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日本が抱えている少子高齢化による労働人材の不足は、農業の分野に及んでいることは誰もがご存知だろう。この問題が今後の日本の農業を左右するともあって、解決が急務とされている。
そこで一つの解決策として上がっているのがIoTを用いたスマートファームだ。農林水産省によると、「スマート農業(スマートファーム)」とは、ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業だという。これらによる施策はすでに他分野で業務効率化などの成果をあげており、農業においても期待が寄せられている。
独自開発した縦型水耕栽培装置・3D高密度栽培技術を推進するグリーンリバーホールディングス株式会社は、7月より日本最大級のバジル植物工場(スマートファーム)の稼働を開始した。
IoTを駆使し生産管理を一元化。バジルの生産量アップへ

近年の農業従事者の減少と高齢化により、国内のバジル生産量は年々減少傾向にあるという。また、「べと病」という病気の発生によりさらに生産量は低下、加工食品の原料となるバジルは大手加工メーカーを始め調達が困難となり、海外からの輸入品が市場の多くを占めているのが現状だ。
しかし、安心安全を求める消費者のニーズは年々高まっており、輸入品から国産への切り替えは機会が増大している。そこで、同社はIoTを活用することでバジルの生産量を上げるべく、このスマートファームを立ち上げた。
同社のスマートファームは、岩手県八幡平市(2017年9月より出荷開始)、福岡県久留米市、宮崎県都城市にあり、近年の異常気象による生産リスクを低減するうえで分散化されているが、IoTを駆使し遠隔地でも制御可能なシステムを搭載することで生産管理の一元化を可能にしているという。このシステムにより安定的な供給が可能となったとしている。
同社は岡山県や栃木県でもスマートファームの建設を予定しており、そちらの稼働が開始するとバジルの生産量は合わせて年間200tを超え、日本一の生産圃場を有する企業となるとしている。
「垂直農法」で農業の構造が大きく変わる
今回のスマートファームと類似するものに「垂直農法」というものがある。垂直農法とは、水平に広がる従来の農場とは違い、栽培スペースを地面に対して垂直に立てたり積み上げることで、限られたスペース内で効率的に作物を栽培するための手法を指す。省スペースであるため、都市部でも栽培可能な点が大きな特徴だ。
これは、2000年代初頭に生まれた考え方で、以下のようなメリットがある。
- 農地の節約
- 持続可能性
- 効率的な流通チャンネル
- 自然環境への耐性
このため、米AeroFarms、独Infarm、米Plentyといった世界中のさまざまなスタートアップが都市部で野菜を栽培しようと試行錯誤を続けているが、初期投資費用やランニングコスト、栽培できる作物の種類などが限定されているのが現状だ。また後継者不足が問題となっている農業となると人材確保の問題もあり課題は山積している。
しかし、これらの課題解決によってもたらされるものは、農業の在り方を変えるであろう見解が出ている。
- 年間の収益でコストの高さを正当化
「積み上げタイプ」の農場の収穫量は、従来の農場の500倍を越え、これを数字を売上高に変換すると、両者の間には4,000倍以上の差が出ると予測されており、費用の正当化が可能になるとされている。 - 垂直農法のハードルの低下
垂直農業が普及していくうちに関連コストの低下することで、新規参入企業や家庭に設置できるシステムが誕生する可能性がある。またゲノム編集という遺伝子改変技術により生産効率のあまりよくない作物も垂直農法の適用が可能に。 - 農業の工場化が後継者問題を解消
機械を製造する工場のように、垂直農場の自動化が進めば、そもそも農場で働く人が足りないという問題さえなくなり、労働人材不足による後継者問題も解決する可能性がある。
まだ黎明期にあるこの農法によって、近いうちに従来の農場がすべて代替されるということは考えづらい。しかし、少なくとも一部の人口に安定的に新鮮な野菜を届ける手段としては十分実用レベルに近い状態にある。
先ほどにも述べたが、将来的には、この技術が農業の分野に山積している問題を解決し、産業の構造さえ大きく変える可能性もあるのだ。
スマートファームが変える日本の農業
今回のグリーンリバーホールディングスのスマートファームは、遠隔地に分散された農地をIoTにより一元管理し、生産量を上げるというものが最大のポイントだ。
グリーンリバーホールディングスでは、同社の縦型水耕栽培装置を利用した他のハーブ類の実証は既に開始されており、今後はスペアミントなどの国産香料原料の生産・販売を展開していく予定だという。
同社のチャレンジがどこまで国内のスマートファームの可能性を広げられるか、その成果に期待したい。
img:Value Press , AeroFarms