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テクノロジーによる、政治のアップデートが始まりそうだ。
国民の代表として、国家的課題を解決する国会議員。広く国民の声を聞き、課題解決に必要な情報を集める必要がある。ビッグデータ・AI・SNSといった技術が、政治のこうした役割に適用されていくことになるだろう。
Twitterと社会課題の関係についての調査結果から、現在の状況をみてみたい。
TwitterのビッグデータにAIを適用し、社会課題を抽出・分類
2018年7月27日、国立大学法人東京大学、株式会社電通パブリックリレーションズ内の研究組織である企業広報戦略研究所、データとAIによるマーケティングを主軸とする株式会社ホットリンクは、社会的合意形成・政策形成について、AI(人工知能)を用いたソーシャルメディア上のビッグデータ解析および国会議員を対象とした調査に基づく結果を発表した。
その内容としては、2017年7月におけるTwitter上のつぶやき数千万件以上のデータをAIで解析し、社会課題を抽出するというもの。それをもとに国会議員を対象に、抽出された課題への認識、解決に必要な情報のニーズ、イノベーション政策を考える際に必要な情報源の調査も行なっている。
本研究の流れとしては、まず膨大なつぶやきのデータから算出された「解決することで、社会・経済・生活が大きく変化し、よりよくなる課題」を「社会イノベーション課題」と定義し、新たに開発した「社会イノベーション課題推定AI」を用いて生活者が興味を示している課題を推定する。
そして、ソーシャルメディア上のコミニュティを推定する「コミニュティ推定AI」と政府が定めた「未来投資戦略 2017」とTwitterのデータを掛け合わせることで、特定の興味をもっている生活者がどんな課題に興味を示しているのかを明らかにする。
そこから、先述したようにTwitter上のつぶやき数千万件以上のデータと「社会イノベーション課題推定AI」によって18の課題を抽出。
さらに「コミニュティ推定AI」によって18の課題を「①つぶやき数の多さ」「②つぶやきの特定のコミュニティへの集中度(※トピックエントロピー)」に基づき、4つに分類。
その上で、抽出され、4つに分類された18の課題に対して国会議員がどんな認識をもっているのかを調査している。
※トピックエントロピー
トピックエントロピーとは、情報を拡散したユーザーが属するコミュニティがどの程度多様なのかを情報量からもとめたものを意味する。トピックエントロピーが小さければ、拡散数が多くても、狭い範囲のコミュニティのユーザーにしか届いていないことになる。大きければ、多様なコミュニティのメンバーによって広く拡散されたことを意味するもの。
18の社会イノベーション課題を、
- つぶやきの数が多く、トピックエントロピーが高い
- つぶやきの数が多いが、特定のコミュニティに集中しているもの
- つぶやきの数が少ないが、全体に広く分布するもの
- つぶやきの数が少なく、特定のコミュニティに集中しているもの
に分類したのが、上の図となっている。
「つぶやきの数が多く、全体に広く分布するもの」には
- 保育環境の整備・待機児童の解決
- 就業環境の改善・働き方改革
- 省エネの促進
- 健康管理の促進
- VR(仮想現実)の活用・普及
が分類された。
一方、「つぶやきの数が多いが、特定のコミュニティに集中しているもの」には
- 安全保障の強化
- 憲法改正に関する熟議
- アジア周辺諸国との歴史問題
- 規制改革プロセスの改善
が該当した。
また、「つぶやきの数が少ないが、全体に広く分布するもの」には
- 外国人観光客(インバウンド)の促進
- 自由貿易協定(FTA)の締結
- QOL・幸福感の向上
- 英語の学習・活用
- 既読無視の解決
が分類された。
その一方で、「つぶやきの数が少なく、特定のコミュニティに集中しているもの」としては
- 高等教育の無償化
- 景気・経済指標の改善
- 仮想通貨の利用と規制
- 有事法制の制定
が該当する結果となった。
では、国会議員はこのTwitterから抽出された18の社会イノベーション課題に対して、どのような認識を持っているのだろうか。研究では、国会議員を対象にアンケートによる調査を実施している。
国会議員64人への意識調査
4つに分類された、18の社会イノベーション課題について、国会議員64人に対して認識度を聞いた。課題ごとの得点について、平均点を算出している。
その結果、「特定のコミュニティで話題になっている課題(平均87.8点)」「特定のコミニュティにとっての潜在的な課題(平均86.3点)」の両方において、全体平均を上回り、国会議員の認識度が高いことがわかった。
一方、「つぶやき数が少ない」「全体に広く分布している」潜在的な課題は平均75.1点と、全体の平均を下回り、国会議員には十分に認識されておらず、声が届きにくいという状況も明らかになっている。分野によってのイノベーション課題に対する認識度の偏りがみられる。
アンケートでは国会議員に対して、このような「AIを用いた社会イノベーション課題の抽出の必要性」についてもたずね、回答した64人の国会議員の約9割が「必要である」と回答している。
また調査では、国会議員が政策を考える際に必要な情報と情報源についても回答を得ている。
結果として国会議員は、イノベーション政策を立案する際に
- 「基礎情報・データ・統計」(84.4%)
- 「科学的な分析・解説」(78.1%)
- 「経済効果等の試算結果」(75.0%)
など、データ等の客観的なエビデンスを必要としていることがわかった。
国会議員は、何を情報源に利用しているのかをみてみると、「利用している情報源」については上位から
- 「新聞・テレビ・ラジオ・雑誌等の報道」(82.8%)
- 「関係省庁」(81.3%)
- 「勉強会・研究会」(76.6%)
という結果になった。
一方、「利用している情報源への信頼度」について聞くと、
- 「国会図書館」(85.7%)
- 「勉強会・研究会」(77.6%)
- 「関係省庁」(69.2%)
の順番となっている。
また、信頼度の低い情報源は、下から
- SNS・ブログ・動画共有サイト等(14.8%)
- ネットニュース(17.1%)
という結果になった。
国会議員は統計データや科学的な分析から得られる客観的な情報を必要としているが、国民の声が発信されやすいSNSやブログなどから得られる情報に対する信頼度はまだ低いことがわかっている。
政治とテクノロジーの融合による、よりよい社会の実現
SNSが広く利用される今、Twitterなどでは、活発な意思の表明や議論が行われている。
研究からビッグデータ・AIを適用することで、どんなトピックがどのような広さで拡散されているか、という状況がつかめた。国会議員に対するアンケートでは、特定のコミュニティで活発に議論される社会問題に、認識度が偏っていることもわかった。
国会議員は社会に広く分布する意見への認識度も、高める必要があるだろう。SNS・ブログ・動画共有サイトなどの信頼度はまだまだ低く、潜在的なイノベーション課題に関しては国会議員にその声が届きづらいということもわかっている。
国会議員は国民の代表であるがゆえに、本来は国民の声を代表するものでなくてはならない。しかし、国民の声は国政に届かないということは往々にしてあり、今回の調査でもその実態が明らかになっている。その課題を解決するためにも、今回のような「ソーシャルメディア × AI」という手法を“国会議員への情報提供手段”の1つとすることが、国会議員の意識を変えることにつながるのかもしれない。
img:PR TIMES