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そういえば、久しくインスタントコーヒーを口にしていない。
駅前のコーヒーショップへ行けば、バリスタの淹れた美味しいコーヒーが気軽に飲める。今やコンビニでも、本格的なドリップコーヒーが買える時代になってきた。いつでも、どこにいても、“こだわりの一杯”が簡単に手に入るようになった。
実はコーヒーよりも多く、水に次いで世界で2番目に飲まれている「ある飲み物」にも進化の波が押し寄せている。「日常茶飯事」という言葉があるように、友人とのおしゃべりや家族団欒の時間、おもてなしの時間などに日常的に飲まれている「お茶」だ。
コーヒーに次ぐ新しいブームとして、世界各国で個性豊かな次世代型のお茶が登場している。
世界のコーヒー文化を変えた“革命児”もお茶ブランドを展開
世界的コーヒーチェーンStarbucks(スターバックス)も、コーヒーに次ぐ事業としてお茶市場に参入している。
2012年、Starbucksは紅茶専門店「TEAVANA(ティバーナ)」を6億2000万ドルで買収し、翌2013年からアメリカ・カナダのショッピングモール内を中心に独立店舗を展開してきた。しかし、ショッピングモールへの客足の減少とともに低迷した業績を受け、買収からわずか5年で全379店舗を閉鎖した。
一方で、Starbucks店舗内で販売しているTEAVANAの売れ行きは好調だ。TEAVANAのドリンクは年間で16億ドル超の売上高を獲得し、TEAVANAは6年後には30億ドル規模の価値を持つ事業部門に成長すると見込まれている。
“これまでになかったティー体験”を実現するために誕生したTEAVANAには、従来のお茶のイメージを覆すユニークな商品が揃う。さまざまな種類の茶葉に花や果物、ハーブやスパイスなどを組み合わせたドリンクは、まるでカクテルのように色鮮やかで見た目にも楽しい。抽出方法にもこだわり、お茶の持つ“無限の可能性”を引き出したティードリンクは、ミレニアルズの心を掴みつつある。
Starbucksはコーヒー業界における“セカンドウェーブ”を牽引し、それまでのコーヒー文化を大きく変えた。流通の発達により、コーヒーが大量消費されるようになった“ファーストウェーブ”に続き、シアトル系コーヒーチェーンの台頭による“セカンドウェーブ”で、バリスタが淹れた深煎りコーヒーがどこでも手軽に飲めるようになった。
Starbucksの看板商品「フラペチーノ®」は新たなコーヒーの楽しみ方を大きく変え、ロゴ付の紙コップを片手に歩く姿がファッションアイコンとなったことも印象深い。
自社事業を展開する上で“Surprise & Delight”をキーワードに掲げ、遊び心あるメニューを次から次へと提案してきた“コーヒー界の革命児”は、その独自の発想と戦略を武器にお茶業界でも‟セカンドウェーブ”を巻き起こしている。
コーヒー業界では“ファーストウェーブ”、“セカンドウェーブ”の後に‟サードウェーブ”が到来した。豆の産地や種類にこだわり、ハンドドリップで一杯ずつ丁寧に淹れたスペシャリティーコーヒーは、ミレニアルズを中心に人気を集めている。
コーヒーの進化をたどってみると、人々はより上質で個性的な「こだわりの一杯」を求めてきたことがわかる。実はお茶業界においても同様に、密かに“サードウェーブ”の兆しが見えている。
お茶発祥の国・中国で若者に人気の「奈雪の茶」日本にはストリート系日本茶専門店も
お茶発祥の国・中国では、お茶業界初となるユニコーン企業が誕生間近だ。深センにある品道餐饮管理有限公司が展開するお茶専門店「奈雪の茶」だ。同ブランドは、お茶をベースにしたドリンクとパンを主力商品とし、北京、上海、南京、杭州、武漢、重慶などの13都市で展開されている。最近ではお茶専門店激戦区である深センに50店以上を出店した。
「奈雪の茶」は、天图投资(Tiantu Capital)から数億人民元(十数億円)を資金調達し、時価総額は60億人民元(1,000億円)となった。調達した資金は、今後チームビルディングや大規模工場の建設、サプライチェーンやITシステムの構築、店舗拡大などに使われ、今後大きな成長が期待されている。
中国科学技術部が3月下旬にまとめた「2017年中国ユニコーン企業発展報告」によると、中国の2017年時点のユニコーン企業(企業価値10億ドル、日本円で1060億円以上の非上場企業)は前年の131社から33社増加し164社だった。その多くの割合を占めるのはEコマースやFin TechといったIT事業。今回の「奈雪の茶」の巨額な資金調達は、飲食業界においてかなりの特例であるといえるだろう。
世界一のお茶消費量を誇る中国で、「奈雪の茶」が革新的な成長を遂げた理由は、ミレニアルズに特化したその戦略にある。
新鮮なフルーツやチーズクリームを使った「ポップアイコン」としてのティードリンク、「低脂肪」「低糖」にこだわったヘルシーなパンを主力商品に掲げ、「フォトジェニック」や「ウェルネス志向」というミレニアルズのニーズを満たした「奈雪の茶」。今回の資金調達により、「若者たちが中国の紅茶に恋し、中国の紅茶を世界に発信する」というビジョンの実現に着実に近づいている。
アメリカでも「お茶」への関心が高まっている。ロサンゼルス・メルローズアベニューには、多くのセレブリティやインスタグラマーが足繁く通うお茶専門店がある。
米国で6店舗を展開する「ALFRED COFFEE SHOP(アルフレッド コーヒー ショップ)」から派生する形で誕生した「ALFRED TEA ROOM(アルフレッド ティー ルーム)」だ。淡いピンク色で統一された店舗デザイン、ビーツのパウダーを入れたピンク色のドリンクなど徹底的に「ミレニアルピンク」を取り入れることで、女性から絶大な支持を受けている。
2017年10月には東京・青山にも上陸を果たし、日本のミレニアルズの間でも早くも話題のスポットとなっている。
日本の伝統的なお茶「日本茶」を新感覚で楽しめる次世代型の日本茶専門店にも注目しておきたい。ストリートカルチャーの発信地、渋谷区宇田川町に店を構える「幻幻庵/GEN GEN AN」だ。
同店は、日本文化の再生屋・丸若裕俊が手がける“次世代のお茶葉屋”。日本茶が本来持っている美しい味と、エナジードリンクのような力強さを広めるためにオープンした。
先日、筆者も同店に足を運んでみたのだが、日本茶のイメージを良い意味で裏切るような体験ができた。打ちっ放しのコンクリートの壁にはカセットテープが敷き詰められ、カウンターにはラジカセやけん玉が無造作に置かれている。遊び心ある空間の中で、ストリートファッションに身を包んだスタッフが丁寧に緑茶を淹れてくれた。
世界各国で登場している「サードウェーブ茶」は、“洗練されたビジュアル”や“上質な味”にこだわり、既存のお茶の概念を覆している。あまりに身近で大衆的な飲み物であったお茶はこうした進化によって、より多様に、幅広い世代に楽しまれるようになっていくだろう。
共感を呼ぶ上質なお茶。ミレニアルズの価値観に重なるお茶トレンド
こうしたブームの背景には、ミレニアルズの消費行動における次のような背景があるのではないだろうか。
まず、若者の消費行動を促す鍵が「共感」となっていることだ。デジタルネイティブであるミレニアルズには購入した商品の感想をSNSにアップし、ほかの誰かがそれを参考にして欲しいモノを選ぶ、というサイクルが存在する。
色鮮やかなドリンクやスタイリッシュなパッケージ、それらを楽しむ空間に至るまで“フォトジェニック”にこだわったお茶専門店はinstagramに写真が多く投稿され、人気を集めている。
また、“ミニマリズム現象”のエキスパートJoshua Becker(ジョシュア・ベッカー)氏がミレニアルズの消費行動の背景を考察したこちらの記事によると、ミレニアルズは健康や体験を重視し、より質の高いものを好んで消費する傾向があるという。
ペットボトルで気軽にお茶が飲めるなか、多少の手間やお金をかけてでも、こだわりの茶葉で丁寧に淹れた一杯を好む人が増えることはごく自然な流れといえよう。
世界のお茶市場は、2015年の段階で1,250億ドル規模に達し、コーヒーよりも大きい市場を有しているという。巨大なビジネスチャンスが潜んでいるお茶市場において、躍進を続ける「サードウェーブ茶」に今後も注目したい。