ホワイトカラー人材紹介市場はアジア経済でも二分している。拡大を続けるアジア市場の各国経済状況

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昨今、アジア経済の拡大は目覚ましく、世界の経済成長をけん引しているとの声もある。そしてアジア各地で日系企業が展開されたり、アジア各国の人材が日系企業に流入したりと、日本と他アジア各国とのつながりも強い。

この度、世界10ヵ国で人材紹介事業を展開し、東南アジアにおいては最大級の規模を誇る株式会社ジェイ エイ シー リクルートメントが、2018年第2四半期のアジア各国のホワイトカラー人材紹介市場の動向をまとめて紹介した。この動向を知ることで、アジア各国の経済状況も垣間みることができるだろう。

マレーシア – 高度人材・マネジメント人材のニーズが引き続き堅調

5月9日のマレーシア議会下院選挙で、マハティール元首相をトップとする野党連合が過半数の議席を獲得。1957年の独立後、初めての政権交代が行われる結果となった。

そのあと、公約としていたGST(物品・サービス税)の撤廃などを実行し、6月に発表されたCEO Confidence Index(経済動向信頼感指数)は、2017年第2四半期の89.6ポイントから17.3ポイント増加し、第2四半期は106.9ポイントいう結果に。

そんななか、第2四半期の企業の求人状況は、前期比で大幅な増加をみせた第1四半期からの反動も影響し、12%減(前年同期比でも12%減)となった。ただし化学や電子などの業界では、人事・総務系、はたまた研究開発などの職種について、高い水準で求人の需要が続いている状態だ。

またSSC/BPO業界の求人募集も引き続き盛んに行われている。その他、臨床関係のアナリストのようなスペシャリストや基本給7千リンギット以上のマネジャークラスの求人も増加している。このように、高度人材・マネジメント人材の企業の需要が高まっているのが特徴的だ。

次に求職者の第2四半期の動向については、前期比は横ばいであるが、前年同期比では13%増加している。なお昨今は、最終的な内定が出た段階で日本の現職企業から強い引き留め(カウンターオファー)があり、結果的に取りやめとなるケースが増えている。採用先の企業はより柔軟な報酬の提示、または現地採用から日本本社採用への切り替えといった措置が必要になってきそうだ。

シンガポール – 実質経済成長率が上昇、雇用ではローカルの人材が優先される傾向に

シンガポールの実質経済成長率は、同国の全国賃金評議会によれば2017年実績は3.6%で、2016年の2.4%から上昇。その他、2017年の消費者物価指数(CPI)は0.6%で、2年続いていたマイナスより脱却した。また賃金評議会のガイドラインでは、低賃金所得者に対するベースアップなどを継続しつつ、仕事復帰する女性の雇用促進などに関する項目が追加されている。

なお同国での企業の採用動向は、例年では第2四半期の求人が多くなるものだが、今期は伸びがみられなかった。なお日系企業では、外国人就労ビザの厳格化が影響して、現地ローカル人材の採用が優先される傾向が続いている。特にこの傾向は、経理をはじめとした管理業務領域で目立った。

求職者の視点でみると、ローカル人材中心の売り手市場となっている。転職先企業から内定が出た後に、現職企業の引き留め(カウントオファー)によって内定をけり現職に留まるケースも増えている状況だ。

タイ – 景況感が改善、企業の採用は横ばいで売り手市場が続く

新車販売が2012~2013年のピーク時の水準に戻りつつあるなど、タイでは景況感の指数がおおむね改善傾向にある。

企業の採用については、タイ現地法人トップの後任が日本の本社社員からみつけられないという企業が少なくない。これを受け、中途採用でそのポジションを受けるケースも増えており、転職者・企業双方で、駐在員と現地採用の差といった固定観念が薄れ始めている。とはいえ、日系企業の現地法人トップの大多数は日本人で、ローカルの人材をトップに就任させる欧米系の企業とは異なる傾向だ。

