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程度の差はあれ、男女問わず同性の集まる場で性的な話が盛り上がることもある。悩みを打ち明けたり、性生活についてこっそり語り合うこともあるだろう。
しかし、多くの女性は一歩外に出た途端に口を閉ざしてしまう。セックスについて公然と語ることは、タブー視されがちだ。性に関して恥の意識を持つ人々は多いのではないだろうか。
ただ、状況は少しずつ変わり始めている。フェミニスト宣言に#MeTooといった、昨今の女性活動に関する潮流の一つに、女性の「性」を開放しようという動きも見られるようになってきた。
男性目線だった、アダルトグッズ市場
世界のアダルトグッズ市場は、150億ドル(約1.6兆円)を超える。そのほとんどは男性を購買対象にした商品ばかりだ。しかし、それも変わっていくかもしれない。女性向けのアダルトグッズ市場は2021年まで毎年10.98%成長していく予測がある。
ここに一つの参考値を示したい。アメリカの調査会社Statistic Brain Research Instituteが2017年に実施した調査によると、アダルトグッズを使って週に1回以上マスターベーションをする女性の割合は、世界で12%らしい。
10人に1人。これが多いか少ないかは分からないが、12%の女性らがより多様な選択肢の中からプロダクトを選びとることに、そして残り約9割のうち「関心はあるが非所有」という潜在層へリーチすることに、可能性を感じている起業家や投資家が少なからずいる。その証拠に、アメリカではここ数年、女性のためのセクシャルウェルネス関連のスタートアップがいくつも立ち上がっている。
製品の見た目も、洗練されたデザインのものが増えてきた。所有していることに嫌悪感を抱かないような、感性にフィットする商品だ。
例えば、ハイセンスな見た目だけでなく、使われる言葉にも変化が見られる。マスターベーションではなく「セルフプレジャー」や「セルフケア」、アダルトグッズは「プレジャーアイテム」などと呼ばれてもいる。
セックスをもっとシンプルに。セクシャルウェルネス企業を目指す「Maude」
アメリカで立ち上がったビジネスの一つにMaude(モード)がある。2017年4月に設立されたMaudeは「Sex made simple」を謳う。展開するコンドームやローション、バイブレーターは、どれもミニマルで洗練されたデザインばかり。ローションはプッシュ式のハンドソープのように手軽で、バイブレーターはスマートスピーカーのような佇まいだ。
売り方も、すこし変わっている。Maudeのサイトを訪れると、まずアンケートが現れる。名前や年齢、セックスの頻度などを入力していくと、自分にぴったりのキットが提案され、アメリカ国内なら送料無料で配送してもらえる。
Maudeを立ち上げたのは、二人の女性。CEOのEva Goicochea氏は、アパレルブランド「Everlane」の立ち上げメンバーで、ソーシャルメディアや採用責任者を担当していたキャリアを持つ。プロダクト責任者であるDina Epstein氏は、ランジェリーブランドの「Kiki De Montparnasse」や、アダルトグッズメーカー「Doc Johnson」でインダストリアルデザイナーとして商品開発を担ってきた。
Goicochea氏は、従来のセックス関連商品が男性的なもので支配されてきたことを指摘。ジェンダーニュートラルで質の高い製品を作り、セクシャルウェルネス企業として「セックスをシンプルに」をミッションに掲げる。
一般的に、セックス関連商品は資金調達に苦労することが多い。ベンチャーキャピタルの中には、道徳的な観点からこの分野への投資を認めない団体もある。しかしMaudeは、女性起業家を支援するベンチャーキャピタル「XFactor Ventures」から2018年1月に5万5,000ドル(約600万円)のプリシード資金を調達した。
投資を決めたXFactor VenturesのAubrie Pagano氏は、「創設者の二人は新しい世代の声で。文化的で革新的な思考は、従来のマーケットに風穴を開ける存在になるだろう」と投資の理由を話している。
現在のところ、一般消費者からのフィードバックは非常にポジティブだという。
性行為における快感の男女差と向き合う「Eva」
ここでもう一つ、MIT出身のJanet Lieberman氏が開発した「Eva」の事例を挙げたい。
数十個の試作を重ねたどりついた卵型のバイブレーターは、特に女性の快感にフォーカスを当てて開発された。Liberman氏は「女性が性的体験をオープンにできるような商品をデザインすることが、わたしたちの使命です」と謳う。
アダルトグッズの多くが女性の身体に使用されるものにも関わらず、デザインもパッケージもマーケティングも男性のために行われていることを指摘。キュートなデザインのバイブレーターによって、アダルトグッズの怪しげなイメージを少しでも改善したいという。
共同設立者のAlexandra Fine氏は、「男女の快感のギャップを埋めることがわたしたちの使命。さまざまな男女間の差と闘うなかでも、特に性行為における差をなくしたい。女性にはもっと性的快感を得てほしいし、それを主張してほしい」と話している。
彼女らは2014年にクラウドファンディングで57万5,000ドル(約6,500万円)の資金を集めた。プロダクトは2015年に発売され、定価105ドル(約1万2,000円)の製品がこれまでに6万5,000台売れた。現在は、より小さく簡単に使えるよう改良された「EvaⅡ」が販売されている。
思想を持つプロダクトは、女性を解放するインパクトとなりうるか
決してプレイヤーが多いわけではないが、この動きは日本でも並行して進んできている。株式会社TENGAでは、2013年から「女性らしくを、新しく」のコピーのもと「iroha」というスタイリッシュな女性向けセルフプレジャーアイテムを展開。毎年のように新しいモデルを展開するなど、国内市場で存在感を発揮している。
女性のエンパワーというと、ビジネスや政治の場での平等性が引き合いに出されやすい。女性の性生活についてはあまり触れられてこなかったが、クラウドファンディングの成功や、順調な売れ行きが、この分野における可能性を示唆している。
クラウドファンディングを支援したり、製品の購入者の中には、純粋にアダルトグッズが欲しくて購入したのだろうか。きっと、それだけではないと筆者は思う。
倫理的で社会指向なものに敏感なミレニアル世代は、Evaの先に見える「女性の性のアップデート」に投資したのではないだろうか。彼女らは、単なる製品ではなく、生き方の選択肢を提供しているのだ。