日本各地にある伝統的な酒造ではインバウンド旅行者をよくみかけるようになった。というのも、世界的に和食だけではなく、日本酒がブームになっているからだ。

国内消費量は減少傾向(特定名称酒は日本酒ブームをうけて回復しつつある)なのだが、海外への輸出量は増加傾向にある。このため、むしろ日本酒産業は国外でも盛りあがっているといっていいだろう。

株式会社Clearは、1965年創業の老舗酒屋「有限会社川勇商店」の発行済み株式の全てを取得し、同社を完全子会社化した。これに伴い、同社の持つ酒類小売業免許を活用した新事業として、オリジナル日本酒を開発・販売する小売業に参入する。

日本酒ベンチャーが狙うは世界を見据えた「日本酒Eコマース」

Clearは、業界最大の日本酒専門メディア「SAKETIMES(サケタイムズ)」を運営する、日本酒事業に特化したベンチャー企業だ。以前より、「SAKETIMES」で培った全国各地の酒造メーカーとのネットワーク、熱量の高い読者コミュニティ、マーケットへの深い知見を活かした小売業への参入を検討しており、川勇商店と協議を進めていた。

今回、発行済み株式の全てを取得し、同社の完全子会社化にいたったという。同社の持つ酒類小売業免許は、小売業における課税移出数量・品目・地域の制限がないため、今後、免許上の制限というボトルネックのない事業展開が可能となる。

また、Clearは新事業として「SAKE100」というEコマースサービスの立ち上げを進める。

このサービスでは、「100年誇れる1本を。」をテーマに掲げ、すべての商品をClearと酒蔵の共同でオリジナル開発する。高品質・高価格な「プレミアム日本酒」だけをインターネットを通じて販売していく方針だ。

これにともない、楯の川酒造(山形県)と共同開発した第1弾商品『百光 -byakko-』は、クラウドファンディングサイト「Makuake」にて先行販売を実施し、720mlで17,800円(税・送料込み)という高価格商品ながら、プロジェクト開始からおよそ3時間で目標金額を達成。最終的には390万円を超える支援獲得にいたったという。

「SAKE100」は世界を代表するSAKEブランドを目指し、国内外で事業展開していく。国内はD2Cコマースとして、少数精鋭のオリジナルラインナップを拡充。高い付加価値を有する商品を継続的に販売していく方針だ。同時に海外への輸出交渉もスタートしており、北米・アジア・ヨーロッパを中心とした各国へと商品を展開する。

なお「SAKE100」のサービスリリースは2018年7月中旬を予定。

国内の出荷量は減少するも「質」のニーズが高まる日本酒

ここで、国内における日本酒出荷量をみてみよう。農林水産省が2017年に発表した「日本酒をめぐる状況」によると、日本酒の出荷量は平成に入ってから減少傾向にある。近年では60万klを割り込むぐらいの出荷量となっており、これはピーク時の約1/3だ。

その一方で、消費者の“質が保証された日本酒”を飲みたいという傾向が高まっていることから、吟醸酒や純米酒などの原料・製造方法が一定の基準で定められている特定名称酒の出荷量が増加しているという。

また、海外輸出に関しては「輸出量」以上に「輸出金額」の伸び率が大きいことから、国内同様に嗜好性の高い商品への需要が高まっていると考えられる。国内でも2010年代からは1本数万円の高価格商品も出始めており、「安価な日本酒を大量に消費するスタイル」から「高品質なお酒を少しずつ嗜むスタイル」へと、日本酒のニーズが時代と共に変わってきているのだ。

一方で、現状では変化していく消費者ニーズに日本酒業界が対応しきれていない。日本酒を評価する価値軸が画一化され、商品価格の幅が広がらず、結果として「高価格市場」が形成されていない。

「SAKE100」で日本酒の高価格市場の確立を目指す

このような背景のもと、Clearは、「SAKE100」によって日本酒における高価格市場の確立を目指す。日常ではなく非日常で味わう、嗜好品としての日本酒の魅力を多様な価値軸をもって打ち出していくという。これにより、ワインやウイスキーのように日本酒がSAKEとして世界中で認知され、親しまれていく未来を志すという。

しかし、Eコマースで日本酒を販売するには「通信販売酒類小売業免許」を取得する必要がある。この免許は比較的容易に交付を受けることができるが、前会計年度の品目ごとの「課税移出数量」が3,000kl以上の国内酒造メーカーが製造する酒類はこの酒販免許では扱えず、販売可能な国産の酒類は一定以下の規模の醸造所で製造されたものに限定されるという。

この制限がかからないのは、1989年5月以前に発行された酒類小売業免許となる。

今回締結した株式譲渡契約により、Clearの運営するEコマースサービスにおいては、課税移出数量・品目・地域の制限なく商品を販売することが可能となるのだ。

飲んだ日本酒を記録して好みの日本酒を見つけるアプリ「さけのわ」

「さけのわ」という日本酒アプリをご存じだろうか。これは、日本酒に関する感想を投稿でき、好みの日本酒を見つけることができるというアプリだ。

この「さけのわ」が2018年1月に投稿された感想を解析することで、都道府県ごとの味わいの特徴をみることができる機能をリリースした。

これらは、“華やか”、“芳醇”、“重厚”、“穏やか”、“ドライ”、“軽快”の6つの特徴で分類されチャート化されているため、都道府県ごとの日本酒の味の特徴がどんなものかが一目瞭然にできるというもの。

このチャートは「さけのわ」が学習した各都道府県産日本酒の味わいを統計処理して算出している。もちろん、個別の日本酒にはこのチャートと相似にならない様々な味わいが存在しているが、都道府県全体として、日本酒の味わいがどういった傾向にあるのかというものがわかる。

そのため日本酒の銘柄が分からなくても、地域の傾向で好みの味を選ぶことが可能となっている。

Clearが挑戦する日本酒の高価格市場の確立

今回、メディアが老舗の酒蔵を買収して、日本酒業産業に参入するというユニークな事態になった。そして、目指すのは高価格市場の確立だ。

高級日本酒を国内のみならず海外にも展開するというClearの挑戦。クールジャパンをどこまで盛り上げられるか、見守りたい。

img: PR TIMES , さけのわ