普段私たちが利用する日用品などには、生物の能力や性質を応用した技術が使用されていることはご存知だろうか。近年ではテクノロジーの発展に伴い、現存する生物や標本の研究が加速し、人類はその恩恵を享受している。

今後は、環境汚染の進行による生物の絶滅や標本の劣化などの懸念から、標本形態をデータとして残すことが急務とされている。

そこで九州大学持続可能な社会のための決断科学センターの鹿野雄一准教授らは、福岡県保健環境研究所、山階鳥類研究所、三重県総合博物館、滋賀県立琵琶湖博物館と共同で調査研究を行い、日本産のドジョウ類全35種類について、各標本をCTスキャンし、その3Dモデルをオンライン公開した。

この中には既に絶滅したジンダイドジョウ(三重県総合博物館所蔵)やヨドコガタスジシマドジョウ(大阪市立自然史博物館所蔵)の貴重な標本、また、種を命名する際に登録された模式標本なども含まれているという。

デジタル化することで標本の形態を半永久的に保存



(上)絶滅したジンダイドジョウ(三重県総合博物館所蔵)の骨格の3Dモデル
(下)天然記念物アユモドキ(琵琶湖博物館所蔵)のCTスキャンデータ

日本においてドジョウの仲間は食用としてよく知られる「ドジョウ」の他に、未記載種や国外外来種を含め35種類が現在までに知られているという。これらのドジョウ類は多様な水環境において多様な形態に進化した。このような進化の仕組みを解明する上では、近年普及した遺伝子研究だけではなく、原点に立ち戻って形態からのアプローチも必須だ。同研究がそのドジョウ類の進化の謎を解明する上で役立てられていくことが期待されるという。

一方、日本の水環境は水棲生物にとって悪化の一途をたどっており、ドジョウ類においても例外ではない。先日公表された「環境省レッドリスト 2018」では、かつて身近な魚であった「ドジョウ」が準絶滅危惧に選定されたことが話題になった。日本各地で多くのドジョウ類が絶滅に瀕しており、中には既に絶滅した種もいる。生物標本はたとえ標本庫などに丁寧に保存されていても、年々劣化する。

同チームでは、デジタル化することでその標本の形態を半永久的に劣化なく保存するとともに、オンラインで広く公開することには学術的にも大きな意味があるとしている。

テクノロジーで加速する恐竜研究

今回のようなテクノロジーと融合した生物研究の取り組み例としては、恐竜研究での活用例がある。

オーストラリア・クイーンズランド大学の古生物研究者らが、ドローンやレーザーを用いて、より精細かつ広範にデータを集める最新の方法を、科学ジャーナルサイトPeerJに寄稿した論文(2017年3月発表)にまとめている。

この論文によると、飛行機、ドローン、そして地上から写真やレーザーのデータを取得することで、発掘現場の3Dモデルを迅速かつ精細につくることが可能という。

この3Dモデルから、これまでは把握することが難しかった情報まで読み取れる。たとえば、恐竜の種類やどのように移動していたのか、また恐竜の大きさや移動スピードなども推測することができるようだ。


Romilio A, et al. (2017) A multidisciplinary approach to digital mapping of dinosaurian tracksites in the Lower Cretaceous (Valanginian–Barremian) Broome Sandstone of the Dampier Peninsula, Western Australia. PeerJ 5:e3013より

実際、2018年4月にスコットランド・スカイ島で大型恐竜の化石発見に関する論文が発表されたが、この研究でもドローンが活躍したことが報じられている。発見されたのは竜脚下目という大型の草食恐竜の化石。またこれらの草食恐竜を捕食していたとみられる肉食恐竜の痕跡も発見された。

これまでスコットランドで発見された化石は少なく、貴重な発見だと伝えられている。発掘場所には断崖絶壁の崖が多く、ドローンの力が存分に発揮されたようだ。

人類の命題。それは生物の詳細を後世に伝えること

多くの生物が絶滅の危機に瀕している。我々人類による環境破壊が要因となっているものも多い。そう考えれば、我々の責任は重大だ。

そのためには、絶滅を防ぐことはもちろん、今回のように標本の形態を半永久的に保存し、後世に伝えることなどが我々に命題として課せられているのだ。

img:NIKKEI