テクノロジーの発展は新規事業を生み出し、その恩恵として多くの雇用が創出されている。雇用機会の増加は、人口増加や観光業界の繁栄をもたらし、経済への相乗効果が見込まれるため、政府も率先的に取り組む項目となっている。

Eコマース最大手のAmazonは、今後2年間にアイルランド国内で1,000人以上の正規雇用を創出すると発表した。

予定人数の2倍の1,000人を新規雇用

Amazonは6月18日、ダブリン中心部に総面積約1万5,800m2のビルを開設した。ここに加え、ダブリン県北部、ブランチャーズタウンとタラにも高技能職が配置されるという。同社は2016年に発表した2年間で高技能職500人を増員するという計画を予定より9カ月も早く達成した。今回発表された1,000人の新規雇用はその倍の人数になるのだ。

募集職種には、現時点でソフトウェアエンジニア、ネットワーク開発エンジニア、データセンターエンジニア、ソリューションアーキテクト、システムエンジニア、光学開発エンジニア、セキュリティスペシャリスト、ビッグデータスペシャリスト、DevOpsエンジニアに加え、アマゾンやアマゾンウェブサービス(AWS)双方の幅広い技術管理職を想定しているという。

この新規雇用により、Amazonはソフトウェア工学、研究、カスタマーサービスの中核拠点であるアイルランドに増資する。

AWSアイルランドのカントリーマネージャー、マイク・ベアリー氏は次のように述べている。

「現在、アイルランド国内のAmazon社員は2,500人を超えている。アイルランドは才能ある人材が豊富で、人員増加目標も前倒しで達成できた。急速に事業を拡大するAmazonにとっては申し分のない場所と言える。」

Amazonとアイルランドの幸福な関係とは

Amazonは、2004年9月にアイルランド国内に最初の事務所を開設して以来、アイルランドへの投資を拡大し、2006年4月にコーク県にカスタマーサービスセンターを開設した。

同センターの総面積は現在約4,400m2を超え、教育デザイナーからサポート技術職、運用管理職、キャパシティプランナーまで幅広い職種で1,000人以上を雇用しているという。2007年11月にはアマゾンウェブサービス(AWS)が初のEU域内向け事業をアイルランドで立ち上げた。

現在、アイルランド国内のAWSチームは、アカウントマネージャーをはじめとする高技能の人員でチームを編成しており、リテール業務、カスタマーサービス、セラーサービス、デバイス、AWSなど、Amazonの事業を支援する新技術の設計を担当している。また、アイルランド国内の2,500人を超えるAmazon職員のうち1,000人以上がデータセンター業務に携わっている。

新規雇用の創出に加え、タラ工科大学(ITT)と協力して、20人の学生がデータセンター技術者になるための研修をうけられる奨学金給付プログラムに出資した。研修期間の間、生徒にはアイルランド国内のAWSデータセンターで有給の実務研修に申請する機会が与えられる。そして、ここで修得した学業単位はITTのITマネジメント理学士号の単位に組み込まれ、同大学の全日制または生涯学習プログラムを通してプロレベルの技能の習得を可能にする。

街自体が「Amazon化」したシアトル

このように海外で積極的な展開を狙うAmazonであるが、その発展は、同社の本社がある米国シアトルにどのような影響をもたらしたのだろう。

現在、Amazon本社の従業員は約4万人だ。2000年以降、この地域では新たな雇用がのべ約10万件生まれた。Amazonの急速な成長に影響を受けようと、ほかのスタートアップもシアトルに集結してきた。

また、2018年1月、シアトルにレジのないコンビニ「Amazon Go」がオープンした。レジに並ぶ必要がない自動精算が売りのAmazon実店舗だ。このすぐそばにAmazon従業員のためのワーキングスペース「Sphere(球体)」という植物園がある。これらは、一種の名物として知られているらしい。

さらに、大きなビルのほとんどがAmazon関連の建物だと語る現地人もいるという。このように、街自体がAmazon化したといえるほど、シアトルにとってAmazonの存在は大きなものとなっているのだ。

Amazonの発展がシアトルに多くの雇用をもたらし、観光や出張といった訪問者が増えることで観光産業にも良い影響がでている。

しかし一方で、ハイスキル人材が次々に流入してきたことで、シアトルが深刻な住宅不足に陥っているのも事実だ。結果、賃料はどんどん高騰していった。

家賃の価格が高騰し続ける中、全米で37の州が路上生活者の減少を果たす中、ワシントン州は新たに約1,400人の路上生活者を生んでしまった。

加えて、中心街で働く人たちが通勤時にUberやLyftを頻繁に利用することで、渋滞問題も見逃せなくなっているという。

雇用創出の裏に潜む影

Amazonの新規雇用は歓迎すべきことである。冒頭でも述べたとおり雇用創出は企業だけでなく、国をも活性化させる役割を果たす。しかしシアトルの例を紹介した様に、Amazonによる雇用創出は不運にも別の問題をもたらしているのも事実である。

今回Amazonは技術管理職の高度人材を募集し、ソフトウェア工学、研究、カスタマーサービスの中核拠点であるアイルランドに増資すると発表しているため、アイルランドもこれまでの経緯の例外とはいえないだろう。

Amazonの雇用創出がアイルランドにどのような影響をもたらすのか、今後の展開が注目される。

img:Value Press