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AIは仕事における業務や私たちの生活内でのさまざまな効率化に寄与している。発展途上ではあるが、その中でも期待されている技術として自動運転が挙げられており、実用化に向けて世界中の自動車メーカーや関連企業が争うように研究や開発に取り組んでいる。
GPSを用いて宇宙から操作するリモートセンシング機能などがすでに実装されている自動車もあり、実証実験が急がれている。
そして今回、ソフトバンクも自動運転バス事業に乗り出した。
ソフトバンクグループのSBドライブ株式会社と、中国の百度(Baidu,Inc.)の日本法人であるバイドゥ株式会社は、百度が提供する自動運転システムのプラットフォーム「Apollo(アポロ)」を搭載した自動運転バス「Apolong(アポロン)」の日本での活用に向けて協業することに合意した。
商業用自動運転バス「Apolong」を日本で展開
百度は、中国の主要なインターネット検索プロバイダーだ。中国の検索市場において第1位のシェアを有しており、米国NASDAQへ上場している。今回SBドライブは、この百度と組み、自動運転バス事業に乗り出す。
SBドライブは、自動運転技術を活用したスマートモビリティーサービスの事業化を目指しており、自動運転バスの実用化を目指していた。
一方、百度の日本法人であるバイドゥは、百度が蓄積してきたAIの研究成果である自動運転技術を活用し、日本が抱える交通・移動手段の課題の解決を考えていたという。
そして、今回SBドライブとバイドゥの思惑が一致し、合意にいたった。使用する技術は、SBドライブが開発中の遠隔運行管理システム「Dispatcher(ディスパッチャー)」と、百度の自動運転システムのプラットフォーム「Apollo」を連携させたもの。これにより、日本の公道における自動運転バスの実用化を目指す方針だ。
自動運転バスとして使用を予定しているのは、中国のバス車両メーカーである厦門金龍聨合汽車工業有限公司(金龍客車)の商業用自動運転バス「Apolong」である。
このため、両社は金龍客車と協業し、「Apolong」を日本で活用するための仕様変更などを進め、2019年初期までに実証実験用車両を含めて10台の「Apolong」を日本に持ち込む予定だ。また、2018年度中に日本で実証実験を開始する予定である。
世界中で進む無人自動運転バスの開発競争
一方、目を海外に向けると、フランス、イギリス、フィンランドなど世界ではすでに無人自動運転バスの開発競争がすでに始まっている。
まず、注目されるのがフランスの自動運転の電動バスを開発するNavyaである。同社は約10年にわたり開発を進めており、2017年に、パリのビジネス街であるラ・デファンス地区において、無人運転シャトルバスの試験運行を開始した。同試験は、電気自動車タイプの最大15人載りの小型バス「NAVYA ARMA」を3台使い、3つのコースで定期的なシャトルサービスとして運行された。
また、イギリスでは、「Greenwich Automated Transport Environment (GATEway)」と呼ばれる試験が行われており、ロンドンの王室特別区で無人走行バスを運用している。また、ヒースロー空港でも無人運転方式のバス「Heathrow POD」の運用が行われており、無人運転式のバスに関する取り組みが進んでいる。
フィンランドの首都ヘルシンキでは、フランスのスタートアップEasyMileが開発した自動運転バス「EZ10」が試験走行を繰り返してきた。フィンランドでは公道を走るのに法律上、乗り物に必ずしも運転手が載っている必要がないという。このため、実用化に向けたハードルが少ないというのが強みだ。
さらに、EasyMileは日本でもDeNAと連携して私有地における無人運転バスを使用した交通システム「Robot Shuttle(ロボットシャトル)」を開発している。
ロボットシャトルは、2016年8月に千葉市の公園敷地内で試験走行しており、同年11月には秋田県仙北市の田沢湖畔で、国内では初となる公道での走行実験を行っているのだ。
AIによる自動運転車の可能性と課題とは
ドイツ・アウディAGの取締役会会長、ルパート・シュタートラー氏が、国連会議「AI for Good Global Summit」(よりよき世界のためのAIグローバルサミット)において、AI活用事例のひとつとして、アウディが現在、積極的に開発に取り組んでいる自動運転技術を例に挙げながら、以下のようにそのメリットを語った。
「自動運転が飛躍的な進化を遂げるためには、AIは必要不可欠。社会的な側面から見ても、自動運転の技術により、クルマでの移動はより効率的で、もっと快適になる。でもそれ以上に重要なのは、自動運転によって人々の生活がより安全になるという点だ。自動運転が普及すれば、交通事故の件数は大幅に減ることになる。」
事実、アウディの自動運転テスト車両「ジャック」には、サーキットのように限定されたクローズドコースだけでなく、一般の高速道路において求められる運転操作をも完璧にクリアする、高度なテクノロジーが搭載されているという。
しかし一方で、シュタートラー氏は、以下のように自動運転にはまだまだ大きな課題が残されているとも指摘する。
「自動運転の実現には、世界各国で共通する法律の整備や、一般の方々からの認知度など、テクノロジー以外の変化や新たな社会の枠組みが必要。中でも、倫理面での懸念が深刻だ。」
シュタートラー氏の言う通り、自動運転における倫理面での課題としてよく知られる例が、事故がもはや不可避という危険な状況の中での対応だ。たとえば、そのまま直進しても、どちらにステアリングしても必ず誰かが傷ついてしまうというケースが発生した場合だ。
そのような事態において、AIはどう判断するのか、クルマ自身が判断するということが、倫理的に容認されるのか?といった問題について、オープンな議論が必要だとしている。
国内外で期待は高まる自動運転システム
このようにまだまだ課題は残されているものの、自動運転が我々の生活にもたらすメリットは計り知れない。
内閣府が発表した「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 自動走行システム 研究開発計画」によると、「自動走行システムについては、交通事故死者の低減や交通渋滞の緩和による環境負荷低減、また、高齢者はじめ、交通制約者の移動支援や地方の活性化等の課題の抜本的な解決といった社会的意義と、自動車産業の競争力向上や関連市場の拡大等の産業的意義の両面から、国内外での期待は高まる」としている。
かつて、バスには車掌がいた。それが、乗り降りがセルフになり、バスの乗員は今では運転手一人だ。そして、その運転手もいなくなろうとしている。SBドライブとバイドゥの取り組みが、どのように日本が抱える交通・移動手段の課題の解決に寄与するか、実証の結果に期待したい。
img:NIKKEI