海中に魚よりゴミが多くなる時代。その理由と原因となる国々、プラスチックエコノミーの行末

2050年ごろ海中では魚よりプラスチックゴミの方が多くなるかもしれないーー。世界経済フォーラム、マッキンゼー、エレン・マッカーサー財団がまとめたレポートで明らかになった驚がくの予測だ。

またこのレポートでは、プラスチックゴミがリサイクルされないことで、世界全体で年間800〜1,200億ドル(9〜13兆円ほど)もの経済損失を生み出していると指摘している。

都会で暮らしていると気付きにくいかもしれないが、プラスチックゴミによる海洋汚染は世界中で深刻化しており、いま各国は問題解決に向けて取り組みを加速させている。

プラスチックゴミによって海洋生物が傷つき、生態系が影響を受けるという問題だけでなく、魚介類を食べることで人間がプラスチックを摂取してしまう可能性も指摘されている。海の近く、都会関係なく、世界中の誰もが影響を受ける問題として、活発に議論されているグローバルアジェンダの1つとなっている。

今回は、中国や英国が最近始めた環境対策を紹介しつつ、プラスチックゴミが世界にどのような影響を及ぼしているのか、その現状をお伝えしたい。

プラスチックゴミにポイ捨てタバコ、ゴミで埋め尽くされるビーチ

インドネシア・バリ島のビーチがゴミで埋まっている映像を見て衝撃を受けたことがあるのではないだろうか。

美しいはずのビーチがゴミだらけで非常に悲しい気持ちになるが、残念ながらバリ島のゴミ問題は氷山の一角。インドやハワイなど世界にはゴミだらけのビーチが多く存在するのだ。

冒頭で紹介した世界経済フォーラムなどがまとめたレポートは、2050年海中に漂うプラスチックゴミの量がおよそ8億5,000万〜9億5,000万トンに達するのに対して、魚は8億1,200万〜8億9,900万トンにとどまり、ゴミの量が魚の量を上回る可能性を指摘している。

同レポートが参照しているデータによると、海には現時点で1億5,000万トンのプラスチックゴミが漂流しているという。2010年には1年間で800万トンのゴミが海に流出、2015年は910万トンが流出したという。海のゴミ流出量は年々増加する見込みで、2010〜2015年は年間5.4%、2015〜2025年は6.8%、それ以降は3.5%ほどの増加率になるという。

なぜこれほどのゴミが海に流出してしまうのか。

ドイツのヘルムホルツ環境研究センターの研究者らが2017年11月に発表した論文によると、海に漂流するゴミの88〜95%がたった10本の河川から流れ出ているというのだ。その10本とは、長江、黄河、海河、珠江、アムール川、インダス川、ガンジス川、ナイル川、ニジェール川、メコン川だ。

これらの河川の近くにある都市や農村から直接廃棄されるケースや廃棄業者が河川に捨ててしまうケース、さらには廃棄物を管理するシステムが整っていないことなどが重なり、大量のプラスチックゴミが海に流れ出ている。

ポイ捨てされたタバコの影響も無視できない。

喫煙関連問題を取り扱う英国の団体ASHの調査では、世界では年間6兆本ものタバコが消費されているが、そのうち4.5兆本はポイ捨てされているというのだ。浜辺でポイ捨てされたものや、河川でポイ捨てされ海に流れ出た吸い殻によってさまざまな悪影響が発生する可能性があるという。

ガーディアン紙が専門家の話として伝えてところでは、吸い殻に残されたフィルターはプラスチックの粒子で作られたもので、海のなかでは微小の繊維となって大量に放出されるというのだ。これは「マイクロプラスチック(マイクロビーズ)」や「マイクロファイバー」による深刻な環境汚染問題につながるとされ、各国の環境団体が規制を求めている。また同紙は、米サンディエゴ州立大学の研究を紹介し、1リットルの水に吸い殻1つ入れるだけで、魚の命を奪ってしまう危険性があると伝えている。

海に流れ出たプラスチックゴミは、海洋生物が餌と間違えて食べてしまうことが多い。これは海洋生物の健康を損なうだけでなく、それを海鮮料理として食べる人間にも影響を与えることはあまり知られていない。

2014年と少し前になるが、ベルギー・ゲント大学の研究が話題となった。

この研究によると、欧州のシーフード好き、特にムール貝やオイスターを好んで食べる人は年間1万1,000個ものマイクロプラスチックを摂取しているというのだ。この研究結果はベルギーのデータから導き出されたもの。英BBCが2017年末に英国のデータで分析を行ったところ、英国ではおよそ2,200個のマイクロプラスチックが摂取されていることが判明した。

この研究では、マイクロプラスチックが体内に入ったとしても、人体に悪影響があるのかどうかはまだ分からないとしている。

プラスチックゴミ問題、各国は解決に向け本腰

プラスチックゴミ問題に歯止めをかけるべく各国は問題を解決するための取り組みを加速している。

世界最大のゴミ排出国と呼ばれる中国は、2018年の年明けから「ゴミ輸入禁止政策」を開始。中国はこれまで海外から資源ゴミを輸入し、リサイクルなどを通じて国内で利用していたのだ。中国にゴミを輸出していたのは、米国や英国、欧州諸国、日本も含まれる。中国政府の統計によれば、2015年には4,960万トンを輸入しているという。

中国はゴミ問題や環境問題で槍玉に上がることが多い。実際、前出の海を汚す河川トップ10には中国の河がいくつもランクインしている。しかし、中国が海外のゴミを受け入れていたことを考慮すると、流れ出るゴミのなかには海外のゴミも多く含まれていた可能性があり、中国だけの問題として見ることはできないはずだ。

中国がゴミ輸入を禁止したことで、これまでゴミを輸出してきた国々は、東南アジア諸国など中国の代わりにゴミを受け入れてくれる国を探しているという。一方、これをきっかけに、各国でゴミ処理やリサイクルの仕組みを強化する動きにつながるとも期待されている。

英国では2018年1月から「マイクロプラスチック(マイクロビーズ)」を含んだ製品の製造を禁止する規制を開始。年内には製品の販売も禁止される予定だ。

マイクロプラスチックとは、洗顔料、歯磨き粉、化粧品などに添加されるプラスチック粒子。非常に細かいため、下水処理施設では回収されず、河川や海に流れ込み、海洋生物の体内に蓄積されるといわれている。前出のゲント大学の研究では、ムール貝やオイスターにマイクロプラスチックが蓄積されていることが明らかになっている。目に見えないため、魚介類に蓄積されていても、知らず知らずのうちに摂取してしまっているようだ。

英国に先駆け、米国では2017年に連邦レベルの規制が施行。このほか、カナダ、フランス、台湾などでも規制が導入されている。また、ニュージーランド、スウェーデン、イタリアなどでも今後導入される予定だ。

「環境問題」といっても漠然としており、普段の生活ではなかなか実感できないが、自身の食べ物や健康が大きく影響される可能性があることを知ると、適度な危機感を持って考えることができるのかもしれない。

文:細谷元(Livit

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