中国の野望、超音速旅客機で世界を狭くする

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アマゾンが即日受け取りを可能にしたり、中東でも砂漠にチューブを通し、中をカプセル型の乗り物を走らせる「ハイパーループ・ワン(Hyperloop One)」の開発が進むなど、世界ではあらゆる場面での「高速化」が進んでいる。

しかし現在の一般的なジャンボ旅客機はマッハ0.85(およそ時速800~900キロ)であり、実はこの速度は1950年代からほとんど変わっていない。そんな中で最近注目されるのがアメリカのブームテクノロジー社(Boom Technology,Inc.)の超音速旅客機「Supersonic」とその世界を裏で牽引する中国企業の存在である。

中国のOTA最大手「Ctrip(シートリップ)」とは

市場シェア35%を誇る中国のオンライン旅行会社(OTA)の最大手である Ctrip(シートリップ、携程、以下シートリップ)は超音速旅客機の開発を手がけるブームスーパーソニック(Boom supersonic)への戦略的投資を完了したと4月25日に発表した。この2社の共通する目的は、中国とアメリカ、南アジア、オセアニアを結ぶ航路を飛ぶ超音速飛行機を2023年までに実用化することである。

View of passenger bridge departure gate at airport tarmac

シートリップは、中国で海外旅行をメインに事業を展開するオンライン旅行会社であり、航空券、ホテル、鉄道などを扱い、独自のサイトとアプリを持つ。1999年に設立され、中国・上海を拠点に、日本、韓国、シンガポール、イギリス、アメリカにも事業拠点をおく。

日本法人であるシートリップ・ジャパンは、2014年5月に設立され、東京、大阪など国内6ヵ所のオフィスを拠点に日本でもビジネスを拡げ、2015年には日本旅行業協会(JATA)の正会員となっている。

2017年11月にTrip.comというアメリカの旅行計画サービスも買収し、また、旅行者御用達のSkyscannerも買収し、最近はSkyscannerで検索した際に、安いチケットの上位のほうにTrip.com(Ctrip)が表示されることも多い。

超音速旅客機Boom Supersonic(ブーム・スーパーソニック)は、ブーム・テクノロジー社(Boom Technologies Inc. 以下「ブーム社」)が手がけている。アメリカ、コロラド州デンバーにあるスタートアップ企業である。

創始者であり現CEOであるBlake Scholl は、大学でコンピューターサイエンスを学び、航空機産業のキャリアがあるわけではなく、もともとeコマースの会社を立ち上げたり、アメリカのアマゾンでアプリ開発や広告の自動化、Google Adwordsを開発した経歴を持つ人物である。航空業界のキャリアはないものの、趣味でセスナを操縦することはあり、いわばアメリカのホリエモンのようなタイプだろうか。

Schollは、2014年にブーム社を設立し、2017年4月までに4,100万ドルの資金を調達した。ブーム社の支援者はワールドワイドだ。

まずは、リチャード・ブランソンのヴァージン・ギャラクティックの製造部門スペースシップとの契約を結んだ。また、2017年12月にJALとパートナーシップ契約を結び、JALはブーム社に1,000万ドル(約11,5億円)を出資して、約1%の株式を取得し、将来の優先発注権を20機分獲得という資本業務提携を合意している。ちなみにJALはコンコルドを1965年に3機を仮発注をし、その後にキャンセルしたという過去がある。

そして、ブーム社は今年の4月に中国のシートリップと結んだ。シートリップはブーム社の最初に商業的フライトが実現したときに10~15席の座席を保証するという条件でパートナーシップ契約を結んでいる。現在12時間かかる上海-ロサンゼルス間も6時間と短くなったら、中国人旅行客、ビジネス客にとっても非常に魅力的だろう。

なぜ、旅客機はスピードが速くならないのか

なぜ新幹線はここ30年ほどで1時間ほど速くなったのに(例えば、東京ー大阪間で昔は4時間かかったものが、現在では3時間である)飛行機は速くならないのか、疑問に思ったことはないだろうか。

かつては、今の飛行機よりも速い超音速旅客機が存在した。イギリスとフランスが共同開発した「コンコルド」である。世界初だった超音速旅客機コンコルドは、1969年に初飛行を行い、飛行時間は半分になったコンコルドが使われた路線はニューヨークとロンドン、またはパリを結ぶ大西洋路線であった。例えば、ニューヨークロンドンを結ぶ路線はおよそ7時間くらいだが、コンコルドではその半分の3.5時間であった。

しかし、問題は通常よりも長い滑走距離を必要とすることと、その騒音と衝撃波である「ソニック・ブーム」によって、航路や乗り入れ先が限られていた。騒音によりアメリカ航空当局がアメリカ上空を飛ぶのを全面禁止したことも、当初の採算とは合わなくなった原因の1つである。

そして、乗客の定員が100人と少なく、運賃は他機種のファーストクラスの2割増し(例えば、ロンドンーニューヨーク間で往復200万円ほど)と高額であったため、経済的に収益が上がらないまま、またオイルショックなどの燃料の高騰化も影響し、商業的に失敗した。

また、2000年7月にエールフランスのコンコルドがシャルル・ド・ゴール空港離陸直後に事故を起こし、113人が死亡した。そしてこの事故の影響を受け、2003年10月にコンコルドは27年の商業飛行に終止符をうった。


コンコルド

ブーム社はこのコンコルドのような超音速旅客機を復活させたいという夢を実現させようと設立された。コンコルドが先の述べたような失敗した点、燃費が悪く、運賃が高すぎて座席利用率が低かった点を改善すべく、マッハ2.2(時速約2,335キロ)で飛行する55人乗りの航空機を、通常のビジネスクラス、5,000ドル~1万ドル(約50万円~100万円)からの運賃で利用できるようにするという。ロンドンーニューヨーク間を3時間半、サンフランシスコー東京間も5時間半、上海ー北京間を45分で移動するのを可能とする。

ブーム社のエンジニアはカーボン繊維の機体やエアロダイナミクス技術を使って、コンコルドをリデザイン、再びデザインし直すことで超音速飛行を可能にしようとしている。

かつての航空機開発の現場では、一つの実験に半年ほどの時間を費やすこともあったが、現在ではコンピューター技術の進化により30分ですみ、その結果をすぐに多くの人とクラウドでシェアすることが可能になったという。Boomの3分の1スケールの試作機「XB-1」は2016年11月に公開されており、着実に超音速飛行機の実現化へと着実に駒を進めている。

背景には中国人の「海外旅行」の新スタンダード化

その背景にあるのは、超音速への需要の高まりである。中国では旅行をネットで予約しその日のうちに宿泊する人も多いらしい。国内旅行も多いが、海外旅行に出かける中国人も増えていて、中国人にとって、海外旅行が「普通のこと」になったのである。とは言ったものの、中国人のパスポート保有率は5%~10%と言われ、この先まだ10年くらいはこの中国人の海外旅行者は増加傾向にあるだろうと見られる。

今でもアメリカ上空の超音速機の飛行は全面的に禁止されているため、洋上ルートのみの運行となる。中国人の海外旅行先で人気があるのは、日本などまだアジアが強いということで、たとえば日本と香港や上海、シンガポールなどを結ぶのもビジネス客も見込めるかもしれない。

超音速機には日本のJAXA、アメリカのNASAも開発を進めている。中国の野望がどこまで超音速旅客機の開発に影響するのか、どの国が一番早く実現させるか、今後の展開に注目したい。

文:中森有紀(なかもりゆき)
編集:岡徳之(Livit

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