経営者が高齢となり、後継者不在のまま廃業を決める中小企業が後を絶たない。
経済産業省の調査によれば、実に127万もの中小企業において経営者が平均引退年齢の70歳を迎えるにも関わらず、後継者がいないことが理由で廃業する危険性があるという。これほどの企業が廃業すれば、多くの雇用が失われ、日本の経済にとって大きな打撃となることは想像に難くない。
それでは、一見安定しているとみられる老舗中堅中小企業に限ってみると状況は変わるのだろうか。
老舗中小企業の後継者候補決定率は75%で平均より2倍以上も高い
中堅・中小企業の“M&A仲介実績No.1”の株式会社日本M&Aセンターでは、2018年7月に「創業30年超の老舗中堅中小企業の事業承継に関する意識調査」を行い、1,000社から有効回答を得た。
これによると老舗の中堅中小企業では、これまでの後継者について創業家一族とその親戚のみと答えた老舗企業が73%にのぼった。老舗中堅中小企業では、親族承継が一般的になっているようだ。
一方、後継者の候補について「信頼できる後継者候補がいる」(50.6%)、「任せてよいか迷っている後継者がいる」(24.0%)との回答はあわせて75%だった。2017年の帝国データバンクの発表では、全国の後継者不在率は66.5%だったことから、老舗中堅中小企業は、後継者候補決定率が極めて高いことがわかる。
大廃業時代に入るといわれている現在においても、創業者一族やその親族を主な後継者とする老舗中堅中小企業は、これから先も安定的に事業を続けられる状態にある場合が多いといえるだろう。
ただ見方を変えてみると、一見安定している老舗中堅中小企業でも「候補者候補がいない」と答えた企業も全体の14.5%と見逃せない数値になっている上、「後継者候補はいるが任せてよいか迷っている」も24.0%と約4分の1にのぼっている。
他の中小企業と比較すれば将来も安定しているとはいえるものの予断を許さない状況であることには変わりないだろう。
後継者は子どもであることが約半数だが、約7割は継承意思の確認はしていない
実際、今回の調査では老舗中堅中小企業の事業継承について、今後を不安視される結果が他にも出ている。老舗企業の後継者候補の実に56%が子供だったものの、事業継承の意思について「直接、何度も聞いたことがある。」と答えた割合は31.6%にとどまったのだ。
逆に「一度も聞いたことはない」はそれより少しだけ多い32.0%にのぼっている。仮に後継者候補となる子供がいたとしても、まだ子供側の事業継承の意思を確かめられていない老舗中堅中小企業も多いということだ。
長く続く老舗企業ほど、事業継承する相手にも経営者自身が後継者と認識していることが多く、その他の企業より後継者決定率が高くなっているという可能性はある。ただ、家族間でのコミュニケーションが十分に行われているとはいえず、仮に後継者候補が存在しても、確実な事業継承の未来図が描けているわけではない。
その他の経営者が高齢を迎える中小企業と比べれば安定しているといえるものの、老舗中堅中小企業もまた、大廃業時代の波に飲み込まれてしまう可能性は十分にあるということだ。
後継者は、継承すべき事業について「聞いてくる」のは約5割にとどまる
同調査では、老舗中堅中小企業の事業継承について、後継者たるべき候補側の姿勢にも不安となる兆しがみられた。「後継者候補の方は、事業について興味を持ち、話を聞いてくることはあるか」との質問について、「非常に興味を持ち、積極的に話を聞いてくる」(21.6%)や「やや興味を持ち、話を聞いてくる」(30.6%)あわせて約5割にとどまっている。
逆に「全く話を聞いてくることはない」(8.4%)と「あまり話を聞いてくることはない」(26.9%)との回答の合計が全体の3分の1に及んでおり、後継者候補が、自身の事業継承について興味を持てていない可能性も高いことがわかる。
また継承する事業について話を聞いてこない理由としては、他にやりたいことがあり事業継承に関する話し合いを現在の経営者(父親など)と先延ばしにしているようなケースも多いだろう。価値観が多様化した現在の若い後継者たちは、他の道を希望していると考えられる。それならそれで無理に止めることもできないが、老舗中堅中小企業が決して安泰ではない状況は認識しておくべきだ。
いずれにしろ、経営者は家族会議をひらくなどして、後継者候補である子どもなどの意思を聞き、より密なコミュニケーションをとることが推奨される。その上で、場合によっては創業者家族や親族以外の第三者への継承に方向転換するなど対策すべきだろう。
大廃業時代、老舗中堅中小企業も決して安泰ではない
今回の調査では、「他の中小企業と比較すれば」老舗中堅中小企業の後継者候補決定率が「他中小企業と比べれば」はるかに高く、将来的にも安定していると考えられることが分かった。しかし後継者候補として多い子供に対して十分に意思確認ができていないケースが多く、さらに子供の方も事業に対して興味を示していないケースが多いことも結果にでている。
つまり大廃業時代では、いかに今まで息の長い経営を続けてきた老舗中堅中小企業とはいえ決して安泰ではなく、これまで選ばなかった第三者に対する事業継承に方向転換すべき事例も増えてくるということだろう。
高齢化社会の日本では、今後、中小企業の大廃業時代を迎えることは避けてとおれない。しかしできるだけ廃業してしまう企業が少なくなるよう、後継者候補とより密な連携をとる、第三者への事業継承も柔軟に検討するなど対応が必要だ。