一方、求職者の動向としては、経営トップの人材に関する企業の需要が増え、50代~60代で経営経験がある人材の転職機会が増加。しかしながら、現地法人立ち上げの経験がなかったり、現地法人の社長を引き継いだ経験が3年程度だったりでは、新規進出企業の評価が低く採用まですすまないのが実際のところだ。なお転職が見込める年齢が上がっているのに対し、転職市場の中心は若い20代~30代という状況はしばらく続くと想定される。

インドネシア – レバラン(断食明け祭)などにより求人が全体的に減少するも、インフラ・建設業の採用は積極的

同国のジョコ・ウィドド大統領の任期が終了する年で、実績残しを狙った多くの改革が急速に進められている。各地の空港の改良を目的とした整備、ジャカルタ市内での道路・歩道の工事、8月に開かれるアジア競技大会の会場改築などが行われている。また外資系企業の進出や業務拡大に関するプロセスに今まで多大な時間を要していたが、手続きの全てをオンライン化・簡素化するという新規定がでた。その早急な準備に批判もある一方、評価する声もある。市場ではルピア安が続くが、このような政府の迅速な動きにより景気回復が期待されている。

そんな中、企業の採用は、毎年6~7月のラマダン(断食)・レラバン(断食明け祭)によって、例年同様に採用・転職活動は停滞。なお今年は、政府発令によるレバラン期の一斉休暇奨励日が長く、結果的に採用・転職が鈍化した期間が長かった。対して、日系・外資系ではインフラ関係や2億6千万人の人口を背景とした消費関連ビジネスを中心として、継続的に積極的な動きが続いている。

一方、求職者の観点からみると、レラバンなどにより求職者数は減少するも、全体として各業界の拡大基調は続き、売り手市場は継続している。日系の企業に関しても、日本国内での人材不足もあって現地採用が増加。駐在員の代替となるような有能なローカルの人材を求める声も顕著になっている。

ベトナム – 経済が好調で、労働市場も活況

ベトナム統計総局の発表によれば、2018年上半期の国内総生産(GDP)の実質成長率(推定値)は7.08増に。第1四半期の成長率は、上半期としては2011年以降の最高値を記録した。産業別のGDPも、農林水産業・鉱工業・建設業・サービス業などで幅広く増加。特に製造業は、過去7年間で最も高い13.0%の増加を記録した。その他、サービス業で過去最高値となったのをはじめ、銀行・保険業・ホテル・飲食業などさまざまな業界で著しい成長を記録している。

企業の採用動向をみると、第2四半期ではIT業界での採用が活況だった。特にICT・金融ビジネスを変える「FinTech(フィンテック)」、人工知能(AI)・ロボット技術・仮想通貨(ブロックチェーン)といった分野で、経営幹部・エンジニアの人材をはじめとした求人の増加が目立つ。

その他、ベトナムでFC展開を行うローカルのブランド企業と、現地でマーケット拡大を狙う外資系ブランドとの競争が激化。お互いが積極的な事業展開を継続することにより、店舗開設・運営を担う不動産関連の人材求人も増えている。また高層ビル・高級マンション・住宅などの建設が急ピッチですすみ、関連する国内の大手都市開発会社による、建設・建築関係の求人が増えている。

対して求職者の動向について、第2四半期には、年間決算の業務が終わったことにより、経理・監査や、バックオフィス関連の経歴がある転職希望者が増加。また上述のとおり企業の採用が増えたことに加え期間限定のプロジェクトをはじめとする求人増もあり、IT関連などで高い専門性がある求職者が、給与・福利厚生などより好条件の仕事を求めている。第3四半期も、転職市場はより活況となると想定される。

中国(上海・広州) – 企業が引き続き積極的な採用を展開

中国国家統計局は、国内の2018年4月~6月の国内総生産(GDP)の実質成長率が6.7%で、若干減速傾向にあると発表。しかしアメリカとの貿易摩擦の影響や、スマートフォン向け電子機器に関する設備投資が落ち着く一方で、IT・AI(人工知能)・半導体などのハイテク関連・自動車領域は好調を継続している。

また昨年から広東省政府は外国人の就業に関する方針を頻繁に発表。専門性の高い知識・技術をもった人材の就業支援を強化する意向だ。ただし、その結果として、職能レベルが一般より低い外国人の就業許可の取得は難しくなると不安視されている。

そんな中、企業の採用動向をみると、ハイテク関連・ITサービス・自動車関連企業などが依然として積極的な人材採用を進めている状況だ。特に半導体関連の人材不足が顕著。40万人もの人材が足りていないといわれており、新卒採用の段階で高額な初任給を条件として優秀な学生を採用する企業が増えている。

また中国政府は、半導体IC・チップ領域への投資を加速化し国内開発を進めており、日系の関連企業の求人も増加傾向に。この分野では、募集時の給与が高額となり、人材採用の競争が激化している。

一方、求職者の視点でみても、転職市場は中国人・日本人を問わず活況。優秀な人材に複数企業からオファーが届く売り手市場の傾向が継続している状態だ。

香港 – 春節以降の活況が落ち着く

昨今、香港は広東省9都市と香港・マカオを加えた11都市による一大経済圏構想(ビッグベイエリア構想)が注目されている。中国大陸・香港を結ぶ鉄道整備が行われており、香港~マカオ~珠海を結んだ海上橋もかかって開通が間もなくという状態だ。

香港証券取引所で上場する企業の6割は中国企業であり、不動産価格の高騰も中国大陸の資金による影響が大きいといわれている。ビッグベイエリア構想によってこの傾向は強くなるとみられ、香港経済の今後の変化が注目される。

企業の採用に関しては、例年のように春節明けの活発な状態から停滞し、日系企業の求人も落ち着いている。なお日系企業の求人の傾向は、新規に事業を立ち上げるための採用や現地化を進めるための幹部候補の採用など、業界・企業によって多様だ。

金融機関では、ボーナス支給後の退職社員の欠員募集を目的とした採用が行われている。また外資系IT企業による日系企業の現地立ち上げなどで、日本人の募集は増えている。しかしながら日本国内での採用市場が活性化していることから、より高い給与を条件としないと人材が集まらなかったり、予算の関係で採用を見直したりする例も出ている。

韓国 – 半導体関連の企業は好調。日本企業が日本での勤務可能な韓国人技術者を募集する動きもあり

雇用創出やワークライフバランス向上を促す文在寅政権の雇用政策の一環として、7月1日から週52時間労働制が始まった。加えて「統一地方選と国会議員補欠・再選挙」の与党圧勝によって国政が安定化すると想定される。その一方で、統計庁では5月の失業率が4%に悪化したと発表。特に若年層の失業率が10.5%にも及んでおり、若い世代を中心として国民から対策を求められている状態だ。

そんな中で企業の採用動向をみると、前四半期と比較して企業の採用活動は落ち着いたものの、半導体の輸出が好調で、装置メーカー・部品メーカーの求人は積極的な状態だ。

また日本国内での人材不足を背景として、日本企業が日本の本社で勤務可能な韓国人技術者の採用を目指す動きがみられる。しかしながら採用にあたって高度な日本語能力が求められることが原因となり、応募者が十分に集まらない状況だ。一方、国内の消費者マーケットをターゲットとした他の業種での求人は、以前からあまり増えていない。

対して求職者の状況は、前四半期と比較して大きな変化はない。日本語堪能で特定の業界での就業経験がある人材の採用が進んでいない。また景気低迷の影響か、転職を検討する人材は減少傾向にある。

その反面、特定の経歴を持たない新卒の若年層が特定の経験を持つ人材と比較して相対的に多くなっており、ポテンシャルで採用される例が増加している。また韓国では転職を希望する人の多くが給与・福利厚生とあわせ会社の安定性を重視しており、規模の小さい在韓日系企業は、採用のプロセスの中で会社の安定性を伝える必要がある。

インド – 高額紙幣廃止・GST(物品・サービス税)導入の影響が薄れGDPが回復する傾向

2016年11月の高額紙幣廃止、2017年7月のGST(物品・サービス税)導入により、2017のインド経済は一時的に停滞していた。しかしながら昨今ではその影響も薄れ、2017年第4半期(2018年1月~3月)のGPDが7.7%の成長を記録するなど回復傾向にある。2018年はさらに景気の回復がすすむ見込みで、GDPの予測は7.0%~7.5%と2015~2016年の水準に戻ると想定される。

企業の採用動向をみると、まず日本人向けでは増員を目的とした依頼は少ない。その一方で、数年間勤務した人材の退職によって生じた欠員を補充するための募集により、5月~6月の求人は前四半期と比較して約3割増加。一方、インド人向けの求人では、毎年この時期は給与改定が実施され不満を持つ社員の退職による欠員募集が行われるが、今年はそれほど活発ではない。

また求職者の動向をみると、日本人候補者の登録は横ばいで、他国での転職目的を含んだ併願が多い業況が続いている。一方、最近は女性の候補者が増加。もともと4対6の割合で女性の候補者が多かったところが、最近は3対7の割合となっている。これで男性向けの営業ポジションで人材を紹介できる機会が少なくなり、男性の転職希望者は優位な状態だ。

対してインド人の候補者は案件次第で転職するので、通年の求人数は増加。高い水準で安定している。ただ上述のとおり、通常、この時期は給与改定による転職候補者が増えるが、今年はその傾向は強くない。

日本 – 景気は堅調。高い専門性を持つ人材の獲得競争は激化する一方に

厚生省の発表によると、5月の有効求人倍率(季節調整値)は1.60倍で、1990年以降の最高水準にて高止まりしている状態だ。株式市場は米中貿易摩擦などの影響から弱含みの状況。しかしながら、2018年3月期は相次いで企業が最高益を更新するなど、足元の景気は堅調だ。特に、FA(Factory Automation、工場の生産工程の自動化を図るシステム)機器などの分野で好調を継続する企業がみられる。対して、前述の米中問題、アップル社のスマートフォン減産などにより、2019年3月期の業績見通しは保守的な企業も目立つ。

そんななか、企業の採用動向をみると、化学・建設・物流などの業界で海外事業要員採用の募集がもっとも伸びている。さらに製造業各社でIT系の投資が活発化していることから、IT系の人材に関する募集も増加。また化学業界では、アジア新興国で開発営業を担当できる理系人材を中心として不足している状態だ。建設・物流などの分野でも、人材の不足が著しい。

求職者の動向については、空前の売り手市場が続き新規登録数が増加する一方で、求職者は転職に慎重となる傾向にある。業績好調でボーナスに対する期待値が高く、年収ダウンとなる転職は敬遠される。そのため大企業と比較して給与水準が低い中堅の中小企業や、都市部の優秀な人材を採用したい地方企業は不利な状態だ。

また、化学・建設・物流・ITといった分野では、中途採用で応募する人材自体が少なく、1人の人材に複数社からの内定が集中するなど、採用時の給与条件が高くなる傾向にある。

各国の経済状況を反映した人材紹介市場の把握が必要

紹介したように、拡大し続けるアジア経済の中でも各国の経済状況やホワイトカラーの人材紹介市場の動向はさまざまだ。そして今回のレポートによると、アジア各国では基本的に景気が上向いている国が多いものの、2018年第2四半期の各国の人材紹介市場は好調な国と落ち着きをみせる国に二分されている。

日本の企業はアジア各国へ拠点を展開したり、アジア各国から人材を受け入れたりしているが、各国の人材事情を把握して対応をすすめることが必要となるだろう。

img:@Press

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