可能性の高いクライシスシナリオ特定のための追加の対応ニーズがあることが調査の回答内容から確認されたとしている。

クライシス時の効果的なリーダーシップ発揮が困難に

また、クライシスに対処する際は、強いリーダーシップスキルと現下の危機に対する状況認識・判断スキルが特に重要だ。調査によると、回答者の約4分の1の24%がクライシス対処時の効果的なリーダーシップの発揮と意思決定が最も困難であったと回答しているという。

同社では、クライシス状況下でもビジネスリーダーが統率力を発揮できる以下のポイントを挙げている。

  • 前もってリーダーを据え、リーダーが担うさまざまな役割と責任を定義し明確にする
  • クライシス状況下でもリーダーシップを発揮できるよう、クライシス対応時に役立つツールやテクニックを習得する訓練を行う
  • 平時の際には効果的なリーダーシップのスタイルであっても、クライシス状況下で同様に有効とは限らず逆効果になる場合もあるため、リーダーシップのタイプや傾向を把握した上で、クライシス状況下で効果的なリーダーシップのスタイルを習得させる

さらに、クライシスマネジメントプランの策定時に取締役および上級管理職の経営層が参画することは、経営層がクライシスを想定した訓練に参加することと同様に非常に重要だという。

これについては、5分の4以上の84%の回答者が、クライシスマネジメントプランを策定済みと回答している。そのうち、経営計画策定のプロセスに経営層が参画していると回答した企業で、過去10年間でのクライシス発生件数が減少した企業が21%となった。その一方、経営層が参画していないと回答した企業で減少した企業は2%にとどまった。

回答者の約6割が危機管理の訓練と検証を同時に

仕入先や提携先などの第三者の行動によりクライシスはしばしば引き起こされることがある。しかしその一方で、クライシス発生リスクを軽減するうえでは重要な役割を果たすともいわれている。

この点を踏まえ、回答者の59%が、危機管理の訓練を仕入れ先などの第三者と合同で行い、自社だけでなく取引のある第三者の危機管理計画の検証も同時に行うこともある、と回答している。

同社では、クライシスの特定および未然防止においては、ビジネスで取引のある第三者と自社のチームが合同でクライシスを想定した訓練を行うこともまた重要な要素の一つだとしている。

クライシスは絶対に避けられないというわけではない。有能なビジネスリーダーならばクライシスの多くは回避可能であることを知っているのだ。このため、有能なビジネスリーダーたちはクライシスマネジメントを強化するための投資をいとわない。クライシスマネジメントの強化は、企業の財務や従業員の士気、ブランド、レピュテーションにおいて、回復も困難な大きな損失が生じることを防ぐことになるからだ。

早急に効果的なクライシスマネジメントの整備を

この調査では企業の多くがクライシスの増加を感じていることがわかった。しかし、その多くがその危険性を認識しているものの、実発生時の対応準備はなされていないようだ。

つまり、クライシスマネジメントが未だ十分行き届いていないのが現状だ。これに対し、デロイト トウシュ トーマツ リミテッドでは、効果的なクライシスマネジメントは、組織を強化させ、業績を向上させることにつながるため早急な整備が必要と提言している。

img:PR TIMES