レストランは、もはや食事をするだけの場所ではない。

ビジネスモデルとしてのレストランを考えれば、さまざまな領域と結びつくことで、新たな付加価値を生み出す可能性を見出すことができる。

ここでは、今まで『AMP』に登場した、ユニークな複合型レストランの事例5つを、まとめて紹介したい。応用可能なビジネスモデルの考え方を、発見できるだろう。

レストランでの体験が、商品の購入に結び付く

最初に紹介するのは、小売業と結びついたレストランだ。ニューヨークにオープンした「Guild」には、フレンチのレストランのLA MERCERIEが入っている。そこでは、店舗内にある全てのものが購入できる。食事が提供される際に使われる食器やテーブルやイスなども含めて、すべてが購入可能なのだ。

「Guild」を経営するのは、Roman and Williams。ニューヨークを拠点とするデザインスタジオだ。レストランでは、Roman and Williamsがデザインした家具や食器、かれらがセレクトしたさまざまな雑貨やアートが販売されている。インテリア会社がレストランを作り、そこで家具や食器類を購入できる体験を提供する、というビジネスモデルとなっている。

自社ブランドの世界を体験できるレストランを作り、体験した家具や食器類の購入に結びつける、というのがポイントだ。

オンラインショッピングが普及した今、小売業には「お店に足を運ぶ理由」が不足している。顧客に時間をかけて商品を体験してもらい、購入に結び付けるということが難しい。現代は“可処分時間”の奪い合いだ、という見方もある。

これからの小売業は、レストランだけでなく、ホテル、旅行、住居といった体験と連動した、ビジネスモデルが必要になっていくのかもしれない。

海洋生物研究センターが、アクアリウムレストランに

海中レストラン「Under」 は、ノルウェー沿岸の最南端に2019年にオープンする。レストランの営業時間外は海洋生物研究センターにもなる。一つの施設を時間帯によって、レストラン・研究センターと使い分ける「マルチユース」となっているのが特徴だ。

11m x 4mの大きなアクリルの窓には、幻想的な水面下の世界が広がる。海中レストランならではの体験をしながら、食事を堪能できる。

ノルウェーは、国を挙げて観光資源である「海」の価値を高めようと取り組んでいる。施設の「マルチユース」により、料理と研究、両方の視点から海をアピールすることが可能だ。

海洋生物研究センターという特殊な空間の、「使われていない時間」に注目することで、レストランが新たな付加価値を提供しているのがわかる。

何か高い価値がある場所があれば、それが使われていない時間を活用する道を探るというのが、有効な考え方のようだ。

レストランによる“食のオープンソース化”

デンマークのレストラン「Noma(ノーマ)」は、設立時にマニフェスト「New Nordic Food Manifesto」を発表した。そこでは、北欧地域に根付く食材へのこだわり、革新的な調理法の創造、他国の食文化と北欧料理の融合という、食に対する確たるアプローチが表明されている。

Nomaはマニフェストに沿って、北欧地域の食材を用いて独創的な料理を世に送り出しているが、活動はそこにとどまらない。

北欧において成功を収めたNomaは、国外でもマニフェストを実践する試みを始める。世界各地で、期間限定レストランを開く“旅”に出た。新しい環境でNomaを再現したら、一体どんな料理が生まれるのか。日本・メキシコ・シドニーなどで、北欧とはまったく異なる調味料と食材、調理法によって、前菜からデザートまでレシピをゼロから作り上げた。

Nomaの設立者は、こうした挑戦から得られた知見を公にすべく、「Nordic Food Lab」を設立した。「非営利型オープンソースプロジェクト」として、北欧の知られざる食材や味を発掘する実験を重ね、SNSやブログを通して発信する。

さらには、「社会的良心と好奇心、変化への貪欲さ」を備えた食のコミュニティー「MAD Food Organization」を創立。デンマークで採集できる自然の食材を検索できるアプリ「VILD MAD」をリリースしている。

どれも、自らのマニフェストや料理にまつわる知識を積極的に公開する活動だ。“食のオープンソースプロジェクト”といえる。食のオープンソース化は、既存のプレイヤーや新規参入者を惹きつけ、コミュニティが形成されていく。

知見を共有することで、コミュニティを形成し、イノベーションを生み出す文化として育てていくのも、一つの注目すべきビジネスモデルといえるだろう。

フードデリバリープラットフォームを活用した、「ゴーストレストラン」の開業

米国でトレンドとなっているのが、「ゴーストレストラン」と呼ばれる、実店舗を持たないレストランだ。

調理はレンタルキッチンを利用する。1つのキッチンに最大10のレストランが入り、オンラインでのみオーダー可能だ。注文の受付・配達は、「UberEats」「Grubhub」「DoorDash」といったフードデリバリーサービスが行う。

クイックに始められ、ミニマムなコストで運用できるのが実店舗を持たない強みだ。立地条件も気にせずに済む。実店舗を持つと、客席エリアのための家賃、給仕スタッフの人件費などの固定費が発生する。

実店舗を持たないレストランは、キッチンとシェフとデリバリースタッフがあれば成立する。そこから、デリバリーもアウトソースすると、残るのはキッチンとシェフだけの「ゴーストレストラン」となる。

開業のハードルを下げるビジネスモデルだ。チャネル構築やマーケティングなどは、巨大フードデリバリープラットフォームが握ることになるため、協力的な関係を構築していく必要が出てくるだろう。

レストランが、コワーキングスペースに

冒頭の「Under」のように、空き時間を別の目的で利用することができるレストランが他にもある。

「Spacious」 は、昼間は営業していないレストランと提携し、コワーキングスペースとして利用できるようにするサービスだ。ユーザーはSpaciousに登録し、月に99ドルを支払うことで、提携しているレストランをコワーキングスペースとして利用する。

朝8時30分からコーワーキングスペースとして使用し、17時にはレストランとして夜間営業の準備のため、スペースを閉じる、といった運用がなされるようだ。

営業時間外のレストランという、見過ごされてきた価値に注目したビジネスモデルといえる。

レストランに限らず、さまざまな会社や店舗は、空間を保有している。もし、営業時間外の空間や、利用していない空間などがあれば、有効活用の道が眠っているかもしれない。

レストランを軸とした新たなビジネスモデルの展開に、要注目

ユニークなレストランを取り上げた記事をチェックしていくと、そこでは多くの注目すべきビジネスモデルが、明らかにされている。

体験をモノの購入に結び付ける仕掛け、価値の高い施設を「マルチユース」で展開するスタイル、知見のオープンソース化によるコミュニティの形成など、レストランの潜在的な可能性は大きい。

キッチン以外のスペースを必要としない「ゴーストレストラン」、利用しない時間帯をコワーキングスペースにするSpaciousといった、レストランのスペースに着目した考え方も、適用範囲が広そうだ。

今後はレストラン×〇〇といったビジネスモデルが今まで以上に多く出てくるかもしれない。「レストラン=食事」という固定概念が取り払われ、レストランというちょっとした非日常の舞台を、新しい体験の場として提供するユーザーエンゲージメントを高める施策の一部として考えることもできるかもしれない。

これからも、レストランを軸とした新たなビジネスモデルの展開には、要注目といえるだろう。

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