プロの写真家はなぜ、ストックフォトサイト「Unsplash」に写真を無償提供するのか?

unsplash-logoSimon Matzinger

例えば、自分がプロの写真家だとしよう。

もし自分の渾身の写真が、知らない間に世界中でタダで使われていたとしたら、怒りを覚えるのか、それとも喜ばしいと思えるのか、あなたはどう思うだろうか。

高クオリティで美しい写真を無料で提供する「Unsplash」

「Unsplash」は、高クオリティで美しい写真を無料ダウンロードできるストックフォトサイトだ。世界各地に住む6万5,000人以上のクリエイターが40万点以上の写真を無償で提供している。

どんな写真も何枚でもダウンロード可能(サイトにログインすら必要ない)、モックアップ用の仮画像から広告利用、Webページのアイキャッチ画像まで、個人利用・商用利用に関わらず、あらゆる用途に無料で利用できる。

無料のストックフォトサイトとなるとクオリティがまちまちだったりするが、Unsplashでは、一定のクオリティ、かつ解像度が3メガピクセルの作品しか受け付けていない。

Trello(トレロ)やMedium(ミディアム)など約1,200社のAPIパートナーに写真を提供し、これらのサービスで簡単に写真を引用できるようになっている。例えば、アプリのメニューから背景画像を検索すると、Unsplashのデータベースから写真を探し出してくれる。このAPIも完全に無料である。

2018年4月にはiOSアプリがリリースされた。主にiPadで使用するのに最適とし、気に入った写真が見つかったら、左隅へとドラッグし写真をダウンロードするか、マルチスクリーンモードで、写真を作業中のプロジェクトファイルへと直接落とし込むことができる。

ユーザーはこれだけのメリットを無料で享受できる。Unsplashに投稿する写真家たちは、どんな思いで写真を投稿しているのだろうか。

写真家は無料で写真を提供することに何のメリットがあるのか?

Unsplashは、2013年にカナダ・モントリオールを拠点にするCrew(クルー)という会社が始めたサービス。最初は会社の本業とは別に実験的にはじめたサイドプロジェクトに過ぎなかった。

Crewはクリエイターのためのビジネスマッチングサービスを運営しており、既存のクリエイター・ネットワークを活かす形で、Unsplashは誕生した。最初は「Tumblr」のブログテーマ用に、10枚の写真を無料提供するところから始まっている。

本業だったCrewを2017年5月に事業売却。Unsplashのサービスを発展させる方向にピボットし、2018年2月に725万ドル(約7.8億円)の資金調達を行った。

「新しいプラットフォームは産業を殺さない。それは(産業の)分布を変える」と、Unsplashの創業者でありCEOのMikael Cho(ミカエル・チョウ)氏は自身のブログで述べている

「インターネット以前は、写真の著作権を保有するほうが、写真のライセンスの価値が高かったため有益だった。今の課題は、ライセンスされている写真が価値を失っていることだ。写真に支払われるライセンス料は急速に下がっており、ストックフォトサイトに写真を販売したら、現在年間平均511ドルの収入になる。だが、これは2年前の約半分の金額だ」

Unsplashに投稿するメンバーの多くは、Unsplashに作品を共有することで、直接的な収入以外の価値を享受している。

数枚の写真を投稿すると、クライアントから仕事のブッキングが来た。Unsplashに写真を投稿したことで、本業を辞めフルタイムの写真家になった。そんな声を聞くことがあるようだ。

写真家にもよるが、年に約500ドルのライセンス料しか得られないならば、無償で写真を提供することで、それを“営業ツール”として活用したほうがいい。自分の作品が写真を必要としている多くの人々の目に留まることで、仕事を獲得する機会を増やせるわけだ。

Unsplashの登場で、ストックフォトサイトは写真を直接販売するよりも、いわゆる営業ツールとしての価値のほうが高まっているとも言える。

Unsplashはビジネスモデルを発明できるか?

従来型のストックフォトビジネスでは、ストックフォトサイトを通じて写真素材のライセンスが販売され、その売上の一部が写真家に還元されるモデルであった。大手では「shutterstock」や「アマナイメージズ」、「Adobe Stock」などがある。

Unsplashはどうか。現在40万点以上の写真があり、310億回以上ダウンロードされ、世界中のインターネットで毎秒2,083枚のUnsplashの写真が表示されるまでになり、大きく発展を遂げた。

しかし、それらの写真は全て無料で提供されている。どのようなビジネスモデルが想定されているのだろうか。

CEOのMikael Cho氏のインタビューによれば、ビジネスモデルは広告モデルをつくることと答えている。

「現在Unsplashは、写真を探すためのGoogle検索に近くなってきている。大きな事業プランとして、これにネイティブ広告コンポーネントを持たせることができると考えている。例えば、『靴の写真』を検索すると、Unsplashには素晴らしい靴の写真が次々と上がってくる。ここにナイキが関わるとすれば、そこにナイキのネイティブ広告を入れ込むことができる。しかも、いかにも『広告っぽいバナー』ではなく、高クオリティな写真だったら良い」

現状では、この広告モデルは存在していない。調達した資金を元手に、ビジネスを拡大していくフェーズなのだろう。

Unsplashは、写真家の稼ぎ方をどのように変えることができるのか。筆者も何点か写真をAdobe Stockで販売しているが、1枚売れたところで100円にもならないライセンス料が還元される。ひとりの写真家がストックフォトサイトで写真を販売するだけで生活するには、それ相応の写真点数とストックフォトサイト向きの写真素材作成スキルが必要なことが肌感としてわかっている。

Unsplashで写真素材を無償提供することで、多くの人に目に触れるようにしたほうが、写真家個人のビジネスチャンスは大きく広がる可能性が高いのかもしれない。時代が変われば、価値の軸も変わり、ビジネスモデルも変わるのだ。

今やUnsplashは、その完全なるフリーモデルで順調にサービスを拡大させ、すでにWebデザイナーやグラフィックデザイナー、ブロガーなどのクリエイターにとっては、なくてはならない存在になっている。サービスに持続性を持たせるため、ビジネスモデルの実装が待たれている。

img: Unsplash

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