サイバー攻撃といえば、一般的にウィルスやワームなどのマルウェアを感染させ、データを盗んだり、改ざんしたり、さらには外部から端末を操作したりといったようなことをいう。

しかし、今後「音」を使ってパソコンを物理的に破壊する新たな攻撃が増えてくるかもしれない。

2018年5月に米ミシガン大学と中国浙江大学の研究者らが発表した論文で、音響攻撃によってパソコンに組み込まれているハードディスクやオペレーティングシステムにダメージを与えられることが判明したのだ。また、音響攻撃では通常専用機器が用いられるが、同研究が示した方法では専用機器は必要なく、パソコンにビルトインされているスピーカーで損傷を与えられるという。

仕組みはこうだ。特定の周波数の可聴音を流すことで、ハードディスクの磁気ヘッドとプラッタ(磁気ディスク)を振動させ、この異常振動によりハードウェア、ソフトウェア両方に損傷を与え、ファイルシステムを破壊することができるというのだ。また人間には聞こえない超音波でも、ハードディスクの磁気ヘッドを停止させ、エラーを起こすことが可能という。不用意に再生してしまった音声ファイルに、このような悪意ある周波数が入っていると、パソコンが破壊されてしまうかもしれないということだ。

研究者らによると、この音響攻撃を使えばデスクトップやラップトップだけでなく、監視カメラも攻撃できると指摘する。最近の監視カメラは、デジタル・ビデオ・レコーダー(DVR)に映像を記録している。DVRにはハードディスクが組み込まれており、音響攻撃によってハードディスクを攻撃することができるのだ。攻撃を受けると、監視カメラは映像を記録できなくなるという。

研究者らは、パソコンなどへの音響攻撃を防ぐためには、パソコンの中に音を吸収する素材を使ったり、影響があると考えられる音を再生しないソフトウェアを導入するなどの対策が必要になると指摘している。

音によってハードディスクに損傷を受けたという事例は、これまでにいくつか報告されている。

2016年9月ルーマニア・ブカレストにあるINGバンクのデータセンターで消火システムの点検を実施した際、消火用のガスが勢いよく噴出、その際に出た噴出音でサーバーとデータストレージが損傷を受け、データセンターが10時間閉鎖された。

また、2018年4月ナスダックがスウェーデンに設置しているデータセンターでも、INGバンクと同様に消火システムのガス噴出で発生した音によってサーバーがダウンしたという報告もある。

上記で紹介したのはパソコンやデータセンターといった物体にダメージを与える事例であるが、特定の可聴音や超音波は人間にもさまざまな影響を与える可能性があるため注意が必要だ。

キューバの米国大使館やカナダ大使館の職員らが、聴覚障害、吐き気、頭痛を訴える事件が報じられたことがある。当初攻撃元が分からず謎の事件とされてきたが、米政府は捜査を行い、超音波を発する音響装置が使われたと結論づけている。また最近では中国の米国大使館でも同様の症状を訴える職員が出ており、米メディアなどは中国による「音響攻撃」と報じている。

一方、音響兵器ではなく、粗悪な盗聴装置から意図せず発せられた超音波が影響した可能性を指摘する専門家もいる。どちらにせよ、音が影響を及ぼしたということに変わりはない。

これらの最新研究や事例は、音が十分脅威になること示しており、自分の身体だけでなく、パソコンなどの有形資産をどのように守っていくのか、意識を高め、危機感を醸成してくれるはずだ。