わずかな所要時間で街中の走行する車や建設物を製造することを可能にした「3D技術」が世界中の話題となっている。
以前は、プリンターの導入コストが高く、家庭に普及はしていないため、あまり馴染みがないのが印象である。しかし業務用としての3Dプリンターは確実にその数を伸ばしている。
そのなかで、意外な分野での3Dプリンターの活用事例も報告され始め、業界に新しい旋風を巻き起こしている。
3Dプリンティング市場は2020年までに2倍に。IDC Japan株式会社が市場拡大を予想
以前までは、作るのに非常に時間がかかり、一部の人間しか作ることができなかった部品も3Dプリンターの登場により、その内容は一変した。
3Dプリンターは2014年に個人向けのモデルが登場したことを背景に家庭でも一部普及した。しかし、家庭向けの場合は操作性や作成するのに時間がかかる影響から普及率は高いとはいえない。
しかし、業務用産業界では一般的といえるほどにまで普及してきており、従来の石膏で作成するもの以外にも金属やプラスチックなどの加工もできるように毎年進化してきている。
そのなかで、IT関連の統計データを扱うのIDC Japan株式会社が日本国内の3Dプリンター市場について興味深い統計結果を発表した。
同社のデータによると2017年の3Dプリンティング市場の売り上げは308億円で、2020年には市場規模が476億円になる見通しだ。
この3Dプリンティング市場の売り上げは、3Dプリンター本体、関連サービス、造形市場の3つで構成されており、それぞれ売り上げは増加傾向にある。IDCはこれらの市場は今後も業務用として増加していると予測している。
個人向け3Dプリンターに関しては、作れないものがあることが判明したためか、市場は縮小している。一方で機械そのものの質の向上から業務用として今後も市場は拡大する見通しだ。
出荷台数の増加により、関連サービスや材料市場も同時に拡大することは間違いないだろう。また、利用者の幅も今後は増加するはずだ。
そしてその結果を表すように、すでに意外なところから3Dプリンターは注目されはじめているという事例もある。
フードデザインに衝撃を与えた3Dプリンターの可能性
パティスリー専門誌『so good…』用に作られた「Chocolate Block」(写真:Dinara Kasko)
3Dプリンターで作れるものは、なにも部品やチェスの駒だけではない。今最も注目を集めているものはパティスリーで使われる型だ。
ウクライナ出身のパティシエ、Dinara Kasko氏は作建築家としてのバックグランドを持ち、自身のパティスリーのデザインに3Dモデリングと建築技術を加えた新しいスタイルのパティシエだ。
彼女のパティスリー作りは味と同様に見た目にも力を入れている。自らのパティスリーに見た目の部分でオリジナリティを加えるために着目したのが、3Dプリンターで思い描いたとおりのシリコンの型を作ることだった。
初めは友人の3Dプリンターを使ってシンプルな幾何学モデルを作っていたが、そのうち質・量ともに友人のプリンターでは間に合わなくなり、自分のプリンターを購入。型の鋳造からパティスリーの調理、写真・ビデオ撮影まで、全行程をコントロールできるようにした。
泡の形を模倣した「Bubble」(写真:Dinara Kasko)
3Dモデリング技術でケーキ型をデザイン(写真:Dinara Kasko)
Dinara Kasko氏の作品は、3Dプリンターの進化やソーシャル・ネットワーク上のビジュアルコミュニケーションの広がりにより、フードはデザイナーの間で注目され、新たに試される領域となってきた。
ロンドン、ニューヨーク、アムステルダムなどでは、3Dプリンターを使ったオリジナルキャンディを販売する店も登場。オランダ・アイントホーフェン市を拠点とする「byflow」はレストランやパティスリー向けにカスタマイズされた3Dプリンターの販売も行っているそうだ。
3Dプリンターによるデザイン変革
幾何学デザートシリーズより「3x3x3球体」(写真:Dinara Kasko)
市場拡大が見込まれる3Dプリンター市場だが、今後は業界を問わずに用いられることが予測される。
やがて身の回りのものの多くに3Dプリンターが関わっている時代が来るだろう。そのときには、インフラ設備などの構築も3Dプリンターで代用され、作業効率の向上が格段にみられるかもしれない。
img:NIKKEI