状態が良好なのは8%のみ、瀕死状態の世界遺産「万里の長城」

総延長6,260キロメートルに及ぶ世界最長の人工建造物「万里の長城」。ユネスコ世界遺産に登録され、新・世界七不思議に選ばれており、国内外から多くの観光客を呼び寄せる観光名所となっている。

しかし一方で観光客の過剰流入、人為的な損壊、自然侵食などで、万里の長城はいま瀕死状態にある。

交通アクセスの整備が進み、観光ツアーが増えていることから、万里の長城への観光客数は年々増加しているようだ。サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙によると、年間1,000万人が訪れているという。

観光客の過剰流入による損傷を防ぐため中国当局は「長城保護条例」を施行し、各区域に入場者数の制限基準を定めるように求めている。しかし地元紙が報じたところによると、万里の長城にある92カ所の観光区域のうち49カ所で入場者制限基準が定められていなかったことが明らかになっている。

観光客でごった返す「万里の長城」

また、地元住民らが万里の長城からレンガを盗み、それを観光客に売ったり、観光客が万里の長城内でキャンプ/調理をするなど、損傷を加速させる行為が増えており、状況は悪化の一途をたどっている。

地元メディアが中国国家文物局の調査結果として報じたところによれば、6,260キロのうち、30%にあたる1,962キロがすでに消失しているという。さらに中国長城学会によると、万里の長城全体で状態が良好に保たれているのはわずか8%しかないという。

人為的にせよ、自然侵食にせよ、歴史建造物の損傷を避けることはできない。歴史建造物の状態を良好に保つためには、限られた予算のなかでいかに効率的に修復を行うのかが重要となる。

しかし、万里の長城は巨大な建造物であり、ほかの歴史建造物に比べ修復コストが非常に高くなる。このため修復スピードが損傷スピードに追い付くことができず、現在の瀕死状態を生み出したと考えることができる。

世界最大のコスト高遺産「万里の長城」、修復にAIドローン導入

英テレグラフ紙が伝えた同国建設資材会社Travis Perkinsの調査レポートによると、新・世界七不思議のうち、もっとも建設コストが高いのは万里の長城であるというのだ。この調査は、現在の資材、機材、労働力を使って新・世界七不思議に指定されている歴史建造物を建設するとどれくらいのコストと日数がかかるのかを推計している。

それによるとコストがもっとも高い万里の長城の建設費用は540億ポンド(約8兆円)に上る。想定される建設日数は18カ月だ。

コストの高い順に見ると、万里の長城に次いで建設費用が高いのは、イタリア・ローマの「コロッセオ」で4億ポンド(約600億円)。次いでインドの「タージ・マハル」7,000万ポンド、ブラジルの「コルコバードのキリスト像」1,610万ポンド、ペルーの「マチュ・ピチュ」1,610万ポンド、メキシコの「チチェン・イツァのピラミッド」400万ポンド、ヨルダンの「ペトラ遺跡」120万ポンドとなっている。

建設費用の高さに応じて修復にも相応のコストがかかることが想定できるが、これらの数字からも万里の長城の修復がいかにコスト高になるのかがうかがえる。

また中国では人件費が高騰していることがよく報じられているが、このことも修復作業の遅延につながっていると考えることができる。

こうした状況のなか、万里の長城の修復作業をスピードアップすべく中国当局は2018年4月、人工知能ドローンを投入することを決定したのだ。

人工知能ドローンはインテル社のものを採用。空撮映像やセンサーデータによって損傷状態を正確に把握し、どの部分にどのような修復作業が必要になるのかを効率的に割り出すという。

「万里の長城」修復作業で採用されたインテルの人工知能ドローン(インテルウェブサイトより)

万里の長城のほとんどの部分は断崖絶壁の上に位置している。危険な場所で作業員がカメラを抱え、撮影していくことを想像すると、気が遠くなるほどの時間が必要になり、その分人件費もかさむことになる。

人工知能ドローンを活用することで、撮影だけでなく分析を自動化できるようになれば、修復作業の一部を圧倒的に効率化できるようになることは想像に難くない。コストを抑え、修復作業を効率化できれば、損傷スピードを上回る速度で修復することが可能となるかもしれない。

始まったばかりの試みで、その効果が出てくるには時間がかかるかもしれないが、このプロジェクトが成功すれば世界各地の歴史遺産に応用していくことも考えられる。これからの展開にぜひ期待したいところだ。