INDEX
インターネットやテクノロジーの進化によって、世の中のさまざまなものに大きな変化が訪れている。それは「買い物」においても例外ではない。
もともと、モノやサービスを購入するということは、実店舗に赴いて購入するという形態が一般的であった。それが、インターネットの進化により、通販が主流となり、さらに、物を買うという行為だけではなく、そこにはさまざまな付加機能やサービスも登場している。
今回は、ファンションのコーディネートでも楽天が大きな変革をもたらそうとしている。
楽天株式会社は、楽天グループの研究開発機関である楽天技術研究所と公立大学法人会津大学による共同研究において、楽天技術研究所が開発した「遠隔スタイリング支援システム」を搭載する電気自動車「リモートファッションコミュニケーションビークル」を用いて、デジタルサイネージを活用した次世代型のお買い物体験を提供する実証実験を開始した。
デジタルサイネージで遠隔から店員がスタイリングを提案
この実証実験は、電気自動車後部に設置するスタイリングルームにユーザーに入ってもらい、デジタルサイネージを通して遠隔からショップ店員がスタイリング提案を行うというものだ。
ユーザーはデジタルサイネージ上に表示されるQRコードを読み込むことで、気に入った商品を楽天が提供するインターネット・ショッピングモール「楽天市場」で購入することができる。
楽天技術研究所は、これまでインターネットを活用した新しい店舗システムのプロトタイプ開発および実店舗での実証実験に取り組んできており、その研究成果として、「遠隔スタイリング支援システム」を開発した。この研究の一環として、IT技術を用いて地域課題の解決に取り組む会津大学との共同研究を2018年5月より開始し、今回実証実験を実施した。
「遠隔スタイリング支援システム」とは、遠隔地にいるスタイリストと試着室(車体)にいるユーザーをインターネット経由でつなぎ、ファッションアドバイスを行う仕組みだ。
スタイリストは、音声会話アプリ経由でユーザーと会話をしながらタブレットを操作し、サイネージ上のユーザーにデジタル化されたファッションアイテムを重ねて、スタイリング提案を行う。
実施にあたっては、「楽天市場」に出店するレディースファッション店舗「イーザッカマニアストアーズ」の協力を得るとともに、同店舗と会津大学との議論で挙げられた、オフラインのショッピング体験における地域的制約、物理的制約、心理的制約の3つの課題の解決を目指した。
同社によると、この課題について、地域的制約とは、地域によるファッション体験の格差を、物理的制約は、店舗スペースによる在庫や品揃えの確保の困難を、心理的制約は、利用客がショップ店員からスタイリング提案される際に感じる不安などをそれぞれ指しているという。
ファッションECに変革をもたらしたサービスの数々
今回のような購入前にスタイリングの提案を受けられるサービスが流行り出した背景には、「Stitch Fix」や「Trunk Club」などファッション系のサブスクリプションサービスの台頭がある。これらのサービスでは、ユーザーはプロのスタイリストがコーディネートしたアイテムが箱に入って届き、自宅で試着した上で気に入ったものだけを購入することができるのだ。
これらに追従するものとしては、Amazonの買う前に衣類を自宅で試着するプライム会員向けサービス「Prime Wardrobe(プライム・ウォードローブ」がある。
これは、お目当てのアイテムを3点以上選ぶと、それが自宅に届くという仕組み。1週間以内に試着して気に入ったものだけを手元に残し、残りは同梱されてきたラベルを使って返品するだけだ。
また、普段着や仕事着などを提案する一般的なスタイリングだけでなく、よりターゲットを絞ったサブスクリプションサービスも登場している。
「SweatStyle」は、運動の際に着用するフィットネスアパレルに特化したサブスクリプションだ。運動の習慣に関するクイズに答えると、「Terez」や「Nux」といったブランドの人気アイテムを中心に、トップス・ボトムス・スポーツブラなどのセットが毎月届く。5日以内に試着したら、欲しいアイテムだけを手元に残して購入できる。
さらに、購入を前提としない“レンタル”サービスもある。その代表格が「Le Tote」である。スタイリングの要素は購入型のサービスと同じで、一度に衣類3点とアクセサリー2点の計5点が届く仕組みだ。
月額59ドルを支払うと、ボックスを送り返すたびに新しいボックスが届くため、いろいろなアイテムを試しながらクローゼットを更新していく感覚で利用できる。気に入ったアイテムがあれば1週間でも数週間でも借り続けることができるという。
ファッションの地域、物理、心理の格差を解消できるか
「買う前に試着」というスタイルはこれまで、実店舗で行うものであった。それが大きく変わろうとしている。
今回の楽天の試みは、ファッションの地域、物理(在庫)、心理の格差を解消しようというものであるが、果たしてどこまで受けられるか。
同社は「楽天市場」という巨大なインターネット・ショッピングモールをかかえるだけに、その成果に期待したい。
img:NIKKEI