英国ドローン産業、7兆円規模の経済効果
以前、世界の産業ドローン市場の予測規模は1,270億ドル(約14兆円)とお伝えしたことがある。これはPwCが2016年5月に発表したレポートで明らかにした数字だ。
このレポート発表からちょうど2年後となる2018年5月、PwCはドローンに関する興味深い新たなレポートを発表した。
このレポートでは、英国におけるドローン利用が促進された場合、2030年までに420億ポンド(約7兆円)もの経済効果が生み出される可能性を指摘しているのだ。420億ポンドは、英国GDP(国内総生産)の2%に相当する規模になる。
英国は直近2018年1〜3月期の実質GDPが前期比で0.1%しか伸びておらず、経済成長はこの6年で最低水準に陥っている。同レポートは、ドローン利用を促進することで、低迷する英国経済に活気を与えられることを示唆している。
420億ポンドの内訳は以下のようになっている。
最大は公共分野で114億ポンド、次いで金融・保険(104億ポンド)、建設・製造(86億ポンド)、卸・小売(77億ポンド)、交通・ロジスティクス(12億ポンド)、メディア(12億ポンド)、農業・鉱業(11億ポンド)。
また2030年までに英国のドローン産業では、62万8,000人の雇用が生まれる見込みという。
同レポートの担当者は、これらの予測を実現させるためには、まずドローン規制の整備が必要と強調。一方、現在英国で「ドローン法」草案が議論されるなど、規制に関して着実に前進が見られると述べている。
また、ドローン利用が経済に恩恵をもたらすことを国民に認知してもらうことも急務であると指摘。ドローンはまだ「おもちゃ」として見られることが多いが、産業利用に大きな機会があることを知ってもらい、社会全体でドローンを受け入れる環境をつくりだすことが重要であると語っている。
レポートは、2030年までに7万6,000台の産業ドローンが英国の空を飛んでいると予測。このうち36%は防衛、教育、健康など公共分野に関連するものという。
ドローンを使う英国の消防士
英国発のドローンスタートアップ、代替可能エネルギー移行で需要増も
こうした前向きな予測も手伝い、英国拠点のドローン・スタートアップへの注目も高まっているようだ。
英ブリストル発のPerceptual Roboticsは、風力発電風車の検査を自動で行うドローンを開発するスタートアップ。風力と太陽光発電を中心とした代替可能エネルギーへの移行を進める英国では、大型の風力発電風車が増えている。
しかし、その検査は人がロープで登り、目視で行っているため、検査のコストや生産性、さらに安全性の面で対策が必要と指摘されている。同社のドローンを活用すると、コストを最大で75%、検査時間を66%削減することが可能という。
ちなみに英国では2017年、風力と太陽光発電による発電量が初めて原子力発電の発電量を上回ったとして多くのメディアが報じている。
発電量の割合は原子力が21%だった一方、風力・太陽光は29%に上昇したという。風力だけでも15%を占めており、英国は代替可能エネルギー国家に向け着実に前進しているようだ。
イングランド北部の風力発電風車
このほかにドローンどうしの通信プラットフォームを開発するAccelerated Dynamicsや空撮マッピング管理システムを開発するSenSatなどにも注目が集まっており、今後さらなるスタートアップの登場、投資資金の流入が見込まれている。
英国はかつて産業革命を起こし、その卓越した経済力と軍事力で覇権国となった国である。しかし最新のGDPが示すように同国の経済はほとんど成長していない状況であり、危機感がつのっている。
こうした理由もあり、国内で新しい産業を他国に先駆け興そうとするモチベーションが高まっている。代替可能エネルギーへのシフトが加速するように、英国ドローン産業も一気に世界をリードするものになるかもしれない